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34・エアは好きにしてもいい
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「サヒーマの毛並み、きれいになったね」
「でしょー?」
イリーネはタリカの腕の中で満足そうにしているサヒーマを見つめた。
縮れていた毛づやには光沢が増して、ヒョウ柄の模様もきれいに出てきている。
以前角を切り取った頭部の傷跡からも、新しいものがちょこんと顔を出していて、純白とはいかないが柔らかい白味のある色をしていた。
「以前猛毒になりかけていたこの子たちの角を切り取ったの、イリーネなんでしょ? 痛みや出血を最小限に抑えた技術で驚いたよ! すごく上手だねー」
「私は義賊だから。探索をして面白いものを自分で採るのが仕事だし」
「あー、だからエアさんを時々捕まえようとしてるのかな?」
「そうそう。だけど妖精って敏捷性高いね。そう思うとますます捕まえたくなるけど、難しいんだよなぁ」
「だけどイリーネ、サヒーマには乱暴しないでよ」
「わかってるって」
(そして、エアは好きにしてもいいんだな)
イリーネは自分に都合よく解釈すると本題に入る。
「それでね。さっきマイフのところに行って、タリカを正式にサヒーマの飼育員として雇用する話は確認してきたから。サヒーマに詳しいシモナがタリカのことを評価してるって聞いたし、期待してるからね。改めて、この子たちのことよろしく」
「やったー! またサヒーマの飼育員になれるなんてラッキー。イリーネのおかげで人さらいからも助けてもらえたし、本当にありがとう!」
「だけど私、タリカを助けてって言ったあの子には何も出来なかったんだ……ごめん」
イリーネが水の精霊のことを言っているのだとわかり、タリカの笑顔がわずかに曇った。
「イリーネ、ピナの声が聞こえたの?」
「うん」
タリカは静かに微笑んで瞳を潤ませる。
「それはね、ピナがイリーネのこと信頼したからなんだよ。あの子がイリーネを信じたから、イリーネが来てくれたから、私は助かったんだ。だから私はピナとイリーネにもらった命だと思って、私が出来ること……弱ったサヒーマたちを一生懸命お世話するからね。あ、でも嫌じゃないよ。私、サヒーマ大好きなの。なんだよー」
タリカは腕の中のサヒーマにそう声をかける。
サヒーマは気持ち良さそうに、タリカの肩に顎を預けて目を細めた。
(タリカ、やっぱり悲しそうだけど、明るくふるまってくれてる。まだ会ったばかりだけど、サヒーマたちのことはこの人に任せることができて良かったのは間違いなさそう。ユヴィが教えてくれたおかげだな)
「タリカ。あの水の精霊の好きな食べものって、なんだろう?」
「あの子たちはね、森の空気を食べるんだよー」
(そっか、だからレヴィアは……)
今さらになって、幼いころユヴィと世話をした水の精霊が何も食べずに死んでいった謎が解ける。
レヴィアを失い、狂ったように泣き止まない幼いユヴィを思い出して、イリーネはうすら寒い気持ちになった。
(あの時、もしユヴィの母さんが……シモナがいなくなったらユヴィはどうなるんだろうって、眠れなくなるほど怖かったな)
「それがどうかしたの?」
イリーネはもの悲しい思いに囚われかけたが、そのことは胸にしまって気持ちを切り替えた。
「ううん。ちょっと気になっただけだから。ね、タリカ。さっそくだけどこの子の毛に、四属性耐性の効果付ける協力して欲しいんだけど」
「えっ。イリーネって相当頭悪いと思っていた所だったのに、サヒーマのことは結構詳しい?」
(その評価、どう受け取ればいいんだろ)
「まぁ義賊だし、お宝には多少詳しいよ。サヒーマのことはシモナからちょっと聞いたり、あとは露店販売やよろず屋で見かけたこともあって興味あったんだ。属性耐性の効果はみんな欲しいし、それを四つも付けたら……相当いい値段つくよね」
「もしかして、サヒーマを育てるのはお金稼ぎが目的なの?」
(あ、つい本音が出たけど。タリカに協力してもらえないと困るな)
イリーネは慌てて、マイフカイルがガロ領主にいいようにされて負った情けない被害金という事実を、サヒーマと領民のためを思っての美談に仕立て上げて説明した。
「そんなわけで、ラザレ領民を苦しめないようにしたいし、サヒーマたちをお世話するための資金も欲しいし……タリカの力が必要なんだよ。サヒーマを傷つけるようなことはしないって約束するから。お願い、ガロ領主に納得してもらうためのお金を集めるのに協力して!」
「いいよいいよ! 私お金大好きだし!」
タリカの明るい、特に最後の言葉に、イリーネは拍子抜けする。
「え……そうなんだ。ちょっと意外だけど」
「そう? 私はイリーネみたいに悪そうな仕事をするほどたくましくもないし、しばらく無職で心細くて辛かったんだー。あのボロい山奥の家で、一生懸命節約とかしてね。だからサヒーマをかわいがって、がっぽがっぽ稼ぐの賛成ー!」
「がっぽがっぽ……」
「でもお金を目的にするなら、実用性のある属性耐性もいいけど、富裕層をターゲットにした豪華さが重要だと思うな! だから私好みの、つやつやふわふわのサヒーマにしよー!」
