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18・猛獣使いと間違われる
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レルトラスの冷淡な微笑を見てラザレ領主は膝はついたまま上体を起こすと、目をごしごしこする。
「レルトラス。なんだかいつもよりも雰囲気が丸くなってるような……」
「エアにも言われるよ」
「そういえば、毒で弱ってしまった生き物を飼うと言っていましたね。その影響でしょうか。世話は順調ですか?」
「そうだね。ほら」
レルトラスは少し得意げな様子で、背後にいるイリーネの手を引くと、前に出す。
黙っていればしとやかな令嬢にしか見えないイリーネと目が合い、領主はあからさまに赤面した。
熱い、とイリーネが思ったのとほぼ同時に、家令たちから悲鳴が上がる。
領主の足元から火柱が立ち昇っていた。
めらめらと燃え上がる領主は、即座に何が起こったのか察したらしい。
「レルトラス! だから人を燃やしてはいけないのですよ!」
領主は火だるまのまま叫びながら、一目散にガラス張りの一角にある扉を開き、湖に飛び込んだ。
豪快な音を立てて水しぶきがあがる。
さすがにイリーネも顔を引きつらせて、隣で凶悪な殺気を放ち続ける悪魔を見上げた。
「レルトラス……な、何をして……」
「先ほどまでマイフにイリーネを自慢しようと思っていたのだけど。突然、マイフの存在が不愉快でしかなくなったから、俺は帰るよ」
「えっ、今? なんなの急に……」
レルトラスは相変わらずの気分屋らしく、ローブを翻して謁見の間を出て行く。
その後ろ姿を、イリーネは困惑したまま見送った。
*
湖に飛び込んだラザレ領主を、控えていた衛兵と使用人たちが丁重に回収してから着替えさせるまでに、そう時間はかからなかった。
(手慣れ過ぎてるし……レルトラスが領主に対してこういうことをやらかしたの、一度や二度ではないんだろうな)
着替えた領主は、先ほどまで燃やされていたとは思えないほど、のほほんとした様子で戻ってくる。
「いやはや、お見苦しい所を見せました」
照れくさそうな彼の栗色の髪の先が所々焦げていて、先ほどまでの惨劇を如実に伝えていた。
(レルトラスの猛火に襲われたばかりなのにへらへらしてるなんて……こいつ、意外と肝が座ってるな)
イリーネが勝手に見直していると、ラザレ領主は癖なのか、何度も頭を下げながら話し始める。
「しかし、お嬢さんには失礼なことを言ってしまい申し訳ありませんでした。レルトラスがサヒーマを見て生き物の世話をすると言い出したので、てっきり動物かと……」
(だからあんな首輪寄こしたのか)
「そういえば、レルトラスの姿が見えませんね……一体どこへ?」
「あいつ、なんか勝手に機嫌損ねて帰ったよ。でも気分屋だから、すぐ戻ってくるかもしれないけど」
「彼は本当に、つかみどころがありませんからね。せめて、気分のまま行う破壊行動を止めて欲しいのですが……。ところで改めまして。僕はマイフカイル・フェリオット・ラザレ。名の通り、ここラザレ地域の領主です。レルトラスが帰ったのに、お嬢さんがいるということは……僕に用があったのはあなたでしょうか?」
「そう。早速だけど、あんたに話があるの」
イリーネの不躾な言葉遣いに、背後に控えるお兄さん風の家令がそっと注意する。
「お嬢様。レルトラス様の客人と存じておりますが、この方はラザレ領主様です。あんたではなく、マー君とかマイフちゃんなどと呼んであげて下さいませんか」
「どういう趣味なの、それ」
「見た通り、マイフカイル様はレルトラス様と並ぶほど、女性慣れしていないのです。ですから私共としましては、レルトラス様を数日であそこまで丸くさせたお嬢様の力を見込んで、少しうちの領主も鍛えてもらいたいと先ほど意見がまとまりまして」
(なんか変な場所に来ちゃったな)
マイフカイルは恥ずかしげに顔を赤くして、穏やかに微笑む家令たちに訴える。
「みんな、僕の事情を明かすのはやめて下さい。レルトラスに燃やされたおかげで、せっかく緊張がほどけていたというのに、そんな話をされたらまたどきどきしてしまうではありませんか。僕だって女の人の前で話すと緊張すること、地味に気にしているんです」
「承知しております。ですから、猛獣使いのごとくレルトラス様を温厚にさせたこのお嬢様に、マイフカイル様も調教して頂けたらとお願いしているのです」
