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昴の初飛行
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「凄い音ですわ」
エンジンの轟音の中でも良く響く声で昴が言った。
「本当に良いんですか」
昴の耳元で忠弥が叫んだ。
今昴は忠弥の前に座っている。
一人しか乗れない飛行機玉虫の操縦席に昴が座るには、忠弥の膝に座るしか方法は無かった。
「はい、お願いします」
昴の望みは忠弥と一緒に玉虫に乗って空を飛ぶことだった。
幸か不幸か今の飛行で玉虫が設計通りに飛んだことは証明された。
忠弥が張り切って軽量化と機体強度を余裕を持って設計したため、昴一人程度の重量が追加されても十分に飛ぶことは出来る。
エンジンが十分に冷却された事を確認すると、忠弥は飛行前点検を行う。
今回は前回から直ぐに飛行機を稼働させるため、暖気を行う時間が短時間で済むためだ。
むしろ過熱によるオーバーヒートを起こして性能が低下したり、潤滑用のオイルが漏れてシリンダーがピストンに焼き付いたり、最悪火災を起こす。
点検が終了すると燃料コックを開きスイッチを入れて忠弥は命じた。
「回せ!」
エンジンは技術者の手によってプロペラがが再び回り始める。
エンジンの音は異常なし、ゆっくりとスロットルを開いて回転を上げる。
エンジンが十分に回転したところで忠弥は腕を振り、合図する。
再び旗が揚がり、下に振り下ろされると、機体は加速を始める。
やはり昴が追加されると少し重い。だがエンジン音を聞きながらスロットルを開き、再び加速させる。
先ほどよりも長い時間滑走させる。操縦桿からの力が明らかに重いし、機体も重く感じる。
絶対に口にしないが、重いことは忠弥は全身で感じていた。
だが、レールが終わるまでに離陸できる速度まで加速できる、忠弥は確信した。
慌てずスロットルを更に開き加速し、機体が浮き上がった瞬間、操縦桿を引いて離陸する。
「わああっ」
宙に浮いた瞬間、昴は感嘆の声を上げた。
周りの景色が下に下がって行く。昴の視界前方は空一面で覆われその青一色の光景に圧倒され、何時もの快活さは無くなり黙って見つめる
少し機体から顔を出し、下を見ると先ほどまで自分より背の高い観客達が昴に向かって顔を上げている。
「旋回します」
補助翼を使って機体を左に傾けつつ左旋回を行う。
「!」
翼の先端が地上を向いた。
ほんの少しの傾きだったが、昴は飛行機が横倒しになったと錯覚したほどだ。
そして先ほどまで自分がいたカタパルト、櫓が遠く下に見える。
観客など豆粒のように見える。
高く飛んだので遠くまで見える。
いつも見ている村の建物が小さく見える。
このあたりで一番大きい島津の別荘の建物も小さく見える。
「全てが小さい玩具みたいに見える。世界がまるで綺麗な玩具みたい」
昴は興奮して叫ぶ。
「凄い、凄く綺麗な世界ですね」
昴が圧倒されている間も玉虫号の旋回は続き元のコースに戻る。
「着陸します。衝撃に備えて」
忠弥は徐々に飛行機の高度を下げて、スロットルを絞り地上に近づく。
目の前の光景が再び地上の風景に近づいていく。
「もう終わってしまうんですね」
素晴らしい時間の閉幕を前に切なそうに昴はいう。
「大丈夫ですよ」
忠弥は自信を持って言う。
「この機体のデータを元に更に改造した機体を作ってもっと高く長く速く飛ばします。もっと素晴らしい景色を見せて上げますよ」
「本当ですか」
「ええ」
「その時は私も連れて行って下さい。何処までも付いていきます」
「え?」
昴の言葉に忠弥は意識してしまい黙り込んでしまった。
これまでずっとサポートしてくれた昴の願いを無視する事は出来ない。それに一緒について行くというのは、人生を共にするという意味だ。
「重いな」
