【完結】もしそこに、姫が

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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8・アロンの手

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 エミリマの言葉は切ない嗚咽に変わり、アロンは無力感に襲われた。
 元気になって欲しくて村を出たのに、帰ってから悲しませてばかりだった。
 ごめんな。
 胸の内で呟いてから、アロンはエミリマにだけ聞こえるように、声を落とす。

「北に向かって進め。国境を越えて、トープルカリアへ逃げろ。俺も後で追いつく」

 することは、ひとつしかなかった。
 アロンは、できる限り安心させられるようにと、震えかける声を抑えて、少し明るく言う。

「だから……一緒に、行こうな」

 上手く伝えられた自信がなくても、時間は待ってくれない。
 アロンは剣を怪我のない手に持ち直すと、前方に立ちふさがる無傷の近衛騎士へと一気に突き進む。
 緊迫の硬直状態が破られ、アロンを迎え撃つ騎士はすぐに身構えたが、アロンは素早い一閃で、相手の剣をなぎ払った。
 ひるんだ騎士の脇腹に、衝撃がめり込む。
 近衛騎士は横倒しに吹っ飛んだ。アロンはすぐに振り返り、負傷している残りの騎士を警戒する。
 前方をふさいでいた騎士は今倒したので、すぐに動けないはずだ。
 後は背後からの追跡を遅らせられれば、そのぶんだけ、エミリマの逃げられる可能性が上がる。

「エミリマ、走れ!」

 アロンは傷付いた近衛騎士たちの前に立ちふさがった。
 血まみれの手で剣を握りしめ、殺気立った声で宣言する。

「何があっても、通さない」

 狂気すらにじませた気迫に、騎士たちは一瞬たじろいだ。
 しかし彼らにも後に引く選択はない。
 騎士たちは剣を握り直すと、アロンめがけて駆ける。

 アロンは身構えた。
 騎士たちは間合いに入りかけた、その直前で、剣を投げ放った。
 想定しなかった動きに、アロンの動きが一瞬遅れる。
 気づいたときには、そのうちの一振りがアロンの肩を打ちのめした。
 それをきっかけに、今まで忘れていた、あらゆる痛みがどっと戻ってくる。
 激痛で意識が一瞬飛び、次に気がづいたとき、アロンは膝をついていた。
 
 そのわずかな隙を逃がさず、近衛騎士たちはアロンを押さえつける。

「放せ!」

 アロンは抵抗したが、目をぎらつかせた騎士たちはこの優勢を逃さなかった。

「おとなしく従っていれば、俺たちもこんなことをしなくても済んだんだ。もう、暴れるのはやめてくれ。利き手の一本で、すませてやるから」

 微笑む母の面影がよぎった。
 アロンは声を上げて暴れたが、傷だらけの身体は数名がかりで押さえつけられ、動く気配すらない。

「動かないほうが、おまえ自身のためだぞ」

 仰向けで見上げる夜空の月と、その光を反射する刃先が不気味に光る。
 振り下ろされた瞬間、アロンは目を閉じることができなかった。



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