「確かに僕も、レルトラスの変わりようには驚いたけれど……」
「レルトラス。なんだかいつもよりも雰囲気が丸くなってるような……」
「エアにも言われるよ」
「そういえば、毒で弱ってしまった生き物を飼うと言っていましたね。その影響でしょうか。世話は順調ですか?」
「そうだね。ほら」
レルトラスは少し得意げな様子で、背後にいるイリーネの手を引くと、前に出す。
黙っていればしとやかな令嬢にしか見えないイリーネと目が合い、領主はあからさまに赤面した。
熱い、とイリーネが思ったのとほぼ同時に、家令たちから悲鳴が上がる。
領主の足元から火柱が立ち昇っていた。
めらめらと燃え上がる領主は、即座に何が起こったのか察したらしい。
「レルトラス! だから人を燃やしてはいけないのですよ!」
領主は火だるまのまま叫びながら、一目散にガラス張りの一角にある扉を開き、湖に飛び込んだ。
豪快な音を立てて水しぶきがあがる。
さすがにイリーネも顔を引きつらせて、隣で凶悪な殺気を放ち続ける悪魔を見上げた。
「レルトラス……な、何をして……」
「先ほどまでマイフにイリーネを自慢しようと思っていたのだけど。突然、マイフの存在が不愉快でしかなくなったから、俺は帰るよ」
「えっ、今? なんなの急に……」
レルトラスは相変わらずの気分屋らしく、ローブを翻して謁見の間を出て行く。
その後ろ姿を、イリーネは困惑したまま見送った。
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湖に飛び込んだラザレ領主を、控えていた衛兵と使用人たちが丁重に回収してから着替えさせるまでに、そう時間はかからなかった。
(手慣れ過ぎてるし……レルトラスが領主に対してこういうことをやらかしたの、一度や二度ではないんだろうな)
着替えた領主は、先ほどまで燃やされていたとは思えないほど、のほほんとした様子で戻ってくる。
「いやはや、お見苦しい所を見せました」
照れくさそうな彼の栗色の髪の先が所々焦げていて、先ほどまでの惨劇を如実に伝えていた。
(レルトラスの猛火に襲われたばかりなのにへらへらしてるなんて……こいつ、意外と肝が座ってるな)
イリーネが勝手に見直していると、ラザレ領主は癖なのか、何度も頭を下げながら話し始める。
「しかし、お嬢さんには失礼なことを言ってしまい申し訳ありませんでした。レルトラスがサヒーマを見て生き物の世話をすると言い出したので、てっきり動物かと……」
(だからあんな首輪寄こしたのか)
「そういえば、レルトラスの姿が見えませんね……一体どこへ?」
「あいつ、なんか勝手に機嫌損ねて帰ったよ。でも気分屋だから、すぐ戻ってくるかもしれないけど」
「彼は本当に、つかみどころがありませんからね。せめて、気分のまま行う破壊行動を止めて欲しいのですが……。ところで改めまして。僕はマイフカイル・フェリオット・ラザレ。名の通り、ここラザレ地域の領主です。レルトラスが帰ったのに、お嬢さんがいるということは……僕に用があったのはあなたでしょうか?」
「そう。早速だけど、あんたに話があるの」
イリーネの不躾な言葉遣いに、背後に控えるお兄さん風の家令がそっと注意する。
「お嬢様。レルトラス様の客人と存じておりますが、この方はラザレ領主様です。あんたではなく、マー君とかマイフちゃんなどと呼んであげて下さいませんか」
「どういう趣味なの、それ」
「見た通り、マイフカイル様はレルトラス様と並ぶほど、女性慣れしていないのです。ですから私共としましては、レルトラス様を数日であそこまで丸くさせたお嬢様の力を見込んで、少しうちの領主も鍛えてもらいたいと先ほど意見がまとまりまして」
(なんか変な場所に来ちゃったな)
マイフカイルは恥ずかしげに顔を赤くして、穏やかに微笑む家令たちに訴える。
「みんな、僕の事情を明かすのはやめて下さい。レルトラスに燃やされたおかげで、せっかく緊張がほどけていたというのに、そんな話をされたらまたどきどきしてしまうではありませんか。僕だって女の人の前で話すと緊張すること、地味に気にしているんです」
「承知しております。ですから、猛獣使いのごとくレルトラス様を温厚にさせたこのお嬢様に、マイフカイル様も調教して頂けたらとお願いしているのです」
「確かに僕も、レルトラスの変わりようには驚いたけれど……」
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