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27・いい夜になりそうだな
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次にイリーネが目を覚ましたのは、乱暴に体を引っ張られ、さらった人を入れる革袋の中から引きずり出された時だった。
何が起こっているのかよくわからないまま、イリーネは声を上げる。
「痛っ……何すんのよ!」
辺りは木々の生い茂る夜の山だった。
人さらいたちは野宿慣れしているらしく、多少斜面が緩やかで岩や木々の位置から風の影響を受けにくい場所を陣取り、側には赤々と燃えるたき火が音を立てて爆ぜている。
それを見覚えのある男たちが囲んでいた。
イリーネは鈍い意識のまま、しかし懸命に事情を思い起こそうとする。
(困ったな。まだマブラの根が効いている……。質も悪いから頭痛と吐き気が残ってるし、薬の抜け具合から考えて半日程度経ってるくらいかな。疲労や弱体化の倦怠感もあって、頭も身体もロクに動く状況じゃないし……どうしよ)
霞がかかったような思考で必死に考えを巡らせていると、イリーネを革袋から引っ張り出した男、ガラドが彼女のかぶっているフードを取り払った。
そして無遠慮に容貌を見つめる。
「男のガキだと思っていたが……女だな。しかも染料で顔を染めている。たまにいるが……いいねぇ」
イリーネの羽織っていたローブがはがされると、その下に隠されていた長く美しい金髪と、革のベルトや短剣が備えられた明らかに物騒な身なりがあらわになった。
ガラドはイリーネの全身を舐めまわすように視線を巡らせて、満足そうににやつく。
「おまえ、顔を汚してごまかしているが相当の上玉だな」
ガラドが喋るたびに、濃い煙草の匂いが流れてくる。
イリーネが不快そうに顔を背けると、ガラドの言葉を聞いていた男たちは下品な笑い声をあげた。
「なんだ、退屈そうだな。遊んでやるか」
イリーネは無遠慮伸びてきた腕の気配を感じると、反射的に蹴りを入れる。
「……っだああ! 噛まれた場所をっ、ざけんなぁ!!!」
腕を蹴られた男が涙目でわめき、怒りに任せてイリーネに殴りかかろうとしたが、ガラドが割って入った。
「待て。こいつは相当良い値で売れる。価値が落ちない程度に遊ぶだけでやめておけ」
ガラドにいさめられ、蹴られた男は納得のいかない様子で腕をさすりながらも「じゃじゃ馬は好きじゃねぇ……俺はあっちの女にする」と、もう一つの革袋から別の女性を引っぱり出した。
現れた寝ぼけた様子の女、タリカはこの騒々しさの中でもぐっすり眠っていたらしく、ようやく垂れ目がちの潤んだ瞳を開く。
その容姿は二十歳を過ぎたくらいの年頃で、肩の上でふんわりと切りそろえた髪の雰囲気が柔らかく、初対面の人でも安心して声をかけやすいような、親しみやすさのある顔だちをしていた。
飼育員だったこともあるのか、動物といても楽そうな、女性らしくも動きやすい珊瑚色のつなぎを着ている。
「ふあぁ……」
のんきな様子であくびをしたタリカだったが、あっという間に粗野な身なりの男二人がかりで地面に押さえつけられた。
「なっ……何? 何なの、あなたたち……っ!」
「何って。売っぱらう前に遊ばせてもらおうと思ってなぁ」
男たちを前に、タリカの優しい顔立ちがさっと怒りに歪んだ。
「そうだ、あなたたちはピナを……放して! 酷い、どうしてあんなことっ……!」
つらい出来事を唐突に思い出し、平静を失って騒ぐタリカの声は悲痛だった。
イリーネは引き寄せられるようにタリカの方へ動き出そうとしたが、ガラドが力ずくであっという間に地面に押しつける。
「タリカを、放……して!」
イリーネが声を絞り出しつつ拘束を解こうと身をよじったが、弱り果てたその体は動きそうになかった。
「ピナ! ピナはどこなの!」
たき火の奥から、男たちに押さえつけられたタリカが悲しげにあの水の精霊の名を呼び、泣き叫んでいるのが聞こえてくると、イリーネの視界が涙で滲む。
(あの子にタリカを連れて帰るって言ったのに。私、このまま何もできない……)
ガラドは満足そうに笑い声をあげた。
「いい夜になりそうだな」
その言葉が呼び寄せたように、風が不吉に巻き起こる。
ガラドの背後に、滑らかで禍々しい声が降った。
「君たち、イリーネを知らないかい。この辺にいるはずだけど」
