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1・4 叔母とハーブティー
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「でもおかしいわね。ロイエは私に会えないとわかっているんだし、てっきり他の女性とデートでもすると思ったんだけど」
「……他の女性とデート?」
叔母が怪訝な顔をするので、エルーシャは首を傾げた。
(あれ、言ってなかったかしら)
エルーシャがロイエと婚約を結んでから半年、ふたりの関係はあまりにも悲惨だった。
そのためすっかり感覚が麻痺している。
エルーシャはロイエから浮気をくり返されていると、他人事のように説明した。
「というわけなのよ。って、あの。ヘレナ叔母様……?」
叔母の表情がみるみるうちに殺気立っていく。
そして子どもや施療院の患者には聞かせられないような、呪わしい言葉を何度も吐いた。
エルーシャは叔母をそばの椅子に座らせてから、心を落ち着かせるハーブティーを淹れる。
叔母はそれを豪快に飲み干し深呼吸した。
「さすがに我慢ならないわ! エルの類まれな天恵を残すためとはいえ、王家と結んだ婚姻相手がロイエだなんて!! 私は……私はあなたの両親になんて謝ればいいの?」
叔母はカップを握りしめたままうつむく。
エルーシャはその背に手を置いた。
いつも気丈に振る舞う叔母の本音を聞いた気がする。
「ヘレナ叔母様、私もこの婚約の条件に納得していたの。本当よ」
エルーシャの両親は3年前、研究のために出張していた地で荒魔竜に襲われ、帰らぬ人となった。
それからエルーシャは、両親が治めていた領地を守ると決める。
交渉材料として、自分の婚姻相手の条件を王家に委ねた。
そして王家が国にとって最重要の天恵を持つエルーシャを尊重しつつ提案したのは、『荒魔竜を倒した英雄』だった。
その英雄が男性で3年以内に現れれば、エルーシャはその人物と婚約の誓約を結ぶ。
そうでない場合は別の婚約者候補を王家側で再選定する、という取り決めになった。
その条件にエルーシャ自身も同意している。
「だって荒魔竜が倒されたら、私の両親のような犠牲者はこれ以上増えないもの。自分の身の危険も顧みず、人を苦しめる荒魔竜を討伐してくれる方なら、喜んで伴侶にさせてほしいと思ったわ」
しかし現れたのは、まさかのロイエだった。
(ああっ、思い出すとやっぱり腹立たしいわ! 荒魔竜を討伐して国を救った英雄が現れたと聞いて、うきうきしながら会いに行った過去を抹消したいっ!!)
エルーシャは心を落ち着けようと、叔母と一緒にハーブティーを豪快に飲んだ。
「でもヘレナ叔母様、私はもうロイエにわずらわされないわ。そのために色々考えているの。だから安心してね」
「ふふ。私を励ましてくれるのね、ありがとう。エルは両親のどちらにも似ているわ。幼いころからやさしくて、愛嬌があって……。なにより覚悟を決めたときの行動力と、人への思いやりはそっくりよ。その才能もね」
ふたりはテーブルに並べられた魔石の群れに目を向ける。
(このひと月ほどで、試作用の魔石も十分にそろえることができたわ)
魔力測定石の改良は、もう完成間近だ。
(でも完成だけでは足りない。改良されたものが信頼できると、公に認められる必要があるもの。正攻法なら来年までかかるけれど、それではロイエとの婚姻後になってしまう)
エルーシャは先ほど届いた手紙をもう一度確認する。
(よし。裏技を使うわ)
まもなく使用人のフリッツが報告に戻ってきた。
「……他の女性とデート?」
叔母が怪訝な顔をするので、エルーシャは首を傾げた。
(あれ、言ってなかったかしら)
エルーシャがロイエと婚約を結んでから半年、ふたりの関係はあまりにも悲惨だった。
そのためすっかり感覚が麻痺している。
エルーシャはロイエから浮気をくり返されていると、他人事のように説明した。
「というわけなのよ。って、あの。ヘレナ叔母様……?」
叔母の表情がみるみるうちに殺気立っていく。
そして子どもや施療院の患者には聞かせられないような、呪わしい言葉を何度も吐いた。
エルーシャは叔母をそばの椅子に座らせてから、心を落ち着かせるハーブティーを淹れる。
叔母はそれを豪快に飲み干し深呼吸した。
「さすがに我慢ならないわ! エルの類まれな天恵を残すためとはいえ、王家と結んだ婚姻相手がロイエだなんて!! 私は……私はあなたの両親になんて謝ればいいの?」
叔母はカップを握りしめたままうつむく。
エルーシャはその背に手を置いた。
いつも気丈に振る舞う叔母の本音を聞いた気がする。
「ヘレナ叔母様、私もこの婚約の条件に納得していたの。本当よ」
エルーシャの両親は3年前、研究のために出張していた地で荒魔竜に襲われ、帰らぬ人となった。
それからエルーシャは、両親が治めていた領地を守ると決める。
交渉材料として、自分の婚姻相手の条件を王家に委ねた。
そして王家が国にとって最重要の天恵を持つエルーシャを尊重しつつ提案したのは、『荒魔竜を倒した英雄』だった。
その英雄が男性で3年以内に現れれば、エルーシャはその人物と婚約の誓約を結ぶ。
そうでない場合は別の婚約者候補を王家側で再選定する、という取り決めになった。
その条件にエルーシャ自身も同意している。
「だって荒魔竜が倒されたら、私の両親のような犠牲者はこれ以上増えないもの。自分の身の危険も顧みず、人を苦しめる荒魔竜を討伐してくれる方なら、喜んで伴侶にさせてほしいと思ったわ」
しかし現れたのは、まさかのロイエだった。
(ああっ、思い出すとやっぱり腹立たしいわ! 荒魔竜を討伐して国を救った英雄が現れたと聞いて、うきうきしながら会いに行った過去を抹消したいっ!!)
エルーシャは心を落ち着けようと、叔母と一緒にハーブティーを豪快に飲んだ。
「でもヘレナ叔母様、私はもうロイエにわずらわされないわ。そのために色々考えているの。だから安心してね」
「ふふ。私を励ましてくれるのね、ありがとう。エルは両親のどちらにも似ているわ。幼いころからやさしくて、愛嬌があって……。なにより覚悟を決めたときの行動力と、人への思いやりはそっくりよ。その才能もね」
ふたりはテーブルに並べられた魔石の群れに目を向ける。
(このひと月ほどで、試作用の魔石も十分にそろえることができたわ)
魔力測定石の改良は、もう完成間近だ。
(でも完成だけでは足りない。改良されたものが信頼できると、公に認められる必要があるもの。正攻法なら来年までかかるけれど、それではロイエとの婚姻後になってしまう)
エルーシャは先ほど届いた手紙をもう一度確認する。
(よし。裏技を使うわ)
まもなく使用人のフリッツが報告に戻ってきた。
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