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11・大人
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「もう、10年も前なのですね」
『そうか、まだ10年か。人の子の命は短いな。ドライアドならば、それよりも長く生きることができる。だからおぬしは、相変わらず幼く美しい』
「はい。ドライアドとなってから、私は悲しいくらい、何も変わっていません。でも、ドライアドになっていなくても、同じだった気もします。私は考えることのないまま、大きくなっていたかもしれない」
フェアルはじんわりと浮かんだ様々な思いを内にしまうと、老木の幹を包み込むように抱きしめた。
しめった幹を肌で確かめると、自分から生えるツタも、緑の髪色も、自然なことのように感じられてくる。
「だけど、今日は違います。10年出たことのなかった場所から、カームが私を連れ出してくれました。ハリネズミの王子がお友達になりました。ドライアドになったおかげで、あなたと言葉を交わすこともできました。森のことも、毒のことも、知らなかったことを、たくさん知りました。なにより、この森の汚れをきれいにする協力が出来て、嬉しいです。それは本当です」
フェアルは木肌の質感に触れながら、先ほどカームの腕の中にいたことを思い出す。
嬉しいことを分かち合えたはずなのに、相手に余計な気づかいをさせた自分の幼稚さが、今は寂しく思えた。
『やはりおぬしは、美しい娘だな』
抱きしめる幹から、言葉が伝わってくる。
『何かあれば、来るがよい。おぬしは我々の仲間だ。いつでも力を貸そう』
「ありがとうございます。老樹様も、お元気で」
フェアルは幹から身体を離すと、カームに借りているスカーフを自分の首に巻きなおす。
その様子を、カームは少し離れたところで見守るように立ち尽くしていたが、フェアルが向かってくることに気づくと、まばたきをして視線をそらし、先を歩き始めた。
会話もない。
先ほどのこともあり、ついていくフェアルが少し不安に思い始めたとき、カームの持っているカバンの中から、アドバーグが顔を出す。
『案ずるな、フェアル。カームのやつ、年頃だからの。無言なのは言語能力が低下したわけではなく、お子様だから照れているのだ。木と戯れていたおまえに見惚れておったのだろ』
「みほ……?」
『そもそも、ドライアドが呪いだと誤解されるほど数が少ないのはな、気難しい樹木たちが気に入るほどに魅力的な娘でなければ、ドライアドにはしない事情もあるのだ。おまえはもっと、自分に自信を持ってもいい。ワシが保証する』
アドバーグに励まされたことが伝わり、少し元気の出たフェアルは、勇気を出してカームに近づいてみた。
「いいのか」
独り言のように、カームが言う。
「なんのこと?」
「あの木のおかげで、とんでもない目にあっただろ。フェアルに燃やされても文句言えないぞ」
「そうかな。そんなことしたら、もったいない」
「なにが」
「だって今日ね、すごくいい日になったから。そんなこと、したいと思えない」
カームはぽつりとつぶやく。
「大人だな」
「それ、嫌だったの。私、大人になりたくなかった。何も持たないまま大きくなるのが、怖かったから。だけどカームといたら、私だって大人になりたい、変わりたいなって思えるようになった」
「そうなのか?」
「うん。カームは、大人になるのが楽しみなんでしょ?」
「……そんな風には、考えたことなかった。俺、今の状態から抜け出すことばかりで……ただ、焦っていたのかもしれない」
「焦るの? 生きていれば、準備が出来ていなくても、誰でもなれるのに」
カームの肩にさげているカバンから、アドバーグの木の実をかじっている品のない音が響く。
カームは独り言のようにつぶやいた。
「はじめてだ。年取るの、怖くなった」
「だいじょうぶだよ、カームは」
「適当だな」
フェアルは不思議そうに、首をかしげる。
「適当かな? 一緒にいたから、わかるよ」
カームは驚いたように言いよどんだが、すぐに沈黙を破るように付け加える。
「アドバーグ、カバンの中でがつがつ食い過ぎだ、うるさい。よく噛んで食べろ」
そんなやり取りをしているうちに、フェアルは穏やかな気持ちになっていることに気づく。
そして今なら、木の幹に対してそうしたように、自分の腕で彼を包み込めるようにすら思えたが、すぐ、顔がゆだるように熱くなってきて、それは無理だと自覚する。
