新世界の空へ飛べ~take off to the new world~ アルファポリス版

葉山宗次郎

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パイロットの意地

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「おお、飛んだぞ」

 フライングライナーが飛び出すと観客は再び歓声を上げた。
 今までに見たことのないほどの加速を見て驚き、感嘆の声に変わる。だがその徐々に小さくなった。
 中々旋回しないことに失望感が湧いてきた。
 機首は確かに左に向いていたが、横滑りを起こして何時までも左に進路が変更される様子は無かった。
 先ほど、忠弥の玉虫が見事に旋回し、自分たちの上を通過していったのを見ていただけに落胆も大きかった。

「何をしておるのだ」

 ダーク氏はその様子を苛立たしく見ていた。
 ダーク氏に言われるまでも無くパイロットは懸命に機体を旋回させようとしていたが、前の実験と同じように機体が横滑りするだけだった。
 体重移動をして制御しようとしても、腰でねじれ翼の制御をしているため思うように動かせない。
 そのため機体の上で無理な動作を繰り返すことになる。

「畜生……」

 パイロットは必死にかつ慎重に基地を旋回させようとしていた。
 だが、これまで何度も旋回させようとして失敗してきており、諦め気味だった。

「ううっ……」

 恐怖で悲鳴を上げ、不時着しようとエンジンのスロットルを引こうとする。
 しかし、その手は止まった。

「……このまま降りたら俺は初のパイロットじゃないのか」

 人類初の有人動力飛行を成功させたパイロットという自負がパイロットの心を揺れ動かした。
 空を飛びたいと昔から願い勉強した。
 飛行プロジェクトをしり、エンジンの技師としてダーク氏のチームに入りエンジンの設計を行い、パイロットに選定された。
 世界初のパイロットという名誉を得られると考えていた。
 だが、いきなり機体に乗せられた。
 無人機による実験では成功しており、無事に着水していただけに、機体に乗っていれば良いだけだと思っていたのは事実だ。
 だが実際に乗ってみると、禄に操縦方法も分からぬままというのは恐怖以外の何物でも無かった。
 しかし、人類初の有人動力飛行のライバル達に先を越されまいと飛び立ったが、初回はあえなく墜落。
 それでも世界初の称号を得たくて、修理されたフライングライナーへ乗り込み再び挑戦し、またしても失敗。
 何度か失敗、墜落を繰り返した後、ようやく空を飛べた。
 直線しか飛ぶことが出来なかったが、空を飛んだことは事実であり、世界初の称号をダーク氏とパイロットは手に入れた。
 だが、小国の、わずか十歳の少年が自力で空を飛んだ。それは凄いが、自分の飛行が飛行ではないと言ってきたことに腹が立った。
 二番手のひがみと思って鼻に掛けなかったが、空を飛ぶ様を、空中で自分が出来なかった旋回を見せつけられたのは、衝撃だった。
 素晴らしさに見とれてしまった程だ。
 だが、同時に恐怖した。
 旋回できなかった自分はやはり、ただ空を飛んだだけ、飛行などしていないのでは、と思ってしまった。

「違うっっ」

 スロットを握っていた手をパイロットは話した。

「自分が初めて空を飛んだんだ!」

 その思いがパイロットを突き動かした。
 パイロットは叫ぶと同時に機体を操り、旋回しようと機体を方向舵を左に動かした。
 機首が徐々に左へ傾き向き始めていく。
 しかし、針路が変わらない。

「ま、曲がれ!」

 パイロットは操縦席から体の姿勢をずらして曲げようとする。
 しかし、フライングライナーは、横滑りしつつもまっすぐ飛んでいくだけだ。

「曲がるんだ!」

 旋回しないことに苛立ったパイロットは身を乗り出して曲げようとした。
 やがて機体は、傾き始めた。進行方向へ。



「不味い!」

 忠弥は叫んだ。横滑りしているとき、進行方向に向かって機体が傾き始めた。
 急激に進行方向側に力が掛かり機体は逆方向へ回転を始める。
 安定性に優れた機体でも、それは機首と進路のズレが無い状態の話であり、横滑りした状態で、機体が傾けばバランスを崩す。
 機体は進路方向に向かって回転し下がった翼端が海面に接触、。急激に減速して墜落した。

「直ぐに救助を!」

 呆然とする人々の中、忠弥は真っ先に駆け出した。

「早く助け出すんだ!」

 機体が落ちると忠弥は急いで桟橋に駆け寄てボートに乗り込んだ。
 万が一に備えて救助用のボートを待機させている。
 しかし初めての緊急事態のため、どう動いて良いか理解出来ずタダ手をこまねいているだけだった。

「急いで機体に近づくんだ!」

 忠弥は周りのボートに指示を下し、自分の乗り込んだボートにも向かわせる。

「急いでくれ」

 飛行機はゆっくり飛んでいるように見えても、揚力を得るために高速で進んでいる。
 機種によっても違うが、YS11なら離陸速度は時速一八〇キロ位だ。小型機は小さいので揚力も小さく済むがそれでも八〇キロ位、軽量の機体でも四〇キロは必要だ。
 つまり、あの飛行機は時速四十キロで海に突っ込んでいる。
 時速四〇キロで衝突事故を起こした車と同じ衝撃がパイロットにもかかっている。
 気絶している危険性が高い。
 救い出さなければならないという思いが忠弥を前に突き動かした。
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