イリーネは少し呆気にとられつつも、予想以上に商魂たくましいタリカの協力を得られることは心強かった。
「でしょー?」
イリーネはタリカの腕の中で満足そうにしているサヒーマを見つめた。
縮れていた毛づやには光沢が増して、ヒョウ柄の模様もきれいに出てきている。
以前角を切り取った頭部の傷跡からも、新しいものがちょこんと顔を出していて、純白とはいかないが柔らかい白味のある色をしていた。
「以前猛毒になりかけていたこの子たちの角を切り取ったの、イリーネなんでしょ? 痛みや出血を最小限に抑えた技術で驚いたよ! すごく上手だねー」
「私は義賊だから。探索をして面白いものを自分で採るのが仕事だし」
「あー、だからエアさんを時々捕まえようとしてるのかな?」
「そうそう。だけど妖精って敏捷性高いね。そう思うとますます捕まえたくなるけど、難しいんだよなぁ」
「だけどイリーネ、サヒーマには乱暴しないでよ」
「わかってるって」
(そして、エアは好きにしてもいいんだな)
イリーネは自分に都合よく解釈すると本題に入る。
「それでね。さっきマイフのところに行って、タリカを正式にサヒーマの飼育員として雇用する話は確認してきたから。サヒーマに詳しいシモナがタリカのことを評価してるって聞いたし、期待してるからね。改めて、この子たちのことよろしく」
「やったー! またサヒーマの飼育員になれるなんてラッキー。イリーネのおかげで人さらいからも助けてもらえたし、本当にありがとう!」
「だけど私、タリカを助けてって言ったあの子には何も出来なかったんだ……ごめん」
イリーネが水の精霊のことを言っているのだとわかり、タリカの笑顔がわずかに曇った。
「イリーネ、ピナの声が聞こえたの?」
「うん」
タリカは静かに微笑んで瞳を潤ませる。
「それはね、ピナがイリーネのこと信頼したからなんだよ。あの子がイリーネを信じたから、イリーネが来てくれたから、私は助かったんだ。だから私はピナとイリーネにもらった命だと思って、私が出来ること……弱ったサヒーマたちを一生懸命お世話するからね。あ、でも嫌じゃないよ。私、サヒーマ大好きなの。なんだよー」
タリカは腕の中のサヒーマにそう声をかける。
サヒーマは気持ち良さそうに、タリカの肩に顎を預けて目を細めた。
(タリカ、やっぱり悲しそうだけど、明るくふるまってくれてる。まだ会ったばかりだけど、サヒーマたちのことはこの人に任せることができて良かったのは間違いなさそう。ユヴィが教えてくれたおかげだな)
「タリカ。あの水の精霊の好きな食べものって、なんだろう?」
「あの子たちはね、森の空気を食べるんだよー」
(そっか、だからレヴィアは……)
今さらになって、幼いころユヴィと世話をした水の精霊が何も食べずに死んでいった謎が解ける。
レヴィアを失い、狂ったように泣き止まない幼いユヴィを思い出して、イリーネはうすら寒い気持ちになった。
(あの時、もしユヴィの母さんが……シモナがいなくなったらユヴィはどうなるんだろうって、眠れなくなるほど怖かったな)
「それがどうかしたの?」
イリーネはもの悲しい思いに囚われかけたが、そのことは胸にしまって気持ちを切り替えた。
「ううん。ちょっと気になっただけだから。ね、タリカ。さっそくだけどこの子の毛に、四属性耐性の効果付ける協力して欲しいんだけど」
「えっ。イリーネって相当頭悪いと思っていた所だったのに、サヒーマのことは結構詳しい?」
(その評価、どう受け取ればいいんだろ)
「まぁ義賊だし、お宝には多少詳しいよ。サヒーマのことはシモナからちょっと聞いたり、あとは露店販売やよろず屋で見かけたこともあって興味あったんだ。属性耐性の効果はみんな欲しいし、それを四つも付けたら……相当いい値段つくよね」
「もしかして、サヒーマを育てるのはお金稼ぎが目的なの?」
(あ、つい本音が出たけど。タリカに協力してもらえないと困るな)
イリーネは慌てて、マイフカイルがガロ領主にいいようにされて負った情けない被害金という事実を、サヒーマと領民のためを思っての美談に仕立て上げて説明した。
「そんなわけで、ラザレ領民を苦しめないようにしたいし、サヒーマたちをお世話するための資金も欲しいし……タリカの力が必要なんだよ。サヒーマを傷つけるようなことはしないって約束するから。お願い、ガロ領主に納得してもらうためのお金を集めるのに協力して!」
「いいよいいよ! 私お金大好きだし!」
タリカの明るい、特に最後の言葉に、イリーネは拍子抜けする。
「え……そうなんだ。ちょっと意外だけど」
「そう? 私はイリーネみたいに悪そうな仕事をするほどたくましくもないし、しばらく無職で心細くて辛かったんだー。あのボロい山奥の家で、一生懸命節約とかしてね。だからサヒーマをかわいがって、がっぽがっぽ稼ぐの賛成ー!」
「がっぽがっぽ……」
「でもお金を目的にするなら、実用性のある属性耐性もいいけど、富裕層をターゲットにした豪華さが重要だと思うな! だから私好みの、つやつやふわふわのサヒーマにしよー!」
イリーネは少し呆気にとられつつも、予想以上に商魂たくましいタリカの協力を得られることは心強かった。
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