魔探偵探偵事務所

カクカラ

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1章5節 盤上の世紀末

2-1 (119話)

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夏真っ盛りなのに周りは静かすぎて夏という感じではない。
室内にクーラーがかかっていて部屋全体が涼しい。
しかし、やる気が起こらない。だらけてばかりいても何も始まらない。
勉強どころでもないが、やらなければ2学期に影響が出る。
内申点ないしんてんに響くぐらいならやった方がいいかもしれない。
座ってばかりいても解決できるくらいなら何だってやっている。
だが、昨日のあんな状況で翌日に勉強できるかと思うと無理しか頭にない。
それでも宿題をやっている人間が1人。外を眺めている人間が1人。
不穏な空気の中でできるなんて考えられない。
ため息ばかり漏らす真織は天井を見続けたまま考え事をしていた。
机には学校の夏休みの宿題が。手につけていないことが丸わかり。

「ねぇ、宿題やったら?天井見上げてるぐらいならやった方が気が紛れるんじゃない?」

平気な顔をして勉強している美沙。
昨日あんな事があったのにそっけない顔をして誤魔化そうとしている。
怖い顔をしていたシンを見るのは初めてなのに次の日には何もなかったような顔に。
昨日今日で忘れられるなんて真織にはできなかった。

「そんな事言われたって・・・。無理に決まってんじゃん。シン君のあんな顔を見たら誰だって思い出すし・・・」

小さな声で美沙に言ってみたのはいいが、美沙は何気ない顔で返事をしていく。
あの顔がトラウマなのか何をするにも気が入らない。
どんな事をしても思い出すあの顔。
忘れられるならすぐにでも忘れたいのに、ちょっとしたゆるみで思い出してしまう。
どんな事でもいいから忘れられる方法を教えてほしい。

「それは分かるけど、今はそれに触れないっていう事も考えないと。一番傷ついているのはシン君なんだから」
「でも・・・」

すると、外を見ていたシンが椅子を回して美沙達の方を向いて一言言った。

「喋ってないで勉強しろ。依頼がないからこそ今出来ることをやるんだな」

そう言ってまた椅子を回して外を見上げてしまった。だったら自分はどうなんだ。
宿題していない人に命令されるくらいなら自分だってサボってやっても構わない。
聞いてみてもいいかもしれないけど、何て言われてしまうか怖い・・・。
それを察したのか美沙は真織にこう言い放った。

「シン君見て訴えても無駄だよ。宿題全部終わってるし」

それを言われてしまっては真織は固まるしかすべがない。
こんなにも早く宿題を終わらせてしまっているのか。
まだ夏休み始まって一週間ぐらいしか経ってないのに、もう終わっているなんて侮れない人間。むしろ、怪物。
勉強好きじゃなきゃこんな早く出来ないでしょ。
暇になってもそれはどうしようもない話。そうなるくらいなら自分も早くしておけばよかった。
夏休みが終わる何日か前に慌てて宿題をやるのはもう疲れた。
今のうちにやってしまえば楽という快感が待っている。
暇なのだから集中してみよう。真織は仕方なく勉強の方に目を向けた。
頭が痛くなりそうな位の文字の量と数式。
チンプンカンプンな問題により頭を悩ませた。
シャープペンを持ってやり始めようとしたその時だった。

「ひねくれ者はいるか!」

バタン!と扉が開くと、西崎が大きい声でシンらしき人の事を呼んだ。
響く声にピクリとビックリする2人。
しかし、この人は椅子を回して何食わぬ顔をして西崎を見た。

「うるさいですよ、今この2人勉強してるんで邪魔しないでください」
「そ、そうか。悪い悪い・・・じゃねーよ!!俺がそんな簡単に帰ると思ったか!?」

帰ろうとする仕草を見せたが、フェイントして戻ってきた。
1人になるとテンションが上がるからか何でもノリにのってくれる。
誰かが居る居ないでここまで大まかな事をしてくれるのは西崎の特権なのかもしれない。
フェイントして戻って行った先に向かったのはシンの座っている席。
ズカズカと大股で歩いて怖い顔で1歩1歩近づいてくる。
目を追うように西崎の向かっていくのを見ていた2人は宿題していた手を止めた。
顔色一つ変えないシンの席に西崎が前に立ち構えている。
目を合わせて火花を散らす2人。目と目で何かを話しているような雰囲気。
睨みつけるように見つめる西崎とただただ何食わない顔で見るシン。
先に口を開いたのは西崎の方だった。

「お前、あの娘に何言った?」
「何も言ってないですよ。西崎さんこそ何か言われました?」

質問を質問で返す言い争い。
その言葉に少し苛立ちがきたのかシンの使っている机を平手で思い切り叩いた。

「とぼけてんじゃねーぞ。あの娘が俺達の所に来たんだ。「直接言いに行けばいい」って言ったら、「怖い顔してどっか行った」って言ったって。お前、あの娘に何言ったんだ?」
「何も言ってませんよ」
「本当かぁ?」

あの時の事を言っている。
西崎でもあの事件の事に関しては何も知らない。
本当に誰にも言っていないという裏付けが出来る。
それでもシンは誤魔化そうとはぐらかす。

「何も言ってないって言ってるでしょ。何を根拠こんきょに疑ってんです?」

それでもしらを切って何もなかったように冷静な顔をして話す。
疑いたいのに疑えない。でも、あの娘の言い分は正しい。
嘘偽りない言い方だった。こんな形で言い争うことなんてしたくなかった。
本当の事さえ話してくれれば納得して事が収まるのに、かたくなに何もないと言い張る。
隠しておかなければいけない事情なんてあるのか?頼むから話してくれ。
信用しないといけない立場だから言ってるんだ。
あの時の事は忘れたくても忘れられない。助けてくれたあの時は。
だから、信用しているんだ。なのに何を隠している。
全て話してくれたっていいじゃないか。
隠していたっていつかはバレるんだ。隠し事なしでさらけ出してくれ。
それなのに・・・あいつは。

「とりあえずこの事は今は中断だ。いずれお前の口から話してくれたらいいからよ。それよりお前に頼まれていた事を伝えに来た。依頼人はあの娘だ」
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