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23・巨大化
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さらに数日が過ぎると、セレルの体調はほとんど元通りになった。
ちいさな手かごを提げて、久々に家を出ることにする。
いい天気だった。
快晴の下で泥畑に立つミリムが、愛らしいマンモス顔のじょうろで栄養剤をまいているのが見える。
無表情ながらも張り切った様子のミリムのそばには、くわを振って泥を耕しているカーシェスもいて、セレルに気づくと駆け寄ってきた。
「セレル、ずいぶん顔色も良くなったな! 浄化たねいもづくりは明日から頼むぞ!」
「うん」
「だから畑に来ても、今日の仕事はなしだからな! なにがあってもまだ妙な力は使うなよ、絶対だ!」
「わかってる」
「じゃあなにしに来……あっ、そうか! ミリムの作った栄養剤を見たかったんだな!」
「ううん。今日は身体が弱りすぎないように、町の方に散歩でも行こうかと……」
「聞いてくれよ! ミリムは難しそうな絵本を読んで、それをヒントに色々な栄養剤を作って、試して、改良を重ねて……すごいだろ! あの子は努力と才能とかわいさの塊なんだ!」
出かけたいセレルの言葉を遮ってカーシェスが身振り手振りで暑苦しく語っていると、足元にわずかな揺れを感じた。
地鳴りのような音が響きはじめる。
大地が突き上げるように震えて、二人はよろめきながらしゃがみこんだ。
晴れ渡っていたはずの頭上が日陰でおおわれる。
「なんだ……? ミリム! 無事か!?」
カーシェスの声につられてセレルもミリムの方を振り返る。
尻もちをついた少女の目の前で、こんもりと葉を茂らせた木のような植物が驚異的な速度で成長していき、あっという間に家ほどの高さに迫っていた。
セレルもカーシェスもあんぐりと口を開けて見上げていると、揺れが収まった直後にミリムが興奮気味で走ってくる。
「み、見てください! あれは木ではないのです。モモイモの葉です!」
カーシェスは理解を越えているらしく、立派に茂る葉を見上げたままでいる。
セレルも驚きを隠さず聞き返した。
「あれがモモイモの葉?」
「そうです! この、このマンモスちゃんじょうろに入っている配合の栄養剤が、おそらくモモイモを巨大にさせたのです!」
「じゃあこんなに巨大になったんだから、土を浄化する力も……」
「はっ……確かに! さっそく確認してみます!」
カーシェスはようやく事態の好転を理解したのか「すごい!」「すごい!」と語彙力乏しく騒ぎ立てながら、セレルと共に巨大化したモモイモへと走っていくミリムに続く。
幹のようにたくましく育った巨大モモイモの根元の様子を確認してみると、泥気味なのは変わりなく、まだ強い浄化の作用は見られなかった。
むしろ土の状態は以前よりひどくねばついていて、嫌な匂いを発しているようにすら思える。
久々に畑を見たセレルは地質悪化を感じたが、思いつめたように根元の土を見つめるミリムに気づいて口にはせず、その肩を軽くたたく。
「これからどんどん良くなるかもね。明日になったらまた見てみようよ」
「そうだな!」
カーシェスも無駄に大きな動きで頷いた。
「ミリムのおかげでこんな巨大な浄化モモイモができたんだ! 急がず、明日までのんびり楽しみにすればいいじゃないか! これは俺たちの大農園の歴史に名を残す偉業だぞ!」
二人に激励されてミリムの顔つきが明るくなる。
「そう悠長なことも言っていられません。セレルが浄化モモイモを作る明日に合わせて、さっそく栄養剤を増産します!」
きっぱりと決意表明をすると、ミリムは準備に取りかかるためにきびきびと家へ戻っていく。
その後ろ姿をカーシェスは惚れ惚れした様子で見つめた。
「なんて……なんてかわいくて努力家でかわいくて可憐でかわいくて魅力的な子なんだ! よーし! 俺も明日の巨大モモイモたちの居場所を作るために、今日は耕しまくるぞ!」
カーシェスは疲れ知らずで再びくわを持ち直した。
巨大化したモモイモの出現にやる気をみなぎらせた二人と別れてから、セレルは泥にぬかるむ廃墟の町を進み、店主のいない道具屋へたどり着いた。
鍵は開いているので勝手に入り、埃っぽい薬品棚から日持ちのする薬草の束を見つけて、それを手かごに入れる。
