12 / 22
12・ハリネズミの集落
しおりを挟む
アドバーグが棲んでいるのは、老木のある水辺をもう少し奥に進んだ場所だった。
ハリネズミたちは木々の根の辺りに巣穴を掘っていて、そこで生活をしている。
『アドバーグ様!』
ハリネズミたちはアドバーグを見かけると、一目散に駆け寄った。
『また道草を食って……一応、平均寿命をこえられているのですから、少しは落ち着いてください』
『そうも言っていられぬのだ。ワシはこの森の異変を調べていたところ、お供をしたいという人間とドライアドを従えて、森を蝕む原因を突き止め、帰還したところだ』
『はいはい。その人たちに、ずいぶんお世話になったようですが、あまりはしたないことしないで下さいよ。私たちまで、同じだと思われるのは恥ずかしいんですから。さぁ、すぐに王子の好きな糸ミミズを準備しますからね、お待ちくださいな』
『むむっ、木の実もいいが、ミミズもいいな!』
フェアルもカームも、ハリネズミの言葉はわからなかったが、アドバーグがいつもの調子で話しているのを見て、安心する。
「あの様子だと、アドバーグが誇張気味に武勇伝を語っていることだけは、間違いないだろうな」
「でも、アドバーグ様が帰ってきて、みんな喜んでいるみたい」
「そうだとしても、あたり一面が、ハリネズミたちで敷き詰められているなんて、異常事態だな。踏まないように気を付けないと」
カームの懸念の通り、フェアルたちが帰るそぶりをみせると、ハリネズミたちが近づいてきて、あやうく踏みそうになる。
何匹かは、ぎこちない木の言葉で、フェアルたちにお礼を伝えた。
『最近、みんな、おなか痛いし、食べ物はおいしくなかった』
『あなたたち、助けてくれて、ありがとう』
『それに、変な王子を連れてきて、ありがとう』
『王子は変だけど、私たちにとっては大切だから、うれしい』
アドバーグは突然、ミミズを口からにょろりととび出させたまま、二人の方へ突進するように近づいてきたので、フェアルはどきりとする。
「ひゃっ!」
『フェアル、頼まれてもワシの見つけたミミズはやらんぞ』
「いりません!」
『諦めがいいな。そんなおまえに、特別に! このアドバーグ様から、特別に! 渡しておきたいものがある』
ハリネズミの一匹が、巣穴の奥から黒い色をした石を背中に乗せてやってきた。
指先でつまめるような、豆ほどの大きさの塊だった。
「アドバーグ様、これは?」
『寂しくなったら、この石をワシだと思って話しかけるがよい。そうすれば、ワシにはおぬしの声が聞こえるのだ』
「これを持って話せば、アドバーグ様が答えてくださるのですか?」
『いや、それは一方的なものだから、ワシから言葉を伝えることはできん。だからそれに向かって、フェアルが愛をささやいたり、ワシを賞賛したりするといい』
「これは……アドバーグ様の承認欲求を満たすための道具、ですか?」
『何を言うのだ! 毒に汚染された森を救った英雄に、時折の賛辞は当然だろう!』
フェアルの指から、カームが石を拾い上げる。
「アドバーグ。まだ水辺の解毒は終わっていないからな。色の悪い木の実を見つけても、食い意地張って食うなよ。年なんだから、次に腹壊したら、死ぬぞ」
『むむっ、カームのやつ! 世話係にしてもらった恩を忘れて、ワシに意見するとは恥知らずな奴め!』
「……アドバーグが何言ってんのか、俺にはわからないけど、石を持って話したら騒ぎだしたし、俺の言葉は通じてるんだな」
『ワシが一方的に罵られ、カームにはワシの悪口が聞こえないとは、なんだか悔しい、悔しいぞ!』
「なに一人でキレてんだ。歳なんだから、静かにしてろ。ジジイ」
『カーム! ワシを侮辱したこと許さぬ、許さぬぞ! 許してほしいならば、今すぐお前の両手からあふれるほどの糸ミミズを持ってきて、ワシに献上せよ!』
「じゃあ、俺、帰るわ。いい年して歩き回って、今日は疲れただろうから、ゆっくり休めよ」
『カーム! おまえこそ休め! これは命令だ! ミミズはその後でいいから持ってこい!』
カームはフェアルに石を渡すと、ハリネズミの集落に背を向け進み始める。
フェアルはその後をついて行く前に、アドバーグやハリネズミたちに手をふった。
「貴重な石をくださって、ありがとうございます。アドバーグ様にお手紙を送るような気持ちで、時折、お話させてもらいます」
『うむ。嫁にしてほしいと頼むのなら、送るがよい。考えてやろう』
「それは、送りません」
『む。恥ずかしがらなくてもいいぞ』
「いいえ、そこは恥ずかしがらせてください。では、お元気で」
「そうか……まぁ、今度は遊びに来い! ワシの仲間たちが総力をあげて、新鮮なミミズを山のように採ってきてくれるであろう』
「それは、ええと……では、また!」
ハリネズミたちに見送られながら、フェアルは先を歩くカームに追いつく。
ハリネズミたちは木々の根の辺りに巣穴を掘っていて、そこで生活をしている。
