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29・悪魔の雑学試してみた
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***
破壊的な何かが弾ける轟音と振動で、イリーネは飛び起きた。
エアとタリカの悲鳴が聞こえてくる。
何事かと見回すと、いつもの部屋の寝台にいた。
「レルトラス様! 魔術の球体を人に向けて放ってはいけません!」
扉の奥から聞こえてくるエアの叫びに対し、返事のように再び衝撃音が壁を揺らした。
「ひゃうっ!」
覚えのあるタリカの変わった悲鳴も聞こえ、イリーネはまだ痛む身体をよろめかせながら寝台を降りると、戦場のような音のする扉を少しだけ開く。
部屋に立つレルトラスは、眩く荒ぶる雷柱を片手に爆ぜさせながら、壁際で怯える妖精と女性を冷ややかに見つめていた。
「イリーネがおみやげだというから試してみたけれど、耐えられそうにないよ」
「ご、ごめんなさいっ! 悪魔なんて物騒な生き物なかなか見る機会が無くて、つい知っている雑学が本当か試してしまってー!」
「お待ち下さいレルトラス様! タリカ様のおかげでレルトラス様はとても遊びがいのある髪……いえ魅力的になりましたよ! イリーネ様もきっと気に入って下さいます!」
(遊びがいのある髪?)
エアがそう言うので気になり、イリーネはつい前に出て扉を少し押すと、レルトラスが目を向けてくる。
「イリーネ、起きたのかい。まだ歩けるような状態ではないと、そこのおみやげに言われたけれど、嘘かな」
「本当だよ」
イリーネはぐったりとした身体を壁に寄りかけた。
「あんたがエアとタリカをいじめている音がうるさくて、とても寝てられない」
「いじめ? 嫌がらせを受けているのは俺だよ」
真顔で言うレルトラスの髪は、確かにいつもと違う。
彼の血染めのように赤い髪は、つやつやと光沢を放ちながら背中まで伸びていて、お人形遊びが好きなエアの趣味らしく、三つ編みに結ばれていた。
イリーネは彼の美しさに目を奪われ、うっかり頭の中でエアの好きそうな少女風のドレスを着せてしまうと、なかなか似合っているのが余計におかしく思えてきて、笑いをこらえられずに床にうずくまった。
レルトラスは不可解そうに手のひらで弾ける雷柱を握って消すと、壁際ではエアとタリカが助かったという脱力感をあらわにして床に座り込む。
イリーネは笑いすぎて涙目になりながら、そばまでやって来たレルトラスを見上げた。
「どうして急に、そんなに髪がきれいに伸びたの?」
「タリカが悪魔にまつわる雑学を試したいと言うからね。イリーネのおみやげだし、何か面白いことでもあるのかと思って従ってみたら、じっと座らされて色々つけられた挙句、無駄に光沢を増しながら髪が伸びたよ。それを見たエアが悪い癖を発揮して俺の髪で遊びはじめてね」
(へぇ。人に合わせられないレルトラスがじっと椅子に座ったり、髪の毛で遊ばれたりするのを我慢してたのか)
そんな事情で、怒りの沸点が低いレルトラスの忍耐は先ほど切れたらしい。
イリーネはやはり笑ってしまったが、それでも少しだけ反省した。
「ごめん。私がおみやげだって言ったから無理させて」
「ああ。他人に構われるということは今まであまりなかったけれど、とても煩わしくてうっとうしいよ。やはり対人関係というのは脅しが一番無難なのだろうね」
彼らしく威圧的な人生観を確立させているレルトラスは、先ほどからイリーネが自分を見て笑いを押し殺し続けているので、不思議そうに見つめる。
危険思想のレルトラスの機嫌を損ねないようにと、イリーネは言い訳をした。
「その、私が笑ってるのは、似合いすぎてるから、つい……。ああ、もちろん褒めてるんだよ」
まさか少女風の女装を想像されているとは知らず、レルトラスは笑いすぎて立てなくなっているイリーネの言葉をそのまま信じたのか、どことなく顔つきから毒気が抜ける。
「この無駄に艶のある長い髪、気に入ったのかい」
「うん。色々想像しすぎてつらいけど、そのうち収まるから」
「そうか。ただ、体は休めておくべきだよ」
レルトラスはイリーネを抱き上げると、すぐ背後の彼女の部屋に連れて行き、丁重に寝台に横たえた。
イリーネはこのままだと笑いが止まらないと悟り、とりあえずレルトラスの三つ編みをほどく。
(後で切ってあげて、付属効果とかあるのか調べてみようかな。悪魔の髪の毛とか怪しい店で売れそうだし)
破壊的な何かが弾ける轟音と振動で、イリーネは飛び起きた。
エアとタリカの悲鳴が聞こえてくる。
何事かと見回すと、いつもの部屋の寝台にいた。
「レルトラス様! 魔術の球体を人に向けて放ってはいけません!」
扉の奥から聞こえてくるエアの叫びに対し、返事のように再び衝撃音が壁を揺らした。
「ひゃうっ!」
覚えのあるタリカの変わった悲鳴も聞こえ、イリーネはまだ痛む身体をよろめかせながら寝台を降りると、戦場のような音のする扉を少しだけ開く。
部屋に立つレルトラスは、眩く荒ぶる雷柱を片手に爆ぜさせながら、壁際で怯える妖精と女性を冷ややかに見つめていた。
「イリーネがおみやげだというから試してみたけれど、耐えられそうにないよ」
「ご、ごめんなさいっ! 悪魔なんて物騒な生き物なかなか見る機会が無くて、つい知っている雑学が本当か試してしまってー!」
「お待ち下さいレルトラス様! タリカ様のおかげでレルトラス様はとても遊びがいのある髪……いえ魅力的になりましたよ! イリーネ様もきっと気に入って下さいます!」
(遊びがいのある髪?)
