水の申し子は無双したい訳じゃない

烏帽子 博

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ep2

調査官

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「ぼくは、今回の事件で派遣されてきた、チャラ・イリッチだ。
 パパに言われて、ここまできたんだけど、本当に田舎だね。
 今日は、当然歓迎会を開いてくれるんだろう。
 20歳以下の受付嬢は、全員参加で、あ、可愛い娘なら冒険者も呼んでね。」

「イリッチさんのお父様は、あの本部長のアマー・イリッチさんですよね。」

「うん、そうだよ。ハックさんだっけ。ぼくがパパに頼めば、君をもっと大きい街のギルド長にできるよ。」

「ありがとうございます。私はこの街が好きなので、お気持ちだけ嬉しくいただきます。」

「ああ、そうだ『スライムダンジョン』が消滅した時に居あわせたパーティーMRAも呼んでくれよ。女性だけのパーティーでAランクなんだろう」

「えっ はい、声はかけますが来れるかどうかは。」

「今夜会えなくても、事情聴取はしないといけないから、どっちみち会う事にはなるんだ。
 ぼくにいい印象を持ってもらいたかったら、来ることを薦めるよ。」

 ハックは、チャラ・イリッチがただの親の七光りのボンボンようにも、本当はそう見せておいて実はキレ者かもとも思え、計りかねていた。

 〈やはり警戒は、するべきだな〉

 その夜歓迎パーティーは、冒険者ギルドで、開催された。

 シェリー、ミルド、ロキシーがアクアを隠すようにしていたが、
 アクアが、チャラ・イリッチを見てみようとした一瞬だけ、目が合ってしまった。
 するとすぐにチャラ・イリッチが、アクアの元に近寄って来た。

 ミルドがすぐにアクアを後に隠したが

「ゴリラ女邪魔だよ。ぼくは可憐な後の彼女と話しが有るんだ。」

「彼女は、あなたと話すことは無いそうよ」

「ムム お前、ぼくを誰だと思っている。
 ぼくのパパは、アマー・イリッチだぞ」

「あんたのパパに、同情するわよ。こんな息子じゃ苦労させられるわね。」

 ミルドは、お尻の所で「行け」という感じのハンドサインを送った。
 ロキシーがアクアをかばうようにアクアを逃がそうとした。

「ハック!何とかしろよ!
 ぼくは、そこの銀髪の娘と話がしたいだけなのに、このゴリラ女が邪魔するんだよ。」

「調査官!彼女は、A級ライセンスの冒険者のミルドです。
 何人かいる後の娘の保護者の一人です。
 後の娘と話をしたかったら、保護者の彼女たちの許可を先にお取り下さい。」

「ムムム ぼくは、調査官のチャラ・イリッチだぞ。
 パパは、アマー・イリッチなんだぞ。
 そして、今、この席は、ぼくのための歓迎パーティーなんだろ。
 おかしいだろ。ぼくに対してこの扱いは!」