『アドバーグ様!』
ハリネズミたちはアドバーグを見かけると、一目散に駆け寄った。
『また道草を食って……一応、平均寿命をこえられているのですから、少しは落ち着いてください』
『そうも言っていられぬのだ。ワシはこの森の異変を調べていたところ、お供をしたいという人間とドライアドを従えて、森を蝕む原因を突き止め、帰還したところだ』
『はいはい。その人たちに、ずいぶんお世話になったようですが、あまりはしたないことしないで下さいよ。私たちまで、同じだと思われるのは恥ずかしいんですから。さぁ、すぐに王子の好きな糸ミミズを準備しますからね、お待ちくださいな』
『むむっ、木の実もいいが、ミミズもいいな!』
フェアルもカームも、ハリネズミの言葉はわからなかったが、アドバーグがいつもの調子で話しているのを見て、安心する。
「あの様子だと、アドバーグが誇張気味に武勇伝を語っていることだけは、間違いないだろうな」
「でも、アドバーグ様が帰ってきて、みんな喜んでいるみたい」
「そうだとしても、あたり一面が、ハリネズミたちで敷き詰められているなんて、異常事態だな。踏まないように気を付けないと」
カームの懸念の通り、フェアルたちが帰るそぶりをみせると、ハリネズミたちが近づいてきて、あやうく踏みそうになる。
何匹かは、ぎこちない木の言葉で、フェアルたちにお礼を伝えた。
『最近、みんな、おなか痛いし、食べ物はおいしくなかった』
『あなたたち、助けてくれて、ありがとう』
『それに、変な王子を連れてきて、ありがとう』
『王子は変だけど、私たちにとっては大切だから、うれしい』
アドバーグは突然、ミミズを口からにょろりととび出させたまま、二人の方へ突進するように近づいてきたので、フェアルはどきりとする。
「ひゃっ!」
『フェアル、頼まれてもワシの見つけたミミズはやらんぞ』
「いりません!」
『諦めがいいな。そんなおまえに、特別に! このアドバーグ様から、特別に! 渡しておきたいものがある』
ハリネズミの一匹が、巣穴の奥から黒い色をした石を背中に乗せてやってきた。
指先でつまめるような、豆ほどの大きさの塊だった。
「アドバーグ様、これは?」
『寂しくなったら、この石をワシだと思って話しかけるがよい。そうすれば、ワシにはおぬしの声が聞こえるのだ』
「これを持って話せば、アドバーグ様が答えてくださるのですか?」
『いや、それは一方的なものだから、ワシから言葉を伝えることはできん。だからそれに向かって、フェアルが愛をささやいたり、ワシを賞賛したりするといい』
「これは……アドバーグ様の承認欲求を満たすための道具、ですか?」
『何を言うのだ! 毒に汚染された森を救った英雄に、時折の賛辞は当然だろう!』
フェアルの指から、カームが石を拾い上げる。
「アドバーグ。まだ水辺の解毒は終わっていないからな。色の悪い木の実を見つけても、食い意地張って食うなよ。年なんだから、次に腹壊したら、死ぬぞ」
『むむっ、カームのやつ! 世話係にしてもらった恩を忘れて、ワシに意見するとは恥知らずな奴め!』
「……アドバーグが何言ってんのか、俺にはわからないけど、石を持って話したら騒ぎだしたし、俺の言葉は通じてるんだな」
『ワシが一方的に罵られ、カームにはワシの悪口が聞こえないとは、なんだか悔しい、悔しいぞ!』
「なに一人でキレてんだ。歳なんだから、静かにしてろ。ジジイ」
『カーム! ワシを侮辱したこと許さぬ、許さぬぞ! 許してほしいならば、今すぐお前の両手からあふれるほどの糸ミミズを持ってきて、ワシに献上せよ!』
「じゃあ、俺、帰るわ。いい年して歩き回って、今日は疲れただろうから、ゆっくり休めよ」
『カーム! おまえこそ休め! これは命令だ! ミミズはその後でいいから持ってこい!』
カームはフェアルに石を渡すと、ハリネズミの集落に背を向け進み始める。
フェアルはその後をついて行く前に、アドバーグやハリネズミたちに手をふった。
「貴重な石をくださって、ありがとうございます。アドバーグ様にお手紙を送るような気持ちで、時折、お話させてもらいます」
『うむ。嫁にしてほしいと頼むのなら、送るがよい。考えてやろう』
「それは、送りません」
『む。恥ずかしがらなくてもいいぞ』
「いいえ、そこは恥ずかしがらせてください。では、お元気で」
「そうか……まぁ、今度は遊びに来い! ワシの仲間たちが総力をあげて、新鮮なミミズを山のように採ってきてくれるであろう』
「それは、ええと……では、また!」
ハリネズミたちに見送られながら、フェアルは先を歩くカームに追いつく。
16
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件
やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる