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初飛行
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離陸した玉虫はなおも加速して、機首を上げて空に向かって飛び上がっていく。
人の背丈を超えて、なおも上昇している姿を見せつけられ、誰もが玉虫が空を飛んだことを認めるしか無かった。
青空の中に吸い込まれるように上がっていく姿を全員が静かに、いや声に出せない程、感動して黙って視線だけで追いかけていった。
玉虫に乗っている忠弥は後ろをみて櫓の高さまで上がったことを確認すると操縦桿を戻して水平飛行に移る。
目の前にある泡入りの曲面ガラスで水平を確認して機体のバランスを微調整する。
「水平飛行に入った、これから旋回する」
機体が真っ直ぐ飛んでいるのを確認すると、旋回するのが飛行計画だ。
空を自由に飛んでいると証明するには上昇、旋回、下降の三つの動作を行う必要があると忠弥は結論づけた。
飛行に必要な最小限の三つの要素だからだ。
他にも必要だと後から言われるだろうが、忠弥はこの三つを行うことが飛行成功だと決めて達成するべく自ら努力を重ねた。
その二つ目である旋回を始めた。
忠弥は足下のラダーを左に踏んだ。
飛行機は、徐々に機首を左へ向けていく。
だが思ったよりも旋回しない、いや旋回していない。機首が左に向いただけで、左へ進路を変更していない。
「どういうことだ」
慌てた忠弥だったが、直ぐに原因を思い出す。
「補助翼を使ってねえや」
補助翼を使って機体を傾けていないことに忠弥は気がついた。
方向舵だけで曲がろうとすると機体は横滑りを起こし、機首の方向が進路とズレるだけで旋回しない。
旋回するには機体を傾ける必要がある。
忠弥は落ち着いて操縦桿を上に引き、少し左に傾ける。機体が左に傾き始めるとようやく玉虫は左旋回を始めた。
思ったより旋回に手間取り観客の真上を通ってしまったが、人々は驚いてこちらを見ている。
落ちると勘違いして逃げる人もいたが、多くの人はゆっくりと優雅に旋回する姿に見とれていた。
そして一回転すると今度は右にラダーを踏み、右へ機体を傾けて右旋回する。
今度は踏み込みに慣れたので、今度は補助翼を使い機体を右に傾けることで、より小さい半径で回りきることが出来た。
「ふう、なんとかなったな」
目標であった二番目の旋回は左右共に成功した。残るは一つ。
元の飛行コースに戻ると忠弥は操縦桿を前に倒して、高度を下げていった。
「いよいよだ」
忠弥は緊張した。
世界で初めて着陸を行うのだ。
飛行機にとって一番難しい操作は着陸と言われている。高度を下げるスピードが遅いと希望の地点に着陸できないし、早すぎると機体を強く地面にぶつけてしまい結果墜落となってしまう。
忠弥は地面が近づくとスロットルを閉じて機体を水平にする。機体の速度が落ちてきたら機首を少し持ち上げ失速させた。
翼はその表面に気流を流すことで揚力を産む。
だが、飛行機が飛ぶのに必要な揚力が生まれるには風の速度が一定以上ないとダメだ。
また十分な速度でも風に対して翼が水平かある程度の角度の範囲内に収める必要がある。翼の角度を必要以上に付けると表面の気流が乱れて剥離し、揚力を喪失する。
これを失速と言い飛行機が落ちる大きな原因だ。
だが飛行機はこの状況を着陸寸前で起こし機体を接地させる。
忠弥は地面との距離を確認してから操縦桿を引いて機体を失速させ最後の高度を落下させた。
「!」
機体が地面に接地すると、激しい衝撃が忠弥を襲う。
砂埃が立ち上がり、忠弥の視界を遮る。
忠弥は咄嗟にスロットルを閉じ、燃料コックとエンジンスイッチを切った。
推力を失った飛行機は、地面との摩擦で急速に速度を落として行きやがて停止した。
「……止まった」
無事に止まった事に忠弥は安堵する。
「忠弥!」
放心状態の忠弥に声を掛けながら真っ先に走り寄ってきたのは昴だった。
「忠弥! やったわね!」
「す、昴、どうしたの」
「何を言っているのよ! 貴方はやり遂げたのよ」
「やり遂げた?」
「成功したのよ! 世界初の初の飛行を! 人類初の有人動力飛行を成功させたのよ!」
昴の言葉が忠弥の頭の中に少しずつ頭の中に染み込んでいく。
「……そうか」
やがて忠弥はその言葉の意味を理解した。
「僕はやり遂げたんだ! 人類初の有人動力飛行に!」
操縦することに無我夢中で着陸の衝撃で放心状態となっていた忠弥は昴の言葉で自分の成し遂げたことを初めて実感した
「やった! やったんだ!」
「もう、しっかりしてください」
「ははは、着陸した衝撃で動揺したよ」
そして忠弥は嬉しさのあまり、余計な事を口にしてしまった。
「成功したのは昴のお陰だ。お礼に何かしたい。何でも言って」
デジャブのある台詞を忠弥は言ってしまった。
その言葉の意味と記憶を思い出した時、赤面してしまった。
訂正しようにも既に口から出てしまっている。
気が付くと周りには飛行を成功させた忠弥を一目見ようと観客が集まっており、今の忠弥の言葉をしっかりと聞いていた。
何より目の前の昴の顔が真っ赤に染まっていた。
今のなしとはとても言えない状況だった。
「あ、あの……昴さん」
忠弥は恐る恐る昴に尋ねた。
「は、はい!」
驚きのあまり、昴は大声で答えた。
