【完結】精霊言語の通訳者

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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14・許して

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──許せないかもな。俺は今日のこと、きっと許せないよ。

 あれは、誰に向けたものだったのか。
 フェアルの脳裏に、喜んで毒だんごに食いつくイタチを見守る、少年の後ろ姿が浮かぶ。
 その表情が、一度だけ見た、カームの無邪気な笑顔と重なると、フェアルの足が前に進まなくなった。
 カームは気を取り直すように、明るい声を出す。

「つい、話したけど……聞かされて気分のいい話じゃなかったよな。さ、早く帰って、ガマ石……」

 カームが振り返ると、フェアルは声を殺すように、全身で泣いていた。
 あまりにもつらそうなその様子に、カームはすぐに、好き勝手しゃべったことを後悔した。

「悪い。フェアルが犬のことで、今が一番つらい時期だって、知ってたのに……。俺、余計なこと聞かせてた。本当に、ごめん」
「そんなこと、ない。私、知りたかった。カームがリリちゃんの出来事を許せないって言った理由、知りたかったの」

 会った時から、そうだった。
 フェアルが妹に姿を見られかけたとき、家族に疎まれて行き場がなかったとき。敬語に対する苛立ちから感情的な言い方をしたとき、嬉しさのあまり無遠慮に抱きしめたときも、カームはいつも、自分ではなくフェアルを優先して守ろうとしてくれていた。

「ようやく、わかったの。カームが、あんなに物知りで、一生懸命で、私を大切にしてくれたのは、カームが自分のことを許せないくらい、傷ついていたからだって」

 そのやさしさが、今もカーム自身を責め続けている。
 たとえ仕組まれたことだったとしても、カームがこの先ずっと、自分のしたことを許せないのだと思うと、フェアルの目の奥から熱いものがこみあげてきた。

「許して……」
「フェアル?」
「カームのこと、許して」

 カームの表情が、さっと強張る。
 反射的に拒絶しているのは、明らかだった。
 それでもフェアルは、諦められない。
 しかし、自分に何ができるのか、わからなくて、歯がゆくて、苦しい。
 やるせなさに、涙が止まらない。

「フェアル、泣くなよ」
「泣くよ。カームは、私の大切な人なの。今の私を大切にしてくれる、たったひとりの人なの」
「ひとりって……そんなこと、」
「そうなの。私がこの姿になったせいで、大好きだった乳母のオリマは家を追い出されて、どこへ行ったのかもわからない。リリちゃんにも、もう会えない。私のせい……わかってる」

 フェアルの嗚咽と共に、言葉がこぼれていく。

「だから私、カームが許してもらえるなら、なんでもするよ。するのに……私、考えられないから、何をすればいいのか、わからないから。悔しいの、悲しいの。ごめんなさい。私……いつもそう。何も、できない」

 カームはフェアルの肩に手を伸ばしたが、抱きしめたことによる失敗を思い出し、その動きを止める。
 宙でさまよう手が、何かに耐えるように握りしめられると、それはゆっくりと下ろされた。

 フェアルのすすり泣きが、森の中に溶けていく。
 カームの声がぽつりと落ちた。

「いいよ、もう」

 フェアルは息を止めると、涙で濡れた顔のまま、カームを見上げる。
 目の前にいるカームは、呆れているように見えたが、その声は穏やかだった。

「許すから。だから、もういい。泣かなくて、いい」

 そう言うと、カームはフェアルの首に手を伸ばして、いびつに巻かれているスカーフをなおした。

「へたくそ」
「うん」
「これ、貸してやるから。巻く練習でもしておけよ」
「……くれないの?」
「こんなボロいやつ、あげるわけないだろ。いじめか」

 スカーフを巻き終えると、カームとフェアルは、ゆっくりと森を進み始めた。
 フェアルがほおずりをするようにスカーフで涙をぬぐうと、きれいにしてもらった形が、また少し崩れる。
 カームは深々とため息をついた。

「ったく……おまえ、すごいわがままなんだな」
「そんなこと、言われたことない」
「いや、とんでもないだろ。自覚ないのか」
「うん」

 カームは不満げに何かを言いかけたが、フェアルが舗装されていない地面にふらついたことに気づくと、すぐにその腕をとった。

「おい。歩きにくいんだから、足元気をつけろ」
「うん」
「俺、フェアルには敵わないな」
「うん」

 そこで会話は途切れた。
 カームに足元を確かめてもらいながら、フェアルは歩きなれない森を進む、自分たちの音に耳を澄ませる。
 その音の森の中にしみていく気配が、耳に残った。

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