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17・侵入者
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ミリムとカーシェスは疲れを引きずらないように、夕暮れまでには作業を終えて、畑から離れるようにしている。
だから今の畑には、誰もいない。
セレルはほっとする。
モモイモなら、会いに行くのも抵抗がない。
芽吹いているかもしれない可能性を思えばなおさら、沈んだ心が和らぐ気すらした。
向かい風を受けながら、セレルは家のそばにある泥地に向かって走ると、開拓し始めたばかりの畑が見えてくる。
その一か所に大きな塊があり、斜陽に照らされながら、長い影を伸ばしていた。
セレルの足が、ぴたりと止まる。
あれは、なんだろう。
セレルは冷や水を浴びせられたかのように硬直した。
熊を思わせるほどの、巨大な体躯の獣が、土に顔をうずめている。
全身をおおう黒々とした癖のある長毛は汚らしく濡れていて、風が流れてくると、饐えた匂いが漂ってきた。
不気味な獣は、植えたばかりのたねいもを貪欲に嚙み潰している。
セレルは小さく息をのんだ。
「そんな、まだ作り始めたばかりなのに……!」
このままでは、何年もかかる道のりが、またふりだしに戻ってしまう。
なにか、なにか手立てはないのか……。
焦りながら辺りを見回すセレルの瞳に、恐ろしい光景がうつった。
ツインテールの少女が、その身体には大きすぎるくわを構え、唸り声を上げながら根菜を貪る巨大な獣に向かい、ためらいなく走っていく。
セレルの声が震えた。
「ミリム……やめて!」
止めなくては。
気づいたときには駆け出していたが、地面に注意が回らなかった。
セレルはうねの段差に足を取られ、正面から倒れて全身を打ち付ける。
かまわず立ち上がろうとしたが、足首に嫌な痛みを覚えてうめき、力なく地面に手をついた。
ミリムはうねを器用にまたぎながら、驚く速さで進んでいく。
毛むくじゃらの獣はぴくりと立ち耳を動かし、狼のような顔を上げる。
満月のような円が三つ、三角形の配置で光っていた。
三つ目かと思ったが、二つの瞳と、その上の額に同じ色をしている丸い鉱物のようなものが埋め込まれていて、頭部には鋭い角が生えている。
一角獣の黄色い瞳は、ミリムを確認するやいなや、すさまじい勢いで突進しはじめた。
「ミリム、危ない……!」
セレルが無理をしてでも立ち上がろうとしたそのとき、大気を震撼させる怒声が響き渡る。
「ふざけるな!」
少女と一角獣の間に、人影が躍り出た。
「俺の娘はなぁ、おまえの餌じゃない!」
カーシェスは叫びながら、ひるんだ獣の懐に飛び込むと、その首にためらいのない一撃を入れた。
一角獣は苦悶の吠え声を上げながら、巨体を畑に沈ませる。
カーシェスはすぐに態勢を直すと、幼い娘に駆け寄り、めいいっぱい抱きしめた。
「ミリム!」
だから今の畑には、誰もいない。
セレルはほっとする。
モモイモなら、会いに行くのも抵抗がない。
芽吹いているかもしれない可能性を思えばなおさら、沈んだ心が和らぐ気すらした。
向かい風を受けながら、セレルは家のそばにある泥地に向かって走ると、開拓し始めたばかりの畑が見えてくる。
その一か所に大きな塊があり、斜陽に照らされながら、長い影を伸ばしていた。
セレルの足が、ぴたりと止まる。
あれは、なんだろう。
セレルは冷や水を浴びせられたかのように硬直した。
熊を思わせるほどの、巨大な体躯の獣が、土に顔をうずめている。
全身をおおう黒々とした癖のある長毛は汚らしく濡れていて、風が流れてくると、饐えた匂いが漂ってきた。
不気味な獣は、植えたばかりのたねいもを貪欲に嚙み潰している。
セレルは小さく息をのんだ。
「そんな、まだ作り始めたばかりなのに……!」
このままでは、何年もかかる道のりが、またふりだしに戻ってしまう。
なにか、なにか手立てはないのか……。
焦りながら辺りを見回すセレルの瞳に、恐ろしい光景がうつった。
ツインテールの少女が、その身体には大きすぎるくわを構え、唸り声を上げながら根菜を貪る巨大な獣に向かい、ためらいなく走っていく。
セレルの声が震えた。
「ミリム……やめて!」
止めなくては。
気づいたときには駆け出していたが、地面に注意が回らなかった。
セレルはうねの段差に足を取られ、正面から倒れて全身を打ち付ける。
かまわず立ち上がろうとしたが、足首に嫌な痛みを覚えてうめき、力なく地面に手をついた。
ミリムはうねを器用にまたぎながら、驚く速さで進んでいく。
毛むくじゃらの獣はぴくりと立ち耳を動かし、狼のような顔を上げる。
満月のような円が三つ、三角形の配置で光っていた。
三つ目かと思ったが、二つの瞳と、その上の額に同じ色をしている丸い鉱物のようなものが埋め込まれていて、頭部には鋭い角が生えている。
一角獣の黄色い瞳は、ミリムを確認するやいなや、すさまじい勢いで突進しはじめた。
「ミリム、危ない……!」
セレルが無理をしてでも立ち上がろうとしたそのとき、大気を震撼させる怒声が響き渡る。
「ふざけるな!」
少女と一角獣の間に、人影が躍り出た。
「俺の娘はなぁ、おまえの餌じゃない!」
カーシェスは叫びながら、ひるんだ獣の懐に飛び込むと、その首にためらいのない一撃を入れた。
一角獣は苦悶の吠え声を上げながら、巨体を畑に沈ませる。
カーシェスはすぐに態勢を直すと、幼い娘に駆け寄り、めいいっぱい抱きしめた。
「ミリム!」
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