数枚なら、癒しの力をこめて強化しても体に問題はなかったが、休ませようとしてくれている人たちの信頼を裏切る気がして、なんとか思いとどまった。
ちいさな手かごを提げて、久々に家を出ることにする。
いい天気だった。
快晴の下で泥畑に立つミリムが、愛らしいマンモス顔のじょうろで栄養剤をまいているのが見える。
無表情ながらも張り切った様子のミリムのそばには、くわを振って泥を耕しているカーシェスもいて、セレルに気づくと駆け寄ってきた。
「セレル、ずいぶん顔色も良くなったな! 浄化たねいもづくりは明日から頼むぞ!」
「うん」
「だから畑に来ても、今日の仕事はなしだからな! なにがあってもまだ妙な力は使うなよ、絶対だ!」
「わかってる」
「じゃあなにしに来……あっ、そうか! ミリムの作った栄養剤を見たかったんだな!」
「ううん。今日は身体が弱りすぎないように、町の方に散歩でも行こうかと……」
「聞いてくれよ! ミリムは難しそうな絵本を読んで、それをヒントに色々な栄養剤を作って、試して、改良を重ねて……すごいだろ! あの子は努力と才能とかわいさの塊なんだ!」
出かけたいセレルの言葉を遮ってカーシェスが身振り手振りで暑苦しく語っていると、足元にわずかな揺れを感じた。
地鳴りのような音が響きはじめる。
大地が突き上げるように震えて、二人はよろめきながらしゃがみこんだ。
晴れ渡っていたはずの頭上が日陰でおおわれる。
「なんだ……? ミリム! 無事か!?」
カーシェスの声につられてセレルもミリムの方を振り返る。
尻もちをついた少女の目の前で、こんもりと葉を茂らせた木のような植物が驚異的な速度で成長していき、あっという間に家ほどの高さに迫っていた。
セレルもカーシェスもあんぐりと口を開けて見上げていると、揺れが収まった直後にミリムが興奮気味で走ってくる。
「み、見てください! あれは木ではないのです。モモイモの葉です!」
カーシェスは理解を越えているらしく、立派に茂る葉を見上げたままでいる。
セレルも驚きを隠さず聞き返した。
「あれがモモイモの葉?」
「そうです! この、このマンモスちゃんじょうろに入っている配合の栄養剤が、おそらくモモイモを巨大にさせたのです!」
「じゃあこんなに巨大になったんだから、土を浄化する力も……」
「はっ……確かに! さっそく確認してみます!」
カーシェスはようやく事態の好転を理解したのか「すごい!」「すごい!」と語彙力乏しく騒ぎ立てながら、セレルと共に巨大化したモモイモへと走っていくミリムに続く。
幹のようにたくましく育った巨大モモイモの根元の様子を確認してみると、泥気味なのは変わりなく、まだ強い浄化の作用は見られなかった。
むしろ土の状態は以前よりひどくねばついていて、嫌な匂いを発しているようにすら思える。
久々に畑を見たセレルは地質悪化を感じたが、思いつめたように根元の土を見つめるミリムに気づいて口にはせず、その肩を軽くたたく。
「これからどんどん良くなるかもね。明日になったらまた見てみようよ」
「そうだな!」
カーシェスも無駄に大きな動きで頷いた。
「ミリムのおかげでこんな巨大な浄化モモイモができたんだ! 急がず、明日までのんびり楽しみにすればいいじゃないか! これは俺たちの大農園の歴史に名を残す偉業だぞ!」
二人に激励されてミリムの顔つきが明るくなる。
「そう悠長なことも言っていられません。セレルが浄化モモイモを作る明日に合わせて、さっそく栄養剤を増産します!」
きっぱりと決意表明をすると、ミリムは準備に取りかかるためにきびきびと家へ戻っていく。
その後ろ姿をカーシェスは惚れ惚れした様子で見つめた。
「なんて……なんてかわいくて努力家でかわいくて可憐でかわいくて魅力的な子なんだ! よーし! 俺も明日の巨大モモイモたちの居場所を作るために、今日は耕しまくるぞ!」
カーシェスは疲れ知らずで再びくわを持ち直した。
巨大化したモモイモの出現にやる気をみなぎらせた二人と別れてから、セレルは泥にぬかるむ廃墟の町を進み、店主のいない道具屋へたどり着いた。
鍵は開いているので勝手に入り、埃っぽい薬品棚から日持ちのする薬草の束を見つけて、それを手かごに入れる。
数枚なら、癒しの力をこめて強化しても体に問題はなかったが、休ませようとしてくれている人たちの信頼を裏切る気がして、なんとか思いとどまった。
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