新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

文字の大きさ
42 / 163

ダーク氏の飛行

しおりを挟む
「なんてことだ……」

 一方のダーク氏は忠弥の飛行を見て苦虫を噛み潰していた。
 忠弥が旋回できたのは、自分の機構を真似したからであり、向かい風に乗って機体が偶然旋回したのだと思っていた。
 しかし、今実際にニュース映画と同じ飛行を目の前で行った。
 右に旋回し、次いで左へは半周、周り観客の上空を通過してから更に半周して着陸した。
 これは偶然では無く、忠弥の飛行機玉虫が旋回を含む操縦性を獲得している証拠だった。
 忠弥が指摘した通り、ダーク氏のフライングランナーは旋回が出来ない。
 たわみ翼にした尾翼を使って機首を左右に向ける事は出来る。だが、そのまま機体は横滑りしてしまい針路を変えることが出来ない。
 それでは忠弥が言うとおり巨大な模型飛行機に人が座っているだけと言える。
 その事実に気が付いて、自分の飛行は確かに飛行と呼べるものでは無いのではないか。その疑念が心の中に生まれダーク氏の中を黒く染め上げていく。
 自分の功績が数十年の研究が否定される恐怖に駆られたダーク氏はパイロットに駆け寄る。

「何としても旋回させ一周するんだ」

 ダーク氏はパイロットの襟首を掴んでに命じた。だが、パイロットはおどおどと答える。

「し、しかし、横滑りするだけで、旋回は無理です。しかも一周なんて」

 最初の飛行の時から旋回は不能だと身を以て知っているパイロットは怯えるように小声で言う。
 そもそも旋回出来るかどうか試したことがなかった。

「何とかするんだ!」

 きつくダーク氏が言うとパイロットを操縦席に乗せた。

「無理ですよ、この機体には私はまだ七回しか乗ったことが無いんですよ」

 パイロットがこの機体に初めて乗ったのは、最初の有人動力飛行の時だ。
 それまで無人で何度も飛んで一キロを超す飛行に成功していたが、パイロットが機体に乗ったのはその時が初めてだった。
 ダーク氏の考えは安定性に優れた模型飛行機を作り完成させる。それを人が乗れるまで大型化して人を乗せれば、有人動力飛行に成功するという仮説に基づくものだった。
 そのためパイロットは初めての機体にぶっつけ本番で乗ることとなり、初めての機体に戸惑って一回目は川に墜落した。
 忠弥が模型を作った上で、動力無しの実機を作りグライダーとして千回以上も操縦を繰り返し、操縦技術を磨き上げたのと正反対の方針だ。
 忠弥が玉虫の初動力飛行で飛ぶことに成功したのも、その前にグライダーとして機体を何時間も操縦していたためだった。
 それでもダーク氏は最初の失敗でも諦めず実験を継続し、三回目でようやく成功し人類初の有人動力飛行として宣伝した。
 その後も飛行実験を続けたが、忠弥の指摘するように旋回が出来なかった。
 そこへ忠弥の人類初の有人動力飛行の報道と旋回する様子が、自由自在に空を飛ぶ様子が収められたニュース映画が流れて来た。
 人々は元々科学者にして発明家として名声を得ていたダーク氏は尊大で人から嫌われていた。そのため人々はダーク氏の飛行に疑義を生じていた。
 ダーク氏の研究費用を出している議会からも疑問の声が上がっており、一部では資金援助の停止を唱える動きもある。
 人類初という名声を守るため、自分への反感を払拭し、地位を安泰にするためにダーク氏は宣伝活動を開始。凱旋ツアーに出たのもそのためだ。
 忠弥の飛行が偶然と思っていたこともあり、最初に秋津皇国に来て忠弥の飛行を否定するつもりだった。
 しかし、忠弥の飛行は見事で、本当に旋回に成功し、機体を操縦していた。
 しかも自分の機体の原理構造とは全く違う機体だ
 ここで同じ事が出来なければ自分の機体への疑義が生じ、忠弥に人類初の有人動力飛行の栄誉を奪われてしまう。
 だからダーク氏はパイロットに旋回するように命じた。

「あの、ダーク氏」

「何だ!」

 声を掛けてきた司会にダーク氏は怒鳴り返した。

「あ、あなたの番になりました。どうぞ飛行を」

「ああ、済まない。すぐに向かおう」

 狭まっていた眉を柔らかく広げ、好々爺のような声色でダーク氏は返事をした。
 怯えながら戻っていく司会を見送った後、ダーク氏は再びパイロットへ向き直り、般若のような表情で言いつのる

「兎に角、何が何でも旋回させるんだ。いいな!」

「で、ですが」

「良いから行くんだ」

 パイロットを追い立てるようにダーク氏はフライングライナーへ追いやる。
 そして怯えるパイロットを無理矢理操縦席に座らせ、ベルトを締める、いやパイロットを機体に固縛した。

「いいな! 絶対に旋回させるんだ」

「しかし」

「くどい」

 ダーク氏は念入りにパイロットに言い聞かせ、強要する。

「エンジンを回せ!」

 作り上げた発射台の上に置かれたフライングランナーのエンジンが始動する。
 怪獣の咆哮のようなエンジン音を響かせて回転を上げていく。

「おおっ」

 水冷五気筒星形エンジンが今まで聞いたことの無い轟音を響かせ、見ていた観客を圧倒した。
 玉虫は四気筒一二馬力しか出せないが、フライングライナーのエンジンは五二馬力。
 圧倒的なパワーの差を見せつけ、いや響かせる。
 そのパワーを強力な推進力にするプロペラが勢いよく回り、エンジンの振動で機体もビリビリと小刻みに振動する。

「発進準備完了!」

 エンジンが規定の回転数に達した事を確認した技師が伝えた。

「発進させる」

「ひいっ」

 パイロットは怯えていた、しかしダーク氏の命令は絶対だった。
 カタパルトのスイッチはダーク氏の手に握られており、彼の意志は関係なかった。

「発進」

 ダーク氏が発信ボタンを押すと同時にフライングランナーは前進。
 矢のような加速で飛び出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...