前世を含めて女性と付き合ったことの無い飛行機一筋の忠弥にとって女性との付き合いは飛行機の操縦より難しい気がした。
「……私の体重が重いという事ですか?」
忠弥の言葉の意味を勘違いした昴が言う。
「ち、違う」
「じゃあ、どういう事ですか!」
問い詰めようと昴は身体ごと振り向いて忠弥を問い詰めようとする。
「待って、飛行中に身体を動かすとバランスが崩れる」
「誤魔化さないで下さい。幾ら貴方でも飛行機を誤魔化しの材料に、きゃっ」
その時、飛行機に激しい衝撃が走った。
昴が身体を動かしたため、バランスが左に崩れ、着陸寸前で速度を落とし高度を下げていた玉虫の機体は左に傾いて左翼の翼端を地面に引っかけた。
機体は左に急旋回して砂埃を上げながら、停止した。
「大丈夫ですか!」
そう言って忠弥は昴の身を案じ声を掛けようとしたが出来なかった。
自分の唇が昴の唇によって塞がれていたからだ。
「っ!っ!っ!」
しかも声を出そうと口を動かしたために昴の口を刺激してしまい、舌が少し入ってしまった。
そのため昴は顔を真っ赤にした後目を蕩けさせ、動かなくなった。
「大丈夫ですか! っ!」
翼を引っかけたのを見て駆けつけてきた技術者と観客達は、二人の姿を見て固まった。
「ぷはっ」
声を掛けられた昴はようやく自分の状況に気が付き、忠弥から離れた。
「あ、あの昴さん」
忠弥は顔を俯ける昴に声を掛けた。
「……責任、取って下さいよ」
「は、はい」
昴の言葉にそれだけ言うのが精一杯だった。
そして観客の間から笑い越えが響き渡る。
直後二人は機体から引き上げられた。そして興奮した観客が一斉に二人を胴上げする。
史上初の有人動力飛行を成功させた忠弥と、動力飛行で初めて空を飛んだ女性である昴。
二人の英雄の誕生に彼等は沸いた。
新聞は号外を出し、翌日までに皇国の全ての人が知る。
記録のために取られていた映画は直ぐにコピーされ皇国は勿論、海外へも輸出され一大事件として歴史に刻まれることになる。
忠弥は夢を叶えた。
エンジンの轟音の中でも良く響く声で昴が言った。
「本当に良いんですか」
昴の耳元で忠弥が叫んだ。
今昴は忠弥の前に座っている。
一人しか乗れない飛行機玉虫の操縦席に昴が座るには、忠弥の膝に座るしか方法は無かった。
「はい、お願いします」
昴の望みは忠弥と一緒に玉虫に乗って空を飛ぶことだった。
幸か不幸か今の飛行で玉虫が設計通りに飛んだことは証明された。
忠弥が張り切って軽量化と機体強度を余裕を持って設計したため、昴一人程度の重量が追加されても十分に飛ぶことは出来る。
エンジンが十分に冷却された事を確認すると、忠弥は飛行前点検を行う。
今回は前回から直ぐに飛行機を稼働させるため、暖気を行う時間が短時間で済むためだ。
むしろ過熱によるオーバーヒートを起こして性能が低下したり、潤滑用のオイルが漏れてシリンダーがピストンに焼き付いたり、最悪火災を起こす。
点検が終了すると燃料コックを開きスイッチを入れて忠弥は命じた。
「回せ!」
エンジンは技術者の手によってプロペラがが再び回り始める。
エンジンの音は異常なし、ゆっくりとスロットルを開いて回転を上げる。
エンジンが十分に回転したところで忠弥は腕を振り、合図する。
再び旗が揚がり、下に振り下ろされると、機体は加速を始める。
やはり昴が追加されると少し重い。だがエンジン音を聞きながらスロットルを開き、再び加速させる。
先ほどよりも長い時間滑走させる。操縦桿からの力が明らかに重いし、機体も重く感じる。
絶対に口にしないが、重いことは忠弥は全身で感じていた。
だが、レールが終わるまでに離陸できる速度まで加速できる、忠弥は確信した。
慌てずスロットルを更に開き加速し、機体が浮き上がった瞬間、操縦桿を引いて離陸する。
「わああっ」
宙に浮いた瞬間、昴は感嘆の声を上げた。
