【完結】精霊言語の通訳者

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

文字の大きさ
11 / 22

11・大人

しおりを挟む
「もう、10年も前なのですね」
『そうか、まだ10年か。人の子の命は短いな。ドライアドならば、それよりも長く生きることができる。だからおぬしは、相変わらず幼く美しい』
「はい。ドライアドとなってから、私は悲しいくらい、何も変わっていません。でも、ドライアドになっていなくても、同じだった気もします。私は考えることのないまま、大きくなっていたかもしれない」

 フェアルはじんわりと浮かんだ様々な思いを内にしまうと、老木の幹を包み込むように抱きしめた。
 しめった幹を肌で確かめると、自分から生えるツタも、緑の髪色も、自然なことのように感じられてくる。

「だけど、今日は違います。10年出たことのなかった場所から、カームが私を連れ出してくれました。ハリネズミの王子がお友達になりました。ドライアドになったおかげで、あなたと言葉を交わすこともできました。森のことも、毒のことも、知らなかったことを、たくさん知りました。なにより、この森の汚れをきれいにする協力が出来て、嬉しいです。それは本当です」

 フェアルは木肌の質感に触れながら、先ほどカームの腕の中にいたことを思い出す。
 嬉しいことを分かち合えたはずなのに、相手に余計な気づかいをさせた自分の幼稚さが、今は寂しく思えた。

『やはりおぬしは、美しい娘だな』

 抱きしめる幹から、言葉が伝わってくる。

『何かあれば、来るがよい。おぬしは我々の仲間だ。いつでも力を貸そう』
「ありがとうございます。老樹様も、お元気で」

 フェアルは幹から身体を離すと、カームに借りているスカーフを自分の首に巻きなおす。
 その様子を、カームは少し離れたところで見守るように立ち尽くしていたが、フェアルが向かってくることに気づくと、まばたきをして視線をそらし、先を歩き始めた。
 会話もない。
 先ほどのこともあり、ついていくフェアルが少し不安に思い始めたとき、カームの持っているカバンの中から、アドバーグが顔を出す。

『案ずるな、フェアル。カームのやつ、年頃だからの。無言なのは言語能力が低下したわけではなく、お子様だから照れているのだ。木と戯れていたおまえに見惚れておったのだろ』
「みほ……?」
『そもそも、ドライアドが呪いだと誤解されるほど数が少ないのはな、気難しい樹木たちが気に入るほどに魅力的な娘でなければ、ドライアドにはしない事情もあるのだ。おまえはもっと、自分に自信を持ってもいい。ワシが保証する』

 アドバーグに励まされたことが伝わり、少し元気の出たフェアルは、勇気を出してカームに近づいてみた。

「いいのか」

 独り言のように、カームが言う。

「なんのこと?」
「あの木のおかげで、とんでもない目にあっただろ。フェアルに燃やされても文句言えないぞ」
「そうかな。そんなことしたら、もったいない」
「なにが」
「だって今日ね、すごくいい日になったから。そんなこと、したいと思えない」

 カームはぽつりとつぶやく。

「大人だな」
「それ、嫌だったの。私、大人になりたくなかった。何も持たないまま大きくなるのが、怖かったから。だけどカームといたら、私だって大人になりたい、変わりたいなって思えるようになった」
「そうなのか?」
「うん。カームは、大人になるのが楽しみなんでしょ?」
「……そんな風には、考えたことなかった。俺、今の状態から抜け出すことばかりで……ただ、焦っていたのかもしれない」
「焦るの? 生きていれば、準備が出来ていなくても、誰でもなれるのに」

 カームの肩にさげているカバンから、アドバーグの木の実をかじっている品のない音が響く。
 カームは独り言のようにつぶやいた。

「はじめてだ。年取るの、怖くなった」
「だいじょうぶだよ、カームは」
「適当だな」

 フェアルは不思議そうに、首をかしげる。

「適当かな? 一緒にいたから、わかるよ」

 カームは驚いたように言いよどんだが、すぐに沈黙を破るように付け加える。

「アドバーグ、カバンの中でがつがつ食い過ぎだ、うるさい。よく噛んで食べろ」

 そんなやり取りをしているうちに、フェアルは穏やかな気持ちになっていることに気づく。 
 そして今なら、木の幹に対してそうしたように、自分の腕で彼を包み込めるようにすら思えたが、すぐ、顔がゆだるように熱くなってきて、それは無理だと自覚する。
 フェアルはやや赤みを帯びた頬のまま、満面の笑みをカームに向けた。

「カーム。連れてきてくれて、ありがとう」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...