【完結】精霊言語の通訳者

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

文字の大きさ
20 / 22

20・解決

しおりを挟む
 ノクタディットの冷ややかな声が響き渡る。
 捕食者に睨まれた獲物のように、扉の外に見苦しく突っ立っているフェアルの父は、身をすくませた。
 しかし、年の離れた若者に負けまいと虚勢を張るように、父は無駄に大きな咳払いをしてから、下品に笑う。

「な、なんだね。私は君のためを思ってあらゆる手を尽くしたのだよ。感謝される立場であろう?」

 若き領主は冷ややかな笑みで頷いた。

「それは、ありがとうございます。ところで、僕の弟が預り金を渡して引き取った付き人を、勝手に呼びつけて、食事も与えず拘束していたのは本当なのですか。弟は未成年で、オッグス家領主である僕の保護下にあります。つまり、今お話した一連については、保護者である僕に対する礼儀ということでよろしいでしょうか」
「い、いや……誤解だ! それはバカな使用人が勝手にやったことで、そいつはクビに……」
「使用人に責任を負わせるようなことは、必要ありません」

 いつものように、目についた使用人のせいにして逃げようとする父を前に、ノクタディットは微笑み続けている。
 先ほどから変わらないはずの笑みに、すごみが増した。

「ただ、我が領土である古の森にキーリ領からの侵入者ががあった、という話も出てきていますが、それはご存じで?」
「しっ、失敬な! 証拠があるのか! 私が、そんなこと! するはずがないだろう!」
「もちろんです。ですがもし調査した結果、キーリ領土側から侵入者が毒を投棄していたという話になれば、それは領土間の問題だけではなく、国境を越えた話になりますからね。我が国の王も近年、領土侵犯に非常に敵意を抱いておりますので、ごまかしはできませんし、穏便におさまることもありません。責任を取る準備が必要でしょう」

 父は土気色に変色した顔で絶句している。
 ノクタディットは涼しい笑顔のまま、フェアルに向き直る。
 それが、もう話は終わったという合図だった。

「さぁ、フェアル。疲れただろう。おなかが空いているだろうから、僕の馬車に乗って隣町に向かうといい。山の幸がふんだんの、美味しいお店だからね。僕からのお礼さ」
「おい、兄貴」

 先ほどまで静かにしていたカームが、不満そうにフェアルとノクタディットの間に入る。

「余計なこと、するなよ。俺の付き人だぞ」

 必死に食い下がる弟に対し、ノクタディットは楽しそうに微笑を浮かべた。

「そうだね。いつもは年寄りぶった足取りで来るくせに、今回はフェアルのために、あんなに全力やってきて……。あれは、過去最高の慌てっぷりだったかな」
「だから変な注釈つけるなって! 別に、俺は、早く手続きが済んだから、ちょっと様子見に来ただけで……だからなんだよ、そのにやけた顔は!」
「もとからだよ」

 嬉しそうに嫌がらせを言うノクタディットと、いつもより声量の大きいカームを交互に見ながら、フェアルはカームが子ども扱いされることに劣等感を持っている理由が、なんとなくわかった気がした。
 ノクタディットは、楽しい時間を終える合図をするように、カームの肩を軽くたたく。

「僕が感謝の気持ちから、フェアルにごちそうすることを変えるつもりはないよ。だけど、そうだな。普段なら5000ロムもらうところだけど、今回はよく働いてくれたお礼に、カームにもタダでごちそうするよ。それでいいだろ?」
「ケチか」
「我が家の倹約は伝統だよ。ほら、ふたりで仲良く行っておいで。僕はもう少し、退屈な話をする必要があるみたいだから」

 ノクタディットが視線を送ると、フェアルの父は戦意すら失った様子で身を震わせた。
 フェアルは少し心配になったが、カームに手を引かれたので、そのままついていく。

「さっさと行くぞ。俺は兄貴と同じ場所にいたくない」
「お父様、大丈夫かしら」
「さぁな。兄貴はただ、感情的なことは抜きに事実を確認して、それ相応に判断していくやつだ。そういうのは得意なやつに任せて、フェアルはこれからうまいもの食べに行くんだから、そっちを楽しめよ」

 一言一言から、カームなりの気づかいにあふれてることが、フェアルにはわかった。
 感謝を伝えようと思ったが、つないだ手を意識すると急に恥ずかしくなり、つい声が小さくなる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

過労死して転生したので絶対に働かないと決めたのに、何をしても才能がバレる件

やんやんつけバー
ファンタジー
過労死して異世界転生。今度こそ絶対に働かないと決めたのに、何をやっても才能がバレてしまう——。農村で静かに暮らすはずが、魔力、農業、医療……気づけば誰も放っておかない。チートで穏やか系の異世界スローライフ。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます

里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。 だが実は、誰にも言えない理由があり…。 ※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。 全28話で完結。

処理中です...