周りの景色が下に下がって行く。昴の視界前方は空一面で覆われその青一色の光景に圧倒され、何時もの快活さは無くなり黙って見つめる
少し機体から顔を出し、下を見ると先ほどまで自分より背の高い観客達が昴に向かって顔を上げている。
「旋回します」
補助翼を使って機体を左に傾けつつ左旋回を行う。
「!」
翼の先端が地上を向いた。
ほんの少しの傾きだったが、昴は飛行機が横倒しになったと錯覚したほどだ。
そして先ほどまで自分がいたカタパルト、櫓が遠く下に見える。
観客など豆粒のように見える。
高く飛んだので遠くまで見える。
いつも見ている村の建物が小さく見える。
このあたりで一番大きい島津の別荘の建物も小さく見える。
「全てが小さい玩具みたいに見える。世界がまるで綺麗な玩具みたい」
昴は興奮して叫ぶ。
「凄い、凄く綺麗な世界ですね」
昴が圧倒されている間も玉虫号の旋回は続き元のコースに戻る。
「着陸します。衝撃に備えて」
忠弥は徐々に飛行機の高度を下げて、スロットルを絞り地上に近づく。
目の前の光景が再び地上の風景に近づいていく。
「もう終わってしまうんですね」
素晴らしい時間の閉幕を前に切なそうに昴はいう。
「大丈夫ですよ」
忠弥は自信を持って言う。
「この機体のデータを元に更に改造した機体を作ってもっと高く長く速く飛ばします。もっと素晴らしい景色を見せて上げますよ」
「本当ですか」
「ええ」
「その時は私も連れて行って下さい。何処までも付いていきます」
「え?」
昴の言葉に忠弥は意識してしまい黙り込んでしまった。
これまでずっとサポートしてくれた昴の願いを無視する事は出来ない。それに一緒について行くというのは、人生を共にするという意味だ。
「重いな」
前世を含めて女性と付き合ったことの無い飛行機一筋の忠弥にとって女性との付き合いは飛行機の操縦より難しい気がした。
「……私の体重が重いという事ですか?」
忠弥の言葉の意味を勘違いした昴が言う。
「ち、違う」
「じゃあ、どういう事ですか!」
問い詰めようと昴は身体ごと振り向いて忠弥を問い詰めようとする。
「待って、飛行中に身体を動かすとバランスが崩れる」
「誤魔化さないで下さい。幾ら貴方でも飛行機を誤魔化しの材料に、きゃっ」
その時、飛行機に激しい衝撃が走った。
昴が身体を動かしたため、バランスが左に崩れ、着陸寸前で速度を落とし高度を下げていた玉虫の機体は左に傾いて左翼の翼端を地面に引っかけた。
機体は左に急旋回して砂埃を上げながら、停止した。
「大丈夫ですか!」
そう言って忠弥は昴の身を案じ声を掛けようとしたが出来なかった。
自分の唇が昴の唇によって塞がれていたからだ。
「っ!っ!っ!」
しかも声を出そうと口を動かしたために昴の口を刺激してしまい、舌が少し入ってしまった。
そのため昴は顔を真っ赤にした後目を蕩けさせ、動かなくなった。
「大丈夫ですか! っ!」
翼を引っかけたのを見て駆けつけてきた技術者と観客達は、二人の姿を見て固まった。
「ぷはっ」
声を掛けられた昴はようやく自分の状況に気が付き、忠弥から離れた。
「あ、あの昴さん」
忠弥は顔を俯ける昴に声を掛けた。
「……責任、取って下さいよ」
「は、はい」
昴の言葉にそれだけ言うのが精一杯だった。
そして観客の間から笑い越えが響き渡る。
直後二人は機体から引き上げられた。そして興奮した観客が一斉に二人を胴上げする。
史上初の有人動力飛行を成功させた忠弥と、動力飛行で初めて空を飛んだ女性である昴。
二人の英雄の誕生に彼等は沸いた。
新聞は号外を出し、翌日までに皇国の全ての人が知る。
記録のために取られていた映画は直ぐにコピーされ皇国は勿論、海外へも輸出され一大事件として歴史に刻まれることになる。
忠弥は夢を叶えた。
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