フェアルはやや赤みを帯びた頬のまま、満面の笑みをカームに向けた。
「カーム。連れてきてくれて、ありがとう」
『そうか、まだ10年か。人の子の命は短いな。ドライアドならば、それよりも長く生きることができる。だからおぬしは、相変わらず幼く美しい』
「はい。ドライアドとなってから、私は悲しいくらい、何も変わっていません。でも、ドライアドになっていなくても、同じだった気もします。私は考えることのないまま、大きくなっていたかもしれない」
フェアルはじんわりと浮かんだ様々な思いを内にしまうと、老木の幹を包み込むように抱きしめた。
しめった幹を肌で確かめると、自分から生えるツタも、緑の髪色も、自然なことのように感じられてくる。
「だけど、今日は違います。10年出たことのなかった場所から、カームが私を連れ出してくれました。ハリネズミの王子がお友達になりました。ドライアドになったおかげで、あなたと言葉を交わすこともできました。森のことも、毒のことも、知らなかったことを、たくさん知りました。なにより、この森の汚れをきれいにする協力が出来て、嬉しいです。それは本当です」
フェアルは木肌の質感に触れながら、先ほどカームの腕の中にいたことを思い出す。
嬉しいことを分かち合えたはずなのに、相手に余計な気づかいをさせた自分の幼稚さが、今は寂しく思えた。
『やはりおぬしは、美しい娘だな』
抱きしめる幹から、言葉が伝わってくる。
『何かあれば、来るがよい。おぬしは我々の仲間だ。いつでも力を貸そう』
「ありがとうございます。老樹様も、お元気で」
フェアルは幹から身体を離すと、カームに借りているスカーフを自分の首に巻きなおす。
その様子を、カームは少し離れたところで見守るように立ち尽くしていたが、フェアルが向かってくることに気づくと、まばたきをして視線をそらし、先を歩き始めた。
会話もない。
先ほどのこともあり、ついていくフェアルが少し不安に思い始めたとき、カームの持っているカバンの中から、アドバーグが顔を出す。
『案ずるな、フェアル。カームのやつ、年頃だからの。無言なのは言語能力が低下したわけではなく、お子様だから照れているのだ。木と戯れていたおまえに見惚れておったのだろ』
「みほ……?」
『そもそも、ドライアドが呪いだと誤解されるほど数が少ないのはな、気難しい樹木たちが気に入るほどに魅力的な娘でなければ、ドライアドにはしない事情もあるのだ。おまえはもっと、自分に自信を持ってもいい。ワシが保証する』
アドバーグに励まされたことが伝わり、少し元気の出たフェアルは、勇気を出してカームに近づいてみた。
「いいのか」
独り言のように、カームが言う。
「なんのこと?」
「あの木のおかげで、とんでもない目にあっただろ。フェアルに燃やされても文句言えないぞ」
「そうかな。そんなことしたら、もったいない」
「なにが」
「だって今日ね、すごくいい日になったから。そんなこと、したいと思えない」
カームはぽつりとつぶやく。
「大人だな」
「それ、嫌だったの。私、大人になりたくなかった。何も持たないまま大きくなるのが、怖かったから。だけどカームといたら、私だって大人になりたい、変わりたいなって思えるようになった」
「そうなのか?」
「うん。カームは、大人になるのが楽しみなんでしょ?」
「……そんな風には、考えたことなかった。俺、今の状態から抜け出すことばかりで……ただ、焦っていたのかもしれない」
「焦るの? 生きていれば、準備が出来ていなくても、誰でもなれるのに」
カームの肩にさげているカバンから、アドバーグの木の実をかじっている品のない音が響く。
カームは独り言のようにつぶやいた。
「はじめてだ。年取るの、怖くなった」
「だいじょうぶだよ、カームは」
「適当だな」
フェアルは不思議そうに、首をかしげる。
「適当かな? 一緒にいたから、わかるよ」
カームは驚いたように言いよどんだが、すぐに沈黙を破るように付け加える。
「アドバーグ、カバンの中でがつがつ食い過ぎだ、うるさい。よく噛んで食べろ」
そんなやり取りをしているうちに、フェアルは穏やかな気持ちになっていることに気づく。
そして今なら、木の幹に対してそうしたように、自分の腕で彼を包み込めるようにすら思えたが、すぐ、顔がゆだるように熱くなってきて、それは無理だと自覚する。
フェアルはやや赤みを帯びた頬のまま、満面の笑みをカームに向けた。
「カーム。連れてきてくれて、ありがとう」
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