【完結】精霊言語の通訳者

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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12・ハリネズミの集落

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 アドバーグが棲んでいるのは、老木のある水辺をもう少し奥に進んだ場所だった。
 ハリネズミたちは木々の根の辺りに巣穴を掘っていて、そこで生活をしている。

『アドバーグ様!』

 ハリネズミたちはアドバーグを見かけると、一目散に駆け寄った。

『また道草を食って……一応、平均寿命をこえられているのですから、少しは落ち着いてください』
『そうも言っていられぬのだ。ワシはこの森の異変を調べていたところ、お供をしたいという人間とドライアドを従えて、森を蝕む原因を突き止め、帰還したところだ』
『はいはい。その人たちに、ずいぶんお世話になったようですが、あまりはしたないことしないで下さいよ。私たちまで、同じだと思われるのは恥ずかしいんですから。さぁ、すぐに王子の好きな糸ミミズを準備しますからね、お待ちくださいな』
『むむっ、木の実もいいが、ミミズもいいな!』

 フェアルもカームも、ハリネズミの言葉はわからなかったが、アドバーグがいつもの調子で話しているのを見て、安心する。

「あの様子だと、アドバーグが誇張気味に武勇伝を語っていることだけは、間違いないだろうな」
「でも、アドバーグ様が帰ってきて、みんな喜んでいるみたい」
「そうだとしても、あたり一面が、ハリネズミたちで敷き詰められているなんて、異常事態だな。踏まないように気を付けないと」

 カームの懸念の通り、フェアルたちが帰るそぶりをみせると、ハリネズミたちが近づいてきて、あやうく踏みそうになる。
 何匹かは、ぎこちない木の言葉で、フェアルたちにお礼を伝えた。

『最近、みんな、おなか痛いし、食べ物はおいしくなかった』
『あなたたち、助けてくれて、ありがとう』
『それに、変な王子を連れてきて、ありがとう』
『王子は変だけど、私たちにとっては大切だから、うれしい』

 アドバーグは突然、ミミズを口からにょろりととび出させたまま、二人の方へ突進するように近づいてきたので、フェアルはどきりとする。

「ひゃっ!」
『フェアル、頼まれてもワシの見つけたミミズはやらんぞ』
「いりません!」
『諦めがいいな。そんなおまえに、特別に! このアドバーグ様から、特別に! 渡しておきたいものがある』

 ハリネズミの一匹が、巣穴の奥から黒い色をした石を背中に乗せてやってきた。
 指先でつまめるような、豆ほどの大きさの塊だった。

「アドバーグ様、これは?」
『寂しくなったら、この石をワシだと思って話しかけるがよい。そうすれば、ワシにはおぬしの声が聞こえるのだ』
「これを持って話せば、アドバーグ様が答えてくださるのですか?」
『いや、それは一方的なものだから、ワシから言葉を伝えることはできん。だからそれに向かって、フェアルが愛をささやいたり、ワシを賞賛したりするといい』

「これは……アドバーグ様の承認欲求を満たすための道具、ですか?」
『何を言うのだ! 毒に汚染された森を救った英雄に、時折の賛辞は当然だろう!』

 フェアルの指から、カームが石を拾い上げる。

「アドバーグ。まだ水辺の解毒は終わっていないからな。色の悪い木の実を見つけても、食い意地張って食うなよ。年なんだから、次に腹壊したら、死ぬぞ」
『むむっ、カームのやつ! 世話係にしてもらった恩を忘れて、ワシに意見するとは恥知らずな奴め!』
「……アドバーグが何言ってんのか、俺にはわからないけど、石を持って話したら騒ぎだしたし、俺の言葉は通じてるんだな」

『ワシが一方的に罵られ、カームにはワシの悪口が聞こえないとは、なんだか悔しい、悔しいぞ!』
「なに一人でキレてんだ。歳なんだから、静かにしてろ。ジジイ」
『カーム! ワシを侮辱したこと許さぬ、許さぬぞ! 許してほしいならば、今すぐお前の両手からあふれるほどの糸ミミズを持ってきて、ワシに献上せよ!』
「じゃあ、俺、帰るわ。いい年して歩き回って、今日は疲れただろうから、ゆっくり休めよ」
『カーム! おまえこそ休め! これは命令だ! ミミズはその後でいいから持ってこい!』

 カームはフェアルに石を渡すと、ハリネズミの集落に背を向け進み始める。
 フェアルはその後をついて行く前に、アドバーグやハリネズミたちに手をふった。

「貴重な石をくださって、ありがとうございます。アドバーグ様にお手紙を送るような気持ちで、時折、お話させてもらいます」
『うむ。嫁にしてほしいと頼むのなら、送るがよい。考えてやろう』
「それは、送りません」
『む。恥ずかしがらなくてもいいぞ』
「いいえ、そこは恥ずかしがらせてください。では、お元気で」
「そうか……まぁ、今度は遊びに来い! ワシの仲間たちが総力をあげて、新鮮なミミズを山のように採ってきてくれるであろう』
「それは、ええと……では、また!」

 ハリネズミたちに見送られながら、フェアルは先を歩くカームに追いつく。
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