もしも僕がいなくなったら

そらね

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第1章

静寂

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「というお話。おっ、雨が止んできたかな?」
 確かに、止んできた。
「さっ、宿に行こうか?」
「うん」
 さっきのカゲの話を聞いて、色々と考えさせられることがたくさんあった。十輝って人は、この世界で何をしてきたのだろう?僕も十輝って人と同じことをしなければならないのか。
「あっ、あの人…何してるの?」
 川の近くに少女がいた。紙に何かを書いて、川に流そうとしていた。
「ん?あの人は短冊に願いを書いて川に流しているんだ」
「川に?短冊を?」
「そう。短冊は表側の世界に届くなんて噂があるんだ。まっ、流したところで何もないけどね」
「そうなんだ」
 流す意味がないなら流さなくていいのに。
「願いを込めて流すのもいいかもね。僕にはその行動がよくわからないけど」
「うん」
「おっ、見えてきたよ。あれが宿」
 意外と立派な宿にびっくりした。外見も宿の周りも綺麗に手入れしてあり、周りの景色が美しかった。
「じゃ、入ろっか」
 戸を開けた時の光に、僕はほっとした。なぜだか自分でもわからないけど。
「いらっしゃい。新しい子かい?」
「えぇ。この人はこの宿の女将さんの梅さん」
「よろしくね」
「よろしくお願いします」
 とても綺麗な人だった。柄が美しい薄いピンク色の着物も見事に着こなしている。
「お部屋、案内しますね」
「え、もう準備してあったんですか?」
「もちろん。貴方が来るのをずっと待っておりましたから」
「そうそう。僕も待ってた」
 いや、そんなこと言われても困る。僕は普通の人である。神様でも何でもないのに、僕が降臨して来ましたみたいな雰囲気である。
「このお部屋をお使いください」
 なんだか懐かしい気がする部屋だった。見たところ、設備はしっかりしている。
「カゲの部屋は?」
「えっ、隣だけど」
 カゲと僕は笑った。カゲが隣なら安心だ。
「食事の時間も入浴の時間も彼に伝えておきます」
「ありがとう。それでは、ごゆっくりどうぞ」
「食事は、六時半。入浴は朝の五時から夜の十二時までだから。あっ、部屋食だからね」
「わかった。着替えとかは?」
「梅さんが用意してくれるから」
「う、うん」
「じゃ、部屋でのんびりどうぞー」
 ガチャ。
 行ってしまったカゲ。といっても隣の部屋だが。
「ゆっくり、考えるか」
 僕は寝転がって、この世界のことと、カゲの話について考え始めた。
 僕にとって、初めての静寂の夜であった。
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