もしも僕がいなくなったら

そらね

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第1章

無常と無情

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「ここが職員室だ。あの先生に話しかけてみたらいい。僕は用事があるからまた後で」
「あっ、ちょっと…」
 カゲはこの場から去って行った。何も知らない僕を一人にするだなんてひどいじゃないか。
「失礼します」
 僕は、職員室に入った。
 カゲの言ったあの先生に話しかけた。
「あの…」
 何と言ったらいいのかわからない。さっきこの世界から来たばかりですとでも言った方がいいのか、それともこの高校に通いたいのですがと言った方がいいのか。
 わからない。
「貴方はここに来たばかりですね。希望の光なのですぐわかりました」
 背が高くて、細い体型にロングヘアーの先生である。
 希望の光。まただ。カゲと同じことを言っている。意味がわからない。ここにいる人は、僕のことを希望の光というあだ名でもつけているのだろうか?
「あっ、あの…この世界は一体どうなっているのか教えてください。あと、この高校に通わせてください」
 これでいいのか。通わせてくださいだなんて変だったかもしれないが。
 先生は笑いをこらえている。やっぱりおかしかったんだ。
「ええ、もちろん。ここしか通う所はありません。これからよろしくお願いします。それで、この世界のことですが…話はとても長くなると思いますが、それでも構いませんか?」
「はい。お願いします」
 先生は真剣に話し始めた。
「まず、この世界には表側にはないものがあります。何だと思いますか?人間であれば誰もが持っているもの。それは、感情です」
 感情がない?僕にはちゃんとある。他の人はないのだろか?感情がなかったらもちろん表情もない。なにも感じない。それじゃぁこの世界に来た意味がないじゃないか。
「貴方は感情がしっかりしています。が、この世界にいる人の9割が引きこもりやいじめにあった人、親に捨てられたなどが多いんです。想像してみてください。感情は悲しみから無に変わっていくのです。何も考えないほうがいいからです。嫌なことも考えないほうがいいですよね?無になることで感情が薄くなり、またはなくなり、表情もなくなるのです。でも、なくなりすぎてしまった。これがこの世界の一番の問題。貴方みたいに、平穏に生きたくてここに来て楽しんだりしたいなんてことはないのです。いじめられたとしたら、この世界に来ることでいじめはなくなります。当たり前のことですが。しかし、今さら楽しむことなんてできない人たちばっかり。もう充分に表側の世界で感情と表情が薄れているため、ここに来ても悪化する一方です」
 僕にとっては難しい話だった。わからない、わからない、ますますわからない。だから何だって話になる。だから僕に何をして欲しいんだって思う。ここに来たら自由なんだから普通は喜ぶだろう。悪化することなんてあるのか。感情と表情?取り戻せとでも言うのか?
「あの、自由ならそれでいいじゃないですか?」
「もちろん。でも貴方がこの高校に通うようになったらよくわかりますよ。無情と無常がね」

 どうでもいいだなんて思う自分もいる。僕はただ生きていればいい。他人なんて知らない。
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