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23・贈り物に自分の嗜好は関係ない
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イリーネは素っ気なく忠告したが、ユヴィはどこか楽しそうに微笑んで天井を仰いだ。
「だけど浄蜜のしずくか、懐かしいな。昔はイリーネと俺で、当時住んでいた町の近くの森や川を探索したよな。一緒に木の実採って食べたり、川遊びしたり。そこで水属性の精霊かな……ほら、犬みたいなやつ。二人でレヴィアって名前つけてかわいがったけど。俺たち……結局あいつの好きなもの、わからないままだったな」
思わぬ過去が掘り起こされて、イリーネは無意識に身構える。
(ああ、そっか。レヴィアが死んだとき、ユヴィは泣いていたっけ。大切だから、諦められないって)
心の奥底でいつも食い込んでいる棘が疼くようだった。
それに気づくのが嫌で、イリーネはとっさに話題を変える。
「好きなものといえばね。ユヴィは悪魔が好きそうなものって何かわかる?」
「悪魔? さぁ……っていうか、悪魔ってあの呪いの指輪の送り主のことか?」
「そうそう。あいつ、好きなものないんだって。信じられる?」
イリーネは過去を思い出した居心地の悪さをごまかすように、少し大げさに笑った。
「私なんて食べ物カテゴリーだけでも覚えきれないくらいあるのに。あいつ、昨日から意味不明に拗ねてて面倒だから、何かおみやげでも持って帰って機嫌とろうと思うんだ。でも結局、私が食べて好きなものなら、こっちにとっても好都合という事実に気づいてね……やっぱり酒類が良くない?」
「イリーネ……贈り物に自分の嗜好は関係ないだろ」
「大ありだよ、適当に理由つけて味見するんだから! でもせっかく自由な時間があるんだから、探索して色々採ったものを自慢したい気持ちもあるんだよね。私のまっとうな義賊活動を見せびらかしたいというか、ひけらかしたいというか……そうだ! ベリー系収穫して、あいつにジャムやドライフルーツや醸造酒作らせる趣味を作ってあげるとか名案かも。そうすれば安上がりでごちそうにありつけるしね。私が」
「イリーネ、楽しそうだな」
ユヴィの漏らした言葉に、イリーネは食い意地の張った笑みを引きつらせる。
「えっ」
(そういえば、食べ物の種類を羅列しただけでエアにも食いしん坊って言われたな)
「いや、あの……」
望まぬイメージが付く予感に、イリーネは慌てて言い訳を考えていると、ユヴィがつまらなさそうに息をついた。
「俺の知っているイリーネが人のために尽くすときって、結局自分のためにやるっていうか……。そういうときはたいてい義務的と言うか、淡々としてるけど。今日は違うね」
「……そう? だった、かな」
予想外の指摘に、イリーネはしどろもどろになって言葉が続かない。
(そんな言い方されたら、まるで私が楽しいからあいつに贈り物考えてるみたいなんだけど)
ふとよぎった思いに、イリーネの顔がさっと赤らむ。
「ちっ……違うよ! それは誤解で……ま、まぁ、あいつには命握られていて、捕虜のような気分とはいえ多少快適に過ごしたいというか、それだけというか、その……」
動揺している理由も分からずイリーネは顔をうつむかせると、かぶったフードからはみ出ている柔らかい金髪が揺れた。
ユヴィはそれを指の先ですくい、冷ややかな声で呟く。
「命を握るくらいしないと、イリーネを留めておくことはできないってことか」
熱が引くように感情が静まり、イリーネは息を止めた。
(そうだ、私はユヴィに別れの挨拶もせずあの町を出た。その時のこと、考えないようにしていたけど)
傷つけていたのだと、今になって知らさせたような気がした。
「ごめん、私……」
「いいよ、ローゼのことを諦められなかったのはわかるから。それに俺もね、」
懐かしい母の名前が出てくると、イリーネはそれ以上の話を拒絶するようにぱっと立ち上がり、妙に明るい声を出す。
「あっ、もうこんな時間だ。色々教えてもらって助かったよ。さっさと昼食とってタリカのところに向かわないと、帰りが遅くなりそうだから。私、行くね」
