【完結】精霊言語の通訳者

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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9・盟約

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 カームは何やら思案していたのか、指を顎に当てたまま呟いた。

「もしこれがマダラスナヘビの毒なら、ガマ石が効くかもしれない」
「ガマ石?」
「俺の知り合いに、養蛙(ようあ)農家がいて聞いた話だけど、時折、カエルに茶色い石ができることがあるらしい。それは宝石のように加工して、装飾品として売るのが一般的だけど、トープルカリア地域のスナヘビ系の毒に対して、強力な解毒効果も期待できる。だから頼めば、ガマ石を送ってもらうことはできるけど、その農家が住んでいるのも国の端だからな。取り寄せるまでに少し時間がかかるし、それにもし効果が無ければ、別の方法を見つけなければいけない。せめて、毒の種類だけでも確定させる方法があればな……」

 考え込むカームに、フェアルは声を潜めて、聞いた。

「そのガマ石って、カエルの頭に、時折できるレアな石のようなもので、おいしくはないけれど、なめることができたりする?」
「なんだよ。やけに詳しいな」
「だって先ほど、アドバーグ様が喜んでいたから……」

 自然と、アドバーグに注目が集まる。
 不穏な気配に、アドバーグは視線をさまよわせた。

『な、なんだ、おまえたち……』

 カームが重々しい足取りで近づいてくる。
 野生の本能か、危険を察したアドバーグは動揺して叫んだ。

『まっ、待て! まさか貴様、今までの忠誠を忘れて、ワシの趣味、至福の時間を奪うつもりだな! たとえ石が必要だったとしても、ワシから奪うことはないであろう、ワシは拒否する! ワシは王子だ! ワシは偉い!』

 カームは低く威圧的な声でつぶやく。

「なんかわめいているけど。俺は言っていることがよくわからないから、取るぞ」
『おいっ! 絶対残酷な言葉を吐いておるだろ! 老齢の王子が喉を詰まらせて死んだらどう責任を取るつもりだ!!』

 アドバーグは顔を引っ込めると、全身の針を力のあらん限り逆立て、防衛とも威嚇ともとれる姿になったが、カームは臆することなく近づいてくる。

『おい、フェアル! 木のジジイ! 何とかしろ! おまえたちの愛するワシが、不遜な者によって窮地に追いやられておる!』

 フェアルも老木も意思表示として、妙に穏やかな様子で見守っていた。
 カームはカバンから取り出した、小動物の針など、ものともしないようないかついグローブをつけると、その手をアドバーグに向けて、ゆっくりと下ろしていく。

『ヒィィィ! ワシは王子だ! 由緒あるトープルカリアハリネズミの王子であるぞ!』

 アドバーグがわめくこと、数分後。
 カームによってむしりとられたガマ石が、水辺に投げこまれる。
 効果は明らかだった。
 よどんだ水面が、ほのかに澄んでくる。

『水から立ちのぼってくる空気が、少し変わったな』

 老木が枝葉を揺らしながら、嬉しそうにつぶやくのを聞いて、フェアルは梢を見上げた。

「この木も、喜んでいるみたい」

 カームは水面の変化を見逃さないように目を細めたまま、小さく頷く。

「毒素を分解するときに、少し白濁した色の変化があるから、やっぱりマダラスナヘビだな。よし、早速城に戻って、ガマ石を手配するぞ」

 そう言いながらも、カームは睨みつけるように水面から目を離さない。

「どうかしたの?」

 カームはその場を動かず、思案したまま言う。

「ガマ石が届けば、浄化作業を進められる。ほかにもいくつか、試してみたい方法があるけれど、その準備をするまでの間に、侵入者が毒の排水を運び続ければ、いつまでたっても森が汚染されたままだ。見張りを増やすこともできるけど、完全には防げないし、証拠がなければキーリ領主に文句を言ったところで、しらばっくれるだろうしな」
『なるほど』

 老木は人の言語も理解できるらしく、カームの言葉に反応した。

『我々は移動を苦手とするが、防衛ならば得意なところ。他の木々にも語りかけ、毒を持ち込む人の子らが来る方角、日の昇る側からの侵入に対し、草木の様子を変えて、迷うように仕向けよう。それではどうだ』

「そんなことができるのですね!」

 フェアルが老樹の提案を伝えると、カームはフェアルに詰め寄るように、肩をつかんだ。

「本当か?」

 カームの気迫に、フェアルは少し自信なさげに頷く。

「う、うん。そう言ってるの」

 それを聞くと、カームはためらいなくフェアルを抱きしめた。
 突然の出来事に、フェアルの思考は止まったが、カームは腕に込める力をゆるめない。
 そして、少年のように明るい声を上げた。

「やったぞフェアル! もう毒が運び込まれることで、森の植物が弱ったり、動物も死んだりしない。おまえのおかげだよ!」

 カームは身体を離すと、満面の笑顔でフェアルを見つめた。
 その相手が、かわいそうになるほど顔を紅潮させて震えていることに気づき、一気に表情が固まる。

「え、あ……」
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