【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

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45 エピローグ

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「おかあさま!」

 小さく息を弾ませながら、大聖女は走り出す。
 馬車から降り立つ女帝に駆け寄り、二人はしっかりと抱き合った。

 女帝の袖口からのぞく手首には、愛娘から贈られた赤い花のブレスレットが輝いている。

(よかった。本当に、よかった……)

 その場にいる誰もが、温かな眼差しでその光景を見守っていた。

「わたくし、ほんとうに……ほんとうに、おかあさまといっしょにくらせますの?」

「ああ。アルージュが猊下に話してくれたおかげだ」

 大聖女が振り返ると、大司教は穏やかに頷く。

「聖女が見る啓示は、神獣の夢。これからは神獣に尋ねればよいのです」

「アルージュさま、ありがとうございます!」

 大聖女の心からの笑顔が、そこにある。
 秘めていた願いが今、確かに叶ったのだ。

 私の隣にいるエトワールが、パチパチと瞬きをする。
 そして、少し寂しそうに大聖女を見つめる。

「これから……レオしゃまと、あそべない……?」

 その小さな声に大聖女が女帝を見上げ、不安そうに口を開いた。

「おかあさま、エトはわたくしの、たいせつなおともだちですの」

「良い友は宝だ。今日も、そしてこれからも、皇城へ招こう」

「よかった……! エト、いきましょう!」

「あいっ!」

 こうして私たちは、そろって馬車へと乗り込んだ。

 大聖堂の尖塔が、少しずつ遠ざかっていく。
 窓際で景色を見つめる大聖女は、別れを告げるようにそっと手を振る。

「でも……たのしいおもいでが、たくさんありますわ」

 こうして、大聖女レオノールは、皇女へと戻った。

 それは喪失ではない。
 神獣の啓示が帝国を照らし始めた証だった。

   ◇

 皇城の門をくぐると、そこには広大な庭園が広がっていた。

「あれは……いったい、なんですの!?」

 レオノールの視線の先、庭園の中央には巨大なメリーゴーランド。
 陽の光を受け、きらきらと輝いていた。

「レオしゃまに、プレゼントでしゅ!」

 それは先日、エトワールがレオノールの好きなおもちゃについて話している最中に、召喚したものだった。

(エトの召喚、ますますレベル上がってるわ……!)

 女帝に相談したところ、「ちょうど、マナの実の駆除任務がなくなった魔術師たちがいる」と笑って――彼らが動力調整を請け負い、ついにお披露目となったのだ。

 私たちはそれぞれ、親子で乗り込む。
 軽やかな音楽が流れ、メリーゴーランドがゆっくりと回り始めた。

「あっ、おかぁしゃま。これ、くるくるってしゅるのね! ね、レオしゃま!」

「ええ! とってもたのしいですわ!」

 明るい音楽に合わせ、みんなで手を振り合う。
 気づけば私も、子どもに戻ったみたいに笑っていた。

 弾む声が重なり、高い青空に溶けていく。

「みてください、おかあさま! ぜんぶ、ぜんぶキラキラしてますわ!」

「ふふ……レオノールの帰りを祝福しているのだろう」

 回転するメリーゴーランドとともに、止まっていた母と娘の時間が、ようやく動き出していくようだった。



   ◇ ◇ ◇

「それで……どうして神獣様が、公爵邸にいらっしゃるのですか?」

「夢で見た」

(ってことは、それ。聖女が見る啓示の断片じゃなくて、純度百パーセントの啓示!?)

 いったい、どれほど重大なお告げがあってここにいるのだろう。

 思わず身構える。
 神獣は厳かな面持ちで、重々しく口を開いた。

「主のそばにいれば、甘味の試作を一番に食すことができる」

(……啓示じゃなくてもわかるわ!)

 一気に脱力した私とは対照的に、神獣はやけに堂々としている。
 ちなみに、そのサイズはチワワ級。小犬化した今はエトワールの遊び部屋で、悠然と寝そべっている。

 こうしてすっかり公爵邸での暮らしを満喫中――どう見ても目的は「食」だけど。

 とはいえ、マナの実の駆除を引き受けてくれるおかげで、公爵の負担が減って助かってるのも事実だ。

「して、次の甘味の試作はいつだ?」

「甘味ではありませんけど。お昼に新作のコロッケがありますよ」

「なにっ!? その『ころっけ』とやら、いますぐきょうせ!」

「いぬしゃん、『まて』なのよ。おいちぃは、おさんぽのあと!」

「む……仕方があるまい。では、それまで『おさんぽ』を許可する」

 口調はいかめしいのに、所望するのはコロッケ。
 神獣は尻尾をぱたぱたと揺らしながら、エトワールにハーネスを誇らしげに付けてもらっている。

 ちなみにこのハーネス、エトワールの召喚品だ。
 これで神獣を散歩させるようになってから、犬を飼っている貴族の間で評判になっているらしい。

「おかぁしゃま、あいっ!」

 明るい声とともに、私に差し出された小さな手。
 それは驚くほどしっかりと、私の手を取った。

 その仕草がかわいくて頼もしくて、少しくすぐったい。
 こんな成長は、きっと彼の影響もある。

 エトワールと繋いでいない方の私の手を、そばにいた公爵がそっと包み込む。

「エト、リュノール様の真似をするようになりましたね」

「俺と同じだ。大切なものを守りたいんだろう」

 その言葉が、胸の奥へ静かに染みていく。

(……私が書きたいのは、この物語の続き)

 私は家族と手を繋ぎ、晴れ渡る街を歩き出した。

 すれ違う人々が、次々と笑顔で手を振ってくる。
 赤い髪が風に揺れても、もう誰もその色を恐れない。

 神獣が変わったくしゃみをして、みんなで和やかに笑う。

「おさんぽ、おもちろい!」

 エトワールがにっこりして、私の手をぎゅっと握った。

「エトね、おかぁしゃま、だいしゅき!」

「お母様も、エトが大好きよ!」

「俺を忘れるな」

 公爵が私の額にそっと唇を寄せてきて、私は小さく頷く。

 かつて、物語の悪妻だったアルージュ。
 私はこれから、まだ描かれていない今を歩んでいく。

 その事実だけで、世界は鮮やかな光に満ちて見えた。

 ーーーーー

 最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
 少しでも楽しんでいただけていましたら何よりです。
 現在、新作を準備中です。見かけたときはお気軽に寄っていただけますと嬉しいです。
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感想 8

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みんなの感想(8件)

くーちゃん
2026.01.06 くーちゃん

素敵な物語ありがとうございました。
読みながら笑ったり、少し泣いてしまいました☺️

2026.01.06 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

こちらこそ、素敵なご感想ありがとうございました。色々なことを感じていただけて、本当に嬉しいです☺️

解除
sanzo
2025.12.07 sanzo

素敵なお話でした✨️
確かに「その後」見てみたいですね😊

2025.12.07 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

温かいご感想をありがとうございます✨
その後を見てみたいというお言葉が、とても嬉しいです😊

解除
蓮
2025.11.19

とても素敵なお話でほっこりしました❤️‍🔥
番外編のご予定はありませんか?
またエトくんに会いたいです❣️

2025.11.19 入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆

嬉しいご感想をありがとうございます✨️
ほっこりしていただけて、エトが聞いたらにこにこしてしまいます…!
番外編の予定はまだないのですが、「また会いたい」と言ってもらえて本当に励みになります
もしエトがひょっこり現れたときは、ぜひ遊びに来てくださいね❣️

解除

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