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19・ならず者に道徳説くの?
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「あの」
イリーネは面倒なことになる前に帰ろうと、自分の話を進めておくことにする。
「さっきの話だけど。あんた……じゃなくてマイフは、ガロ領のおっさんに騙されて、希少なサヒーマの衰弱した責任を押し付けられたんでしょ?」
イリーネは無礼にもレルトラスにならって呼び捨てにしたが、周囲の家令たちは咎めるどころか、「さすが」「手慣れていますね」など、領主に対する親しみの演出だと誤解しているようだった。
マイフカイル自身は、ガロ領主とのやり取りは火だるまにされたことよりもショックだったのか、イリーネの言葉に肩を落とす。
「みんなにも忠告されましたが、やはりそうなのでしょうか。ガロ領主殿は突然、ラザレ領でサヒーマの世話をして欲しいと、弱ったサヒーマたちを連れて来られたのです。僕は希少なサヒーマを預かる環境が整っていないので断ろうとしたのですが、うちの領がガロ領から大量の農作物を買い取ってもらっている話を持ち出されまして……」
家令たちと一緒に、イリーネも頷きながらマイフカイルの話に耳を傾ける。
「もし僕がサヒーマの受け入れを拒み、ガロ領主殿の機嫌を損ねて農作物の買い取りを停止されてしまえば、領民たちが苦しむのは目に見えていたので……断り切れずにサヒーマを預かりましたが結局弱らせる事態となり、今日にいたっては責任をとる話にまで流れてしまいました」
しょんぼりとしたマイフカイルに、イリーネは相槌を打つ。
「なるほどね」
(この領主、そうやってレルトラスも別の場所から押し付けられたんだろうな)
「我が領の財政に余裕があるわけではないのに、結果的に領民たちに負担をかけることになってしまうかもしれないと思うと、僕は……」
「事情は分かったよ。それで、本題だけど。見て」
イリーネは気弱でお人好しらしいマイフカイルの前にてのひらを差し出す。
そこにはめられた指輪に気づいて、領主は目を丸くした。
「本物ですか? 王家の婚約指輪ということは、まさかあなたはレルトラスの婚約……」
「違う。この指輪、レルトラスの呪いがかけられているんだよ」
イリーネはエアの推測による、レルトラスが指輪にかけた魔術について一通り説明をする。
「それでね、レルトラスと昔からの知り合いで、ラザレの領主をやっているくらいの人物なら博識だろうし、解除方法について知っているかなと思って。でも正直、今日のマイフの振る舞いを見ていたらなんとなく予想はついているんだけど、あいつの魔術の解除方法について知っていることがあったら教えてもらいたいというか」
「ええ。確かにありますね」
マイフカイルがあっさりと頷くので、イリーネは耳を疑う。
「……あるの?」
「ありますね。それがどうかしたのですか?」
「どうもこうも、私はあの悪魔の暇つぶしのために監禁されているんだよ。一緒にいると不快だし落ち着かないし気分悪いし逃げたいの! だから呪いの解き方、教えて!」
「それはちょっと……道徳的に問題ですし」
「ならず者に道徳説くの? マイフはラザレ領主でしょ。あのガロ領のおっさんに言われたお金を全額支払えた方が、ラザレ領民のためにはなるよ」
家令たちを含め、マイフカイルは驚いた様子でイリーネに注目する。
「お嬢さん、何かいい方法を知っているのですか?」
「まぁね。まずは弱らせた責任だから買い取るとか適当に理由つけて、サヒーマをさっさともらったほうがいい。あの子たちを手放したらダメだよ。見ているだけで癒されるし、きちんとケアすれば、たてがみや毛皮にとんでもない能力や値が付くの。それで請求された金額もすぐ支払える」
「ですが、うちにはサヒーマを飼育するための知識も技術も整っていなくて……」
「私が整える。そしてきちんとガロ領主に請求された額を払えたら……レルトラスやエアには秘密で、その道徳的に問題な魔術の解除方法を教えてくれない? もちろん私を騙したり裏切ったら、それなりの方法で代償を払ってもらうつもりだけど」
マイフカイルは家令たちを見回すと、みんなほぼ同時に頷いてくれる。
「道徳よりも、我が領の財政を優先させましょう」