 ハックはミルドに手を合わせて拝んでいる。
 ミルドは、頭をブンブン横に振っていた。

 その時アクアがロキシーの手を離し、ミルドの横をすり抜けて前に出た。

「おじさん、私に話があるの?
 私は、おじさんと話すことなんか無いわ。」

「君に、聞きたいことがいくつか有るんだよ。
 少しだけ二人で話をしようね。」

 そう言ってチャラ・イリッチはアクアに手をのばした。
 しかし、その手はアクアの水のベールによって弾かれた。

「触らないで!」

「アハハ ごめんね。」

 もう一度アクアに近寄ろうとしたチャラ・イリッチは、体ごと弾き飛ばされた。

 すぐにシェリーが駆け寄って、回復魔法のヒールをかけて、チャラ・イリッチを助けて起こした。

 シェリーを見て、チャラ・イリッチが

「君も可愛いなあ~ 後でぼくと」

 シェリーの手刀が、チャラの首筋に決まった。

「少し酔い過ぎられたようですね」

 チャラは、ハックによって部屋に運ばれて寝かされた。



 ◇



「知らない天井だ。」

 チャラは、ガンガンとした頭痛と吐き気に襲われながら目が覚めた。

 そこは、チェックインした宿でも無く、狭い質素な部屋だった。

 〈ぼくは、誘拐されたのか?〉

 そんな考えがチャラの頭をよぎった時

「おはようございます。お加減はいかがですか?
 昨日はかなり酔ってらして、寝込まれてしまったので、仕方なくここでお休みいただきました。」

「そんなに飲んだ覚えは無いが」

チャラがそう思うのは当然だ、シェリーの手刀によって倒された後、アクアの魔法で、胃に直接ワインをしこたま流し込まれていたのだった。

「トイレに行きたい」

リバースすると、頭がジンジンしたが、少し楽になった。
そのまま床にへたり込んでいるところに、ハックがやって来て先程の部屋に連れ込まれた。

「もう少し、お休みになられたほうがいいでしょう。」

ハックは、そう言って、出て行き。チャラは再び眠ることにした。

チャラ・イリッチは、夕方になって漸くのそのそと動き、宿へと帰って行った。





翌日
チャラ・イリッチは、朝から冒険者ギルドに来て、ダンジョン消滅の経緯を調べていた。

「ハック! ハック! ハックギルド長!」

「はい、なんでしょう調査官」

「当日ダンジョン内に居たパーティーの中で、異常なほど数多く討伐した者がいるじゃないか。
え~っと、名前はアクアだ。
ん Cランクじゃないか。
なんでCランクがこんなにたくさんの、しかも、はぐれスライムや、メタルキングまで。
おかしい。絶対怪しい。
ハックはこいつを調べたのか?」

「ああ アクアですね。
確かにあの子はCランクですが、実力はAともSとも言われてる子で、不思議じゃないですよ。
パーティーのミルドとロキシーのAランカーがガードしながら、全部彼女に倒させたと言ってましたよ。」

「なんの為にそんなことしたんだ。」

「当然経験値集めと、ランクアップの為でしょう。
実際この討伐実績でBランクに彼女はランクアップしましたからね。」

「Aランカー二人に守られて、Aランク以上の実力者がランクアップの実績作りか。
確かに矛盾はしないな。
だが、なにかきっと見落としが有るはずだ。
そのパーティメンバーからぼくが直接聞き込みをする。
そいつらを連れて来るんだ。」

「シェリー パーティMRAの動向はわかるかい」

「はい、ギルド長。
彼らなら、昨日からダンジョン『あやかしの森』攻略に行きましたよ。」

「『あやかしの森』かぁ~
それじゃあ早くても5日間位戻る迄必要だな」

「そんなに早く戻れますかね」

「彼らなら、そんなもんだろ」

ハックとシェリーのやり取りを黙って聞いていたチャラ・イリッチが口を開いた。

「5日間も、待ってはいられない。それではぼくの与えられた調査期間が終わってしまう。
そこで調査官権限で君達二人に私との同行を命じる。
我々三人もダンジョン『あやかしの森』に向い、パーティーMRAとの合流を目指し、合流でき次第聴取を行う」

「調査官。ダンジョン内で、彼女らに追いつくのは、難しいと思いますよ。
この三人で、彼女たち以上のスピードで討伐しながら進むのは無理ですよ。まして彼女たちから既に1日遅れています。」

「それならダンジョンの出入り口で待つのはどうだ。」

「彼女たちがここまで戻るのも、我々が迎えに行ってからここに戻るのも同じように1日かかるなら、時間の短縮にはなりません。
むしろ、彼女たちの方が移動する速度が速いのではと私は思ってます。
だとしたら、いたずらに動かずここで待つのが賢明だと思います。」

「ハックギルド長、君はぼくと一緒に行くのが嫌で、そんな事を言ってるんじゃあ無いだろうね。」

「嫌だなんて、滅相も有りません」

「えっと、シェリーだっけ、君はどう思う?」

「ギルド長も一緒ならいいですが、私もまだ乙女なので、チャラ・イリッチさんと二人は、困りますぅ~」

「そういうことじゃ無くて、ぼくが彼女らと少しでも早く有って、話を聞くにはどうしたらいいか、相談してるんだよ。」

「それだったら、ギルド長と同意見です。
彼女たちの攻略スピードと移動スピードに賭けるべきです。」

「それはどういうことだ」

「スライムダンジョン攻略でも、予想以上のスピードでしたから。他に根拠はありませんけど。」

「うう~ん。
じっと待つのは性分じゃないが、それが一番の方法みたいだな。
仕方ない。待つとしょう。」

「念の為、こちらに最速で戻るようにと『あやかしの森』検問所まで手紙を送っておきます。」

「そうだな。そうしてくれ。」

こうしてチャラ・イリッチ調査官は、アクアたちの帰りを待つことになった。


♧♢♡♤♧♢♡♤

金持ちでチャラ男、嫌ですねー
ああでも、金持ちって、なれるならなってみたいです。
貧乏人のひがみです。

祝 Hot男性向け Top10入り

沢山の皆さんの応援で果たすことができました。
大感謝いたしてます。
これからもよろしくお願いします。
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