イリーネはユヴィと目を合わせることも出来ず、強張った顔で話を切り上げるとその場から逃げ出した。
「だけど浄蜜のしずくか、懐かしいな。昔はイリーネと俺で、当時住んでいた町の近くの森や川を探索したよな。一緒に木の実採って食べたり、川遊びしたり。そこで水属性の精霊かな……ほら、犬みたいなやつ。二人でレヴィアって名前つけてかわいがったけど。俺たち……結局あいつの好きなもの、わからないままだったな」
思わぬ過去が掘り起こされて、イリーネは無意識に身構える。
(ああ、そっか。レヴィアが死んだとき、ユヴィは泣いていたっけ。大切だから、諦められないって)
心の奥底でいつも食い込んでいる棘が疼くようだった。
それに気づくのが嫌で、イリーネはとっさに話題を変える。
「好きなものといえばね。ユヴィは悪魔が好きそうなものって何かわかる?」
「悪魔? さぁ……っていうか、悪魔ってあの呪いの指輪の送り主のことか?」
「そうそう。あいつ、好きなものないんだって。信じられる?」
イリーネは過去を思い出した居心地の悪さをごまかすように、少し大げさに笑った。
「私なんて食べ物カテゴリーだけでも覚えきれないくらいあるのに。あいつ、昨日から意味不明に拗ねてて面倒だから、何かおみやげでも持って帰って機嫌とろうと思うんだ。でも結局、私が食べて好きなものなら、こっちにとっても好都合という事実に気づいてね……やっぱり酒類が良くない?」
「イリーネ……贈り物に自分の嗜好は関係ないだろ」
「大ありだよ、適当に理由つけて味見するんだから! でもせっかく自由な時間があるんだから、探索して色々採ったものを自慢したい気持ちもあるんだよね。私のまっとうな義賊活動を見せびらかしたいというか、ひけらかしたいというか……そうだ! ベリー系収穫して、あいつにジャムやドライフルーツや醸造酒作らせる趣味を作ってあげるとか名案かも。そうすれば安上がりでごちそうにありつけるしね。私が」
「イリーネ、楽しそうだな」
ユヴィの漏らした言葉に、イリーネは食い意地の張った笑みを引きつらせる。
「えっ」
(そういえば、食べ物の種類を羅列しただけでエアにも食いしん坊って言われたな)
「いや、あの……」
望まぬイメージが付く予感に、イリーネは慌てて言い訳を考えていると、ユヴィがつまらなさそうに息をついた。
「俺の知っているイリーネが人のために尽くすときって、結局自分のためにやるっていうか……。そういうときはたいてい義務的と言うか、淡々としてるけど。今日は違うね」
「……そう? だった、かな」
予想外の指摘に、イリーネはしどろもどろになって言葉が続かない。
(そんな言い方されたら、まるで私が楽しいからあいつに贈り物考えてるみたいなんだけど)
ふとよぎった思いに、イリーネの顔がさっと赤らむ。
「ちっ……違うよ! それは誤解で……ま、まぁ、あいつには命握られていて、捕虜のような気分とはいえ多少快適に過ごしたいというか、それだけというか、その……」
動揺している理由も分からずイリーネは顔をうつむかせると、かぶったフードからはみ出ている柔らかい金髪が揺れた。
ユヴィはそれを指の先ですくい、冷ややかな声で呟く。
「命を握るくらいしないと、イリーネを留めておくことはできないってことか」
熱が引くように感情が静まり、イリーネは息を止めた。
(そうだ、私はユヴィに別れの挨拶もせずあの町を出た。その時のこと、考えないようにしていたけど)
傷つけていたのだと、今になって知らさせたような気がした。
「ごめん、私……」
「いいよ、ローゼのことを諦められなかったのはわかるから。それに俺もね、」
懐かしい母の名前が出てくると、イリーネはそれ以上の話を拒絶するようにぱっと立ち上がり、妙に明るい声を出す。
「あっ、もうこんな時間だ。色々教えてもらって助かったよ。さっさと昼食とってタリカのところに向かわないと、帰りが遅くなりそうだから。私、行くね」
イリーネはユヴィと目を合わせることも出来ず、強張った顔で話を切り上げるとその場から逃げ出した。
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