エアがそう言うので気になり、イリーネはつい前に出て扉を少し押すと、レルトラスが目を向けてくる。
「イリーネ、起きたのかい。まだ歩けるような状態ではないと、そこのおみやげに言われたけれど、嘘かな」
「本当だよ」
イリーネはぐったりとした身体を壁に寄りかけた。
「あんたがエアとタリカをいじめている音がうるさくて、とても寝てられない」
「いじめ? 嫌がらせを受けているのは俺だよ」
真顔で言うレルトラスの髪は、確かにいつもと違う。
彼の血染めのように赤い髪は、つやつやと光沢を放ちながら背中まで伸びていて、お人形遊びが好きなエアの趣味らしく、三つ編みに結ばれていた。
イリーネは彼の美しさに目を奪われ、うっかり頭の中でエアの好きそうな少女風のドレスを着せてしまうと、なかなか似合っているのが余計におかしく思えてきて、笑いをこらえられずに床にうずくまった。
レルトラスは不可解そうに手のひらで弾ける雷柱を握って消すと、壁際ではエアとタリカが助かったという脱力感をあらわにして床に座り込む。
イリーネは笑いすぎて涙目になりながら、そばまでやって来たレルトラスを見上げた。
「どうして急に、そんなに髪がきれいに伸びたの?」
「タリカが悪魔にまつわる雑学を試したいと言うからね。イリーネのおみやげだし、何か面白いことでもあるのかと思って従ってみたら、じっと座らされて色々つけられた挙句、無駄に光沢を増しながら髪が伸びたよ。それを見たエアが悪い癖を発揮して俺の髪で遊びはじめてね」
(へぇ。人に合わせられないレルトラスがじっと椅子に座ったり、髪の毛で遊ばれたりするのを我慢してたのか)
そんな事情で、怒りの沸点が低いレルトラスの忍耐は先ほど切れたらしい。
イリーネはやはり笑ってしまったが、それでも少しだけ反省した。
「ごめん。私がおみやげだって言ったから無理させて」
「ああ。他人に構われるということは今まであまりなかったけれど、とても煩わしくてうっとうしいよ。やはり対人関係というのは脅しが一番無難なのだろうね」
彼らしく威圧的な人生観を確立させているレルトラスは、先ほどからイリーネが自分を見て笑いを押し殺し続けているので、不思議そうに見つめる。
危険思想のレルトラスの機嫌を損ねないようにと、イリーネは言い訳をした。
「その、私が笑ってるのは、似合いすぎてるから、つい……。ああ、もちろん褒めてるんだよ」
まさか少女風の女装を想像されているとは知らず、レルトラスは笑いすぎて立てなくなっているイリーネの言葉をそのまま信じたのか、どことなく顔つきから毒気が抜ける。
「この無駄に艶のある長い髪、気に入ったのかい」
「うん。色々想像しすぎてつらいけど、そのうち収まるから」
「そうか。ただ、体は休めておくべきだよ」
レルトラスはイリーネを抱き上げると、すぐ背後の彼女の部屋に連れて行き、丁重に寝台に横たえた。
イリーネはこのままだと笑いが止まらないと悟り、とりあえずレルトラスの三つ編みをほどく。
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