魔探偵探偵事務所

カクカラ

文字の大きさ
86 / 101
1章4節 幸せの居場所

3-12 (107話)

しおりを挟む
あれから数日。あの一件からひと段落していた。
イスに座りながら窓から射してくる光を浴びていた。
目をつぶりながら考え事もせず有意義ゆういぎな時間を過ごしていた。
静かな事務所に浸り始めていく。
しかし、ふとしたことであの記憶が蘇る。
あの金髪の男の姿が。
思い出したくないものを思い出す。
嫌な時間を過ごしてしまうハメになった。
ため息交じりになりながらも目をつぶる。
秘書も今日は休みで1人での時間が長くなる。
仕事のことなんか考えたくなかった。
そんなことを思っていたらあのうるさい人達がやってくる。

「来てやったぞーっ!」

大声で来たという台詞をかましてくる西崎。
慌てるように岩城は止めに入る。

「そんなうるさくせんでもええやないですか・・・」
「何言ってんだよ!こういう時こそうるさくするのがいいんじゃねーか、なぁ!っていねーし・・・」

うるさいのが部屋中に充満じゅうまんしてくる。
有意義な雰囲気が一瞬にしてつぶれた。
あの男はどんな神経をしているんだと飽き飽きしていた。
シンはイスを西崎達の方にクルッと回した。

「いますよ。どこに目をつけてるんです?」
「俺をバカにしてるだろ」

西崎はドカドカと歩いて依頼者が座る席にドッカリと座った。
岩城はペコペコとシンに頭を下げながら西崎の隣に座った。

「あれからあの子どうしてるんだ?」
「依頼者ならちゃんと学校に通ってますよ。あのストーカー女と一緒にね。休んでられないなんて言うもんだから困ったもんだと親もなげいてましたよ」
「無理してんじゃねーの?少しぐらい休めばいいのによ、勉強の事も学校の事もさ。楽にするが一番なのに」
「西崎さんみたいにここを休憩所にして仕事をさぼるようなことはしませんから」

高笑いしながら西崎は笑っていたが、さぼるっていうワードだけで顔が怒ったような顔をした。
休憩所って。本当に仕事をさぼってるみたいじゃないか。
警察をなめているのかとシンを睨みつけた。
苦笑いをする岩城を見た西崎はグーパンチで脳天に1発浴びせた。

「でも、ホンマに大丈夫なんですか?これからどうするかなんて聞いてないんやないですか?」
「それは直接言いに来ますよ。ちゃんとしたをもらうために」

ちゃんとした報酬というのはどういう意味なのだろうか。
あれだけじゃなかったと言いたいのか。
そんな時コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
どうぞとシンが言うと中に入ってきたのは依頼者である黛本人だった。

「んだ嬢ちゃんじゃねーか。いらっしゃい」
「ここはあなたの家じゃないですよ」

一言余計な事を付け加えていく。
イライラさせるようなことを毎回言ってくる。
本当に可愛くない奴だな。

「あの・・・報酬を渡しに来ました。今回はありがとうございます。叔母もきっと天国で私の事を楽しそうに見てると思います」
「報酬なんていりませんよ」

その言葉にシンを見つめた西崎と岩城。
報酬を断るなんてどういうつもりなのだ。
頭でも打ったのではないかと心配をする。

「報酬はいらない?」
「どういうことなんですか?報酬をいらないなんてシン君らしくないやないですか」
「報酬なら既に貰ってるからですよ。依頼者である人の叔母からね」

いつ貰ったというのだろうか。
こんな場で堂々と言えるなんて何か怪しい。
あの葬式の時に貰ったのなら西崎と岩城が見ているはずなのに、何も貰っていなかった。
ではどこで貰ったのだろうか。

「いつだよ?貰ってる所なんて見てないぞ」
「つい2・3日前です。直接会いに来たんですよ、本人が」

直接会いに来たということは幽霊となってシンの所に来たということになる。
でも、何を伝えていったのだろうか。
疑問が残るが依頼者がいるのなら言っても構わない。
西崎と岩城はズシッとした姿で話に耳を傾ける。

「あなたを、美沙さんをうちの探偵事務所に入れてほしいという伝言を」

事務所に入れてほしいなんていうのをシンに直接言いに行くなんてどうかしている。
でも、何でそんなことを言ったのだろうか。
何かちゃんとした理由があるのか。

「どういう事だよ」
「何でも昔、あなたは引きこもりになっていたそうですね。学校に行くのも嫌になっただとか。何故だったのかは聞きません。そんな人達を1人でも多く救ってほしいとの事でして。それを受け入れるのでしたらこちらとしては断る理由なんてありません。是非こちらとしては歓迎かんげいしたい所存しょぞんです。もし、あなたが断るのでしたらそれでも構いません。これはあなた次第。入るも入らないもそれを決めるのは私ではありません。依頼者であるあなたが決めることです」

思い出していく辛い過去。
引きこもりという暗い影。
そこに光が射してきた。
手を差し伸べてくれる人が今目の前にいる。
何も聞かずにただただ依頼者の目線に立っている。
シンは知っている。でも、知らないフリをしてこの場を収めようとしている。
溢れてくる涙。優しさが、温もりが、そして痛みが。
そんな心を動かしていく力を持っている。
同じ境遇きょうぐうの人間が今ここにいる。
そう思うだけで涙がこぼれていく。
居場所が、安心できる居場所ができたという事を改めて感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

淡色に揺れる

かなめ
恋愛
とある高校の女子生徒たちが繰り広げる、甘く透き通った、百合色の物語です。 ほのぼのとしていて甘酸っぱい、まるで少年漫画のような純粋な恋色をお楽しみいただけます。 ★登場人物 白川蓮(しらかわ れん) 太陽みたいに眩しくて天真爛漫な高校2年生。短い髪と小柄な体格から、遠くから見れば少年と見間違われることもしばしば。ちょっと天然で、恋愛に関してはキス未満の付き合いをした元カレが一人いるほど純潔。女子硬式テニス部に所属している。 水沢詩弦(みずさわ しづる) クールビューティーでやや気が強く、部活の後輩達からちょっぴり恐れられている高校3年生。その美しく整った顔と華奢な体格により男子たちからの人気は高い。本人は控えめな胸を気にしているらしいが、そこもまた良し。蓮と同じく女子テニス部に所属している。 宮坂彩里(みやさか あやり) 明るくて男女後輩みんなから好かれるムードメーカーの高校3年生。詩弦とは系統の違うキューティー美女でスタイルは抜群。もちろん男子からの支持は熱い。女子テニス部に所属しており、詩弦とはジュニア時代からダブルスのペアを組んでいるが、2人は犬猿の仲である。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...