「何か願い事はありますか」
「……はい」
昴は自分の願いを忠弥に言った。
「私も一緒に空を飛ばせて下さい」
人の背丈を超えて、なおも上昇している姿を見せつけられ、誰もが玉虫が空を飛んだことを認めるしか無かった。
青空の中に吸い込まれるように上がっていく姿を全員が静かに、いや声に出せない程、感動して黙って視線だけで追いかけていった。
玉虫に乗っている忠弥は後ろをみて櫓の高さまで上がったことを確認すると操縦桿を戻して水平飛行に移る。
目の前にある泡入りの曲面ガラスで水平を確認して機体のバランスを微調整する。
「水平飛行に入った、これから旋回する」
機体が真っ直ぐ飛んでいるのを確認すると、旋回するのが飛行計画だ。
空を自由に飛んでいると証明するには上昇、旋回、下降の三つの動作を行う必要があると忠弥は結論づけた。
飛行に必要な最小限の三つの要素だからだ。
他にも必要だと後から言われるだろうが、忠弥はこの三つを行うことが飛行成功だと決めて達成するべく自ら努力を重ねた。
その二つ目である旋回を始めた。
忠弥は足下のラダーを左に踏んだ。
飛行機は、徐々に機首を左へ向けていく。
だが思ったよりも旋回しない、いや旋回していない。機首が左に向いただけで、左へ進路を変更していない。
「どういうことだ」
慌てた忠弥だったが、直ぐに原因を思い出す。
「補助翼を使ってねえや」
補助翼を使って機体を傾けていないことに忠弥は気がついた。
方向舵だけで曲がろうとすると機体は横滑りを起こし、機首の方向が進路とズレるだけで旋回しない。
旋回するには機体を傾ける必要がある。
忠弥は落ち着いて操縦桿を上に引き、少し左に傾ける。機体が左に傾き始めるとようやく玉虫は左旋回を始めた。
思ったより旋回に手間取り観客の真上を通ってしまったが、人々は驚いてこちらを見ている。
落ちると勘違いして逃げる人もいたが、多くの人はゆっくりと優雅に旋回する姿に見とれていた。
そして一回転すると今度は右にラダーを踏み、右へ機体を傾けて右旋回する。
今度は踏み込みに慣れたので、今度は補助翼を使い機体を右に傾けることで、より小さい半径で回りきることが出来た。
「ふう、なんとかなったな」
目標であった二番目の旋回は左右共に成功した。残るは一つ。
元の飛行コースに戻ると忠弥は操縦桿を前に倒して、高度を下げていった。
「いよいよだ」
忠弥は緊張した。
世界で初めて着陸を行うのだ。
飛行機にとって一番難しい操作は着陸と言われている。高度を下げるスピードが遅いと希望の地点に着陸できないし、早すぎると機体を強く地面にぶつけてしまい結果墜落となってしまう。
忠弥は地面が近づくとスロットルを閉じて機体を水平にする。機体の速度が落ちてきたら機首を少し持ち上げ失速させた。
翼はその表面に気流を流すことで揚力を産む。
だが、飛行機が飛ぶのに必要な揚力が生まれるには風の速度が一定以上ないとダメだ。
また十分な速度でも風に対して翼が水平かある程度の角度の範囲内に収める必要がある。翼の角度を必要以上に付けると表面の気流が乱れて剥離し、揚力を喪失する。
これを失速と言い飛行機が落ちる大きな原因だ。
だが飛行機はこの状況を着陸寸前で起こし機体を接地させる。
忠弥は地面との距離を確認してから操縦桿を引いて機体を失速させ最後の高度を落下させた。
「!」
機体が地面に接地すると、激しい衝撃が忠弥を襲う。
砂埃が立ち上がり、忠弥の視界を遮る。
忠弥は咄嗟にスロットルを閉じ、燃料コックとエンジンスイッチを切った。
推力を失った飛行機は、地面との摩擦で急速に速度を落として行きやがて停止した。
「……止まった」
無事に止まった事に忠弥は安堵する。
「忠弥!」
放心状態の忠弥に声を掛けながら真っ先に走り寄ってきたのは昴だった。
「忠弥! やったわね!」
「す、昴、どうしたの」
「何を言っているのよ! 貴方はやり遂げたのよ」
「やり遂げた?」
「成功したのよ! 世界初の初の飛行を! 人類初の有人動力飛行を成功させたのよ!」
昴の言葉が忠弥の頭の中に少しずつ頭の中に染み込んでいく。
「……そうか」
やがて忠弥はその言葉の意味を理解した。
「僕はやり遂げたんだ! 人類初の有人動力飛行に!」
操縦することに無我夢中で着陸の衝撃で放心状態となっていた忠弥は昴の言葉で自分の成し遂げたことを初めて実感した
「やった! やったんだ!」
「もう、しっかりしてください」
「ははは、着陸した衝撃で動揺したよ」
そして忠弥は嬉しさのあまり、余計な事を口にしてしまった。
「成功したのは昴のお陰だ。お礼に何かしたい。何でも言って」
デジャブのある台詞を忠弥は言ってしまった。
その言葉の意味と記憶を思い出した時、赤面してしまった。
訂正しようにも既に口から出てしまっている。
気が付くと周りには飛行を成功させた忠弥を一目見ようと観客が集まっており、今の忠弥の言葉をしっかりと聞いていた。
何より目の前の昴の顔が真っ赤に染まっていた。
今のなしとはとても言えない状況だった。
「あ、あの……昴さん」
忠弥は恐る恐る昴に尋ねた。
「は、はい!」
驚きのあまり、昴は大声で答えた。
「何か願い事はありますか」
「……はい」
昴は自分の願いを忠弥に言った。
「私も一緒に空を飛ばせて下さい」
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