【完結】とある義賊は婚約という名の呪いの指輪がとれません

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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28・おみやげ

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 漆黒の翼を羽ばたかせながら、長身の男が夜の山に降り立つ。

 彼のかぶっていたフードが風ではがれ、血染めのような赤い髪と、邪悪の象徴のように伸びる対の角が現れた。

 その禍々しい美貌に周囲の者たちは一瞬で緊迫したが、男の不吉な瞳は動じることもなく、ガラドに押さえつけられていたイリーネの所で止まる。

「ああ。そこにいたんだね」

 レルトラスが軽く手を振り払うと、ガラドは塵のように吹き飛ばされた。

 そのまま遠くの木の幹に打ち付けられあっけなく失神すると、周囲の者は信じられないように顔を恐怖で歪める。

 ただ一人、現れた悪魔の男にほっとした様子のイリーネは、疲労と残っている薬で朦朧としながらもその名を呼んだ。

「レ、ルト……」

(助かった)

 思わず気持ちが緩み、イリーネは全身から力が抜けて地面に伏したままでいる。

 レルトラスは優雅に歩み寄ってその弱り果てた体を起こし、慈しむように抱き上げた。

「こんなに汚れるまで出歩いて、迷子になって帰れなくなっていたんだね。行こうか」

「待って、あいつら」

 イリーネがレルトラスに体を預けたまま指し示す先には、タリカと彼女を押さえつけた二人の人さらいがいる。

 男たちはレルトラスの威圧感と先ほどのガラドを吹き飛ばした所業を前に、恐怖で歪めた顔中から汚らしく体液を滲ませていた。

「不潔な容貌だね。あれがどうかしたのかい」

「女の人……助けて。連れて帰ろう」

「俺はイリーネだけでいい」

 ためらいなく告げられると、イリーネは複雑な気持ちになってわずかに笑った。

(そうだ。こいつ本当に、自分の視点でしか物事を考えられない奴だった。納得させる理由がないとダメだ)

 イリーネはふと、出かけてからずっと考え続けていたことを口にする。

「おみやげだよ」

「ん?」

「タリカはね、私がレルトラスのために、こんなにひどい目にあってまで見つけ出そうと努力した、とてつもなく考え抜かれたおみやげだよ。彼女を連れて帰ったらレルトラスの今後の人生はもっと面白くなるだろうし、エアだって得意の顔芸見せてくれるくらい驚いて喜ぶよ。タリカはそのくらい素晴らしい力を持っているんだから、とりあえず連れて帰ろうよ」

「そうか」

 レルトラスはあまり興味もなさそうだったが、とりあえず頷いてくれた。

「イリーネがそこまで言うのなら、とりあえず持ち帰って確認してみるよ」

 レロトラスが軽く手を振り上げると、タリカを押さえつけたまま恐怖で硬直していた男たちの体から火柱が上がる。

「「うわああぁっ!」」

 男たちは醜い叫び声を上げながら、身体を舐めつくす火柱を消そうと地面に転がった。

 横たわったままのタリカは呆然とレルトラスを見つめていたが、その冷酷な瞳と視線が合うと、かわいいと言っていいのか微妙な叫び声を上げて跳びはねる。

「ひゃうっ! 人さらいに遭った次は悪魔のおみやげな私の運命ってー!」

 タリカは慌てた様子で辺りを見回し、今まで入っていた革袋の中に頭を突っ込んで潜った。

「それに私の評価、全く知らない男の子に絶賛されているけど……それ絶対、今しがた作り上げた嘘としか思えないよー! 私は失業中の女で! さらにお金も恋人もないただの動物オタクで、拾っても損だしっ! 悪魔さん、だから私のことは見なかったことにしてー!」

 有無を言わせぬ静かな足音がタリカに迫ってくる。

「どうするのかを決めるのは俺で、君に選択権はないよ」

「ひゃうっ!」

 レルトラスは紳士的にかがみ込み、イリーネを抱き上げていないほうの手でタリカの入っている袋を掴み上げると翼を羽ばたかせ、夜空に飛び上がった。



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