静かな声色に威圧感を覚え、男たちは冷や水を浴びせられたように身をすくませると夜空を見上げる。
次にイリーネが目を覚ましたのは、乱暴に体を引っ張られ、さらった人を入れる革袋の中から引きずり出された時だった。
何が起こっているのかよくわからないまま、イリーネは声を上げる。
「痛っ……何すんのよ!」
辺りは木々の生い茂る夜の山だった。
人さらいたちは野宿慣れしているらしく、多少斜面が緩やかで岩や木々の位置から風の影響を受けにくい場所を陣取り、側には赤々と燃えるたき火が音を立てて爆ぜている。
それを見覚えのある男たちが囲んでいた。
イリーネは鈍い意識のまま、しかし懸命に事情を思い起こそうとする。
(困ったな。まだマブラの根が効いている……。質も悪いから頭痛と吐き気が残ってるし、薬の抜け具合から考えて半日程度経ってるくらいかな。疲労や弱体化の倦怠感もあって、頭も身体もロクに動く状況じゃないし……どうしよ)
霞がかかったような思考で必死に考えを巡らせていると、イリーネを革袋から引っ張り出した男、ガラドが彼女のかぶっているフードを取り払った。
そして無遠慮に容貌を見つめる。
「男のガキだと思っていたが……女だな。しかも染料で顔を染めている。たまにいるが……いいねぇ」
イリーネの羽織っていたローブがはがされると、その下に隠されていた長く美しい金髪と、革のベルトや短剣が備えられた明らかに物騒な身なりがあらわになった。
ガラドはイリーネの全身を舐めまわすように視線を巡らせて、満足そうににやつく。
「おまえ、顔を汚してごまかしているが相当の上玉だな」
ガラドが喋るたびに、濃い煙草の匂いが流れてくる。
イリーネが不快そうに顔を背けると、ガラドの言葉を聞いていた男たちは下品な笑い声をあげた。
「なんだ、退屈そうだな。遊んでやるか」
イリーネは無遠慮伸びてきた腕の気配を感じると、反射的に蹴りを入れる。
「……っだああ! 噛まれた場所をっ、ざけんなぁ!!!」
腕を蹴られた男が涙目でわめき、怒りに任せてイリーネに殴りかかろうとしたが、ガラドが割って入った。
「待て。こいつは相当良い値で売れる。価値が落ちない程度に遊ぶだけでやめておけ」
ガラドにいさめられ、蹴られた男は納得のいかない様子で腕をさすりながらも「じゃじゃ馬は好きじゃねぇ……俺はあっちの女にする」と、もう一つの革袋から別の女性を引っぱり出した。
現れた寝ぼけた様子の女、タリカはこの騒々しさの中でもぐっすり眠っていたらしく、ようやく垂れ目がちの潤んだ瞳を開く。
その容姿は二十歳を過ぎたくらいの年頃で、肩の上でふんわりと切りそろえた髪の雰囲気が柔らかく、初対面の人でも安心して声をかけやすいような、親しみやすさのある顔だちをしていた。
飼育員だったこともあるのか、動物といても楽そうな、女性らしくも動きやすい珊瑚色のつなぎを着ている。
「ふあぁ……」
のんきな様子であくびをしたタリカだったが、あっという間に粗野な身なりの男二人がかりで地面に押さえつけられた。
「なっ……何? 何なの、あなたたち……っ!」
「何って。売っぱらう前に遊ばせてもらおうと思ってなぁ」
男たちを前に、タリカの優しい顔立ちがさっと怒りに歪んだ。
「そうだ、あなたたちはピナを……放して! 酷い、どうしてあんなことっ……!」
つらい出来事を唐突に思い出し、平静を失って騒ぐタリカの声は悲痛だった。
イリーネは引き寄せられるようにタリカの方へ動き出そうとしたが、ガラドが力ずくであっという間に地面に押しつける。
「タリカを、放……して!」
イリーネが声を絞り出しつつ拘束を解こうと身をよじったが、弱り果てたその体は動きそうになかった。
「ピナ! ピナはどこなの!」
たき火の奥から、男たちに押さえつけられたタリカが悲しげにあの水の精霊の名を呼び、泣き叫んでいるのが聞こえてくると、イリーネの視界が涙で滲む。
(あの子にタリカを連れて帰るって言ったのに。私、このまま何もできない……)
ガラドは満足そうに笑い声をあげた。
「いい夜になりそうだな」
その言葉が呼び寄せたように、風が不吉に巻き起こる。
ガラドの背後に、滑らかで禍々しい声が降った。
「君たち、イリーネを知らないかい。この辺にいるはずだけど」
静かな声色に威圧感を覚え、男たちは冷や水を浴びせられたように身をすくませると夜空を見上げる。
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