穏やかな感じで全会一致となり、イリーネとマイフカイルの交換条件はあっさりと決まった。
イリーネは面倒なことになる前に帰ろうと、自分の話を進めておくことにする。
「さっきの話だけど。あんた……じゃなくてマイフは、ガロ領のおっさんに騙されて、希少なサヒーマの衰弱した責任を押し付けられたんでしょ?」
イリーネは無礼にもレルトラスにならって呼び捨てにしたが、周囲の家令たちは咎めるどころか、「さすが」「手慣れていますね」など、領主に対する親しみの演出だと誤解しているようだった。
マイフカイル自身は、ガロ領主とのやり取りは火だるまにされたことよりもショックだったのか、イリーネの言葉に肩を落とす。
「みんなにも忠告されましたが、やはりそうなのでしょうか。ガロ領主殿は突然、ラザレ領でサヒーマの世話をして欲しいと、弱ったサヒーマたちを連れて来られたのです。僕は希少なサヒーマを預かる環境が整っていないので断ろうとしたのですが、うちの領がガロ領から大量の農作物を買い取ってもらっている話を持ち出されまして……」
家令たちと一緒に、イリーネも頷きながらマイフカイルの話に耳を傾ける。
「もし僕がサヒーマの受け入れを拒み、ガロ領主殿の機嫌を損ねて農作物の買い取りを停止されてしまえば、領民たちが苦しむのは目に見えていたので……断り切れずにサヒーマを預かりましたが結局弱らせる事態となり、今日にいたっては責任をとる話にまで流れてしまいました」
しょんぼりとしたマイフカイルに、イリーネは相槌を打つ。
「なるほどね」
(この領主、そうやってレルトラスも別の場所から押し付けられたんだろうな)
「我が領の財政に余裕があるわけではないのに、結果的に領民たちに負担をかけることになってしまうかもしれないと思うと、僕は……」
「事情は分かったよ。それで、本題だけど。見て」
イリーネは気弱でお人好しらしいマイフカイルの前にてのひらを差し出す。
そこにはめられた指輪に気づいて、領主は目を丸くした。
「本物ですか? 王家の婚約指輪ということは、まさかあなたはレルトラスの婚約……」
「違う。この指輪、レルトラスの呪いがかけられているんだよ」
イリーネはエアの推測による、レルトラスが指輪にかけた魔術について一通り説明をする。
「それでね、レルトラスと昔からの知り合いで、ラザレの領主をやっているくらいの人物なら博識だろうし、解除方法について知っているかなと思って。でも正直、今日のマイフの振る舞いを見ていたらなんとなく予想はついているんだけど、あいつの魔術の解除方法について知っていることがあったら教えてもらいたいというか」
「ええ。確かにありますね」
マイフカイルがあっさりと頷くので、イリーネは耳を疑う。
「……あるの?」
「ありますね。それがどうかしたのですか?」
「どうもこうも、私はあの悪魔の暇つぶしのために監禁されているんだよ。一緒にいると不快だし落ち着かないし気分悪いし逃げたいの! だから呪いの解き方、教えて!」
「それはちょっと……道徳的に問題ですし」
「ならず者に道徳説くの? マイフはラザレ領主でしょ。あのガロ領のおっさんに言われたお金を全額支払えた方が、ラザレ領民のためにはなるよ」
家令たちを含め、マイフカイルは驚いた様子でイリーネに注目する。
「お嬢さん、何かいい方法を知っているのですか?」
「まぁね。まずは弱らせた責任だから買い取るとか適当に理由つけて、サヒーマをさっさともらったほうがいい。あの子たちを手放したらダメだよ。見ているだけで癒されるし、きちんとケアすれば、たてがみや毛皮にとんでもない能力や値が付くの。それで請求された金額もすぐ支払える」
「ですが、うちにはサヒーマを飼育するための知識も技術も整っていなくて……」
「私が整える。そしてきちんとガロ領主に請求された額を払えたら……レルトラスやエアには秘密で、その道徳的に問題な魔術の解除方法を教えてくれない? もちろん私を騙したり裏切ったら、それなりの方法で代償を払ってもらうつもりだけど」
マイフカイルは家令たちを見回すと、みんなほぼ同時に頷いてくれる。
「道徳よりも、我が領の財政を優先させましょう」
穏やかな感じで全会一致となり、イリーネとマイフカイルの交換条件はあっさりと決まった。
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