40 / 83
殿
しおりを挟む
南雲に命令された彼らはバネ仕掛けの機械のように動いた。
その姿を第四駆逐隊司令有賀は黙って、いや、見とれていた。
南雲はハワイ攻撃時の機動部隊司令長官だが年次と序列による人事の結果だ。
元々南雲は水雷屋であり、それも気性が荒く暴れ馬のような苛烈な性格だ。
戦前の演習で夜間に敵側へ突入するために真一文字に艦を突入させ衝突寸前の状況にするという大事故一歩手前の事を行った。
陸上でも変わらず意見の合わない軍務課長に殺すぞと脅しをかけることさえあった。
第一航空艦隊司令長官になってからは専門外のためか借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。元々真面目ですこしでも飛行機を理解しようと淵田や村田などの若い搭乗員らと話すことが多かった。
第三艦隊長官から退任後も戦訓を聞く事を怠らず、研究を続けた。
中部太平洋方面艦隊司令長官に任命されてからも飛行機は勿論、ソロモンで活躍する水雷戦隊の戦術について研究を続けていた。
陸上部隊の司令官として陸に上がり討ち死にする事を覚悟しても水雷屋としての腕を磨き続けた。
あ号作戦は失敗し、マリアナ陥落は確実。
最早これまでと敗戦の責任を取り覚悟を決め自決しようとした。
だが、連合艦隊司令部からの帰還命令を受けてやむなくサイパン脱出を決定。
大発動艇に乗って撤退部隊に収容され。
木村の階級は低かったが命令系統を混乱させないため黙っていたが指揮不能と聞いて、混乱する駆逐隊に命令を下した。
迫り来る米軍艦艇に対して突撃を敢行する。
「雷撃始め!」
南雲の指揮の下、水雷戦隊は敵艦隊の鼻っ柱に雷撃を始めた。
遠距離のためもとより命中など期待できない。
敵艦の針路を妨害し、包囲網を構築させないのが目的だ。
「敵艦一命中! 撃沈です!」
まぐれ当たりの一発が敵の駆逐艦を捕らえた。
重巡でさえ一発で大破する酸素魚雷を駆逐艦が受けたら轟沈するしかない。
水柱が消えたときには、敵駆逐艦は消滅していた。
改めて日本軍の魚雷の威力を見た米駆逐艦達は戦慄した。
そして日本の駆逐艦が再び雷撃の態勢を見せると、回避するべく反転して逃げ出した。
これは南雲のブラフだった。
再装填装置があるが二回分の斉射しか出来ないし、魚雷が勿体ない。
雷撃姿勢を見せることで打たれると思い込ませるよう圧力を掛けてきたのだ。
南雲のお陰で日本駆逐艦は敵艦隊を牽制し、味方を脱出させる事に成功した。
「ええい! 再突撃を敢行する全艦我に続け!」
昨夜の夜戦を生き残ったバークは態勢を整え直し追撃を命じた。
撤退につけ込んで追撃し、戦果を拡大するのは当然だった。
「上空に敵機!」
「何!」
気がつくと夜は既に明けていた。
夜明けと共に撤収部隊の近くに残った第一機動艦隊第一部隊が、なけなしの艦載機で空襲を行い、撤収部隊を援護してきたため、バークは包囲網を作ることは出来なかった。
来襲する零戦改のロケット弾攻撃の前に逃げ出すことしか出来なかった。
「ええい! 追いかけろ!」
「スプールアンス長官より緊急電! バーク指揮下の任務群は直ちに撤退せよ」
バークの艦隊に被害が増えた事を見たスプールアンスは撤退を命令した。
昨夜からの夜戦で疲労が溜まりこれ以上の戦闘は危険だと判断したからだ。
また日本軍の航空攻撃を前に更に犠牲が増えることを恐れたのだ。
実際は連日の戦闘で攻撃機がなくなり、戦闘機のみだったが、事情を知らないスプールアンスは日本軍の攻撃隊がバークを襲うのを恐れて撤退させた。
追撃を目論んだバークだったがスプールアンスの命令により反転し、帰還した。
「航空隊に追撃を命令しろ」
スプールアンスは追撃を航空隊に命じた。
残り二群の空母部隊だが、十分な攻撃力を有するし、上陸支援の護衛空母部隊もいる。
彼らからも攻撃隊を出させ追撃させるつもりだった。
「そうはいかねえぜ!」
押し寄せるスプールアンスの攻撃隊に立ち向かったのは平野達、戦闘機隊だった。
「喰らえ!」
20ミリ機銃四門を放ち、迫ってくる艦載機に攻撃を仕掛けた。
「三日連続で出撃じゃあ体がもたねえが仕方あるまい」
一日目の信濃からの長距離攻撃と翌日のマリアナからの攻撃護衛に参加した平野は三日連続の出撃だ。
損害が大きいため撤退が命令されており知事は意気消沈した。だが、敵機が来るからには迎撃に出なければ。戦闘機乗りとしての本能が前に駆り立てた。
「しかし、あの佐久田という参謀、度胸があるな」
作戦が中止となり、撤収しているのに自分の乗る第一部隊を撤収部隊の援護に残して夜明け前に航空隊の発艦を終えていた。
そして、大鳳と海鳳を離脱させ、信濃は囮として南下させ、米軍攻撃隊の攻撃を吸収するというのだ。
同時に弱点、装甲空母は堅いが、艦載機は爆弾に弱い。着艦し補給しているところに爆撃を受ければ整備中の機体や整備員が吹き飛ぶ。
だが、上空に戦闘機を送り出す必要がある。
だから大鳳と海鳳を離脱させ安全圏で作業させている。
勿論、空襲の恐れはある。だからこそ装甲空母のみで、通常空母は全て昨日の内に西へ撤退させた。
ただし残存する戦闘機隊を発艦させ、第一部隊の空母に増援として送り込む事を忘れていなかった。
今彼ら艦上戦闘機隊は硫黄島へ撤退する航空部隊の守護神となって攻撃から撤収部隊を守っていた。
日本艦隊上空の激しい空戦による被害多発に驚いたスプールアンスは、追撃中止を命令。
航空隊を引き上げさせた。
サイパン島を放棄した日本軍だったが、撤収作戦の成功により、二万人近い整備兵をはじめとした航空関連要員が本土に帰還できた。
その姿を第四駆逐隊司令有賀は黙って、いや、見とれていた。
南雲はハワイ攻撃時の機動部隊司令長官だが年次と序列による人事の結果だ。
元々南雲は水雷屋であり、それも気性が荒く暴れ馬のような苛烈な性格だ。
戦前の演習で夜間に敵側へ突入するために真一文字に艦を突入させ衝突寸前の状況にするという大事故一歩手前の事を行った。
陸上でも変わらず意見の合わない軍務課長に殺すぞと脅しをかけることさえあった。
第一航空艦隊司令長官になってからは専門外のためか借りてきた猫のようにおとなしくなっていた。元々真面目ですこしでも飛行機を理解しようと淵田や村田などの若い搭乗員らと話すことが多かった。
第三艦隊長官から退任後も戦訓を聞く事を怠らず、研究を続けた。
中部太平洋方面艦隊司令長官に任命されてからも飛行機は勿論、ソロモンで活躍する水雷戦隊の戦術について研究を続けていた。
陸上部隊の司令官として陸に上がり討ち死にする事を覚悟しても水雷屋としての腕を磨き続けた。
あ号作戦は失敗し、マリアナ陥落は確実。
最早これまでと敗戦の責任を取り覚悟を決め自決しようとした。
だが、連合艦隊司令部からの帰還命令を受けてやむなくサイパン脱出を決定。
大発動艇に乗って撤退部隊に収容され。
木村の階級は低かったが命令系統を混乱させないため黙っていたが指揮不能と聞いて、混乱する駆逐隊に命令を下した。
迫り来る米軍艦艇に対して突撃を敢行する。
「雷撃始め!」
南雲の指揮の下、水雷戦隊は敵艦隊の鼻っ柱に雷撃を始めた。
遠距離のためもとより命中など期待できない。
敵艦の針路を妨害し、包囲網を構築させないのが目的だ。
「敵艦一命中! 撃沈です!」
まぐれ当たりの一発が敵の駆逐艦を捕らえた。
重巡でさえ一発で大破する酸素魚雷を駆逐艦が受けたら轟沈するしかない。
水柱が消えたときには、敵駆逐艦は消滅していた。
改めて日本軍の魚雷の威力を見た米駆逐艦達は戦慄した。
そして日本の駆逐艦が再び雷撃の態勢を見せると、回避するべく反転して逃げ出した。
これは南雲のブラフだった。
再装填装置があるが二回分の斉射しか出来ないし、魚雷が勿体ない。
雷撃姿勢を見せることで打たれると思い込ませるよう圧力を掛けてきたのだ。
南雲のお陰で日本駆逐艦は敵艦隊を牽制し、味方を脱出させる事に成功した。
「ええい! 再突撃を敢行する全艦我に続け!」
昨夜の夜戦を生き残ったバークは態勢を整え直し追撃を命じた。
撤退につけ込んで追撃し、戦果を拡大するのは当然だった。
「上空に敵機!」
「何!」
気がつくと夜は既に明けていた。
夜明けと共に撤収部隊の近くに残った第一機動艦隊第一部隊が、なけなしの艦載機で空襲を行い、撤収部隊を援護してきたため、バークは包囲網を作ることは出来なかった。
来襲する零戦改のロケット弾攻撃の前に逃げ出すことしか出来なかった。
「ええい! 追いかけろ!」
「スプールアンス長官より緊急電! バーク指揮下の任務群は直ちに撤退せよ」
バークの艦隊に被害が増えた事を見たスプールアンスは撤退を命令した。
昨夜からの夜戦で疲労が溜まりこれ以上の戦闘は危険だと判断したからだ。
また日本軍の航空攻撃を前に更に犠牲が増えることを恐れたのだ。
実際は連日の戦闘で攻撃機がなくなり、戦闘機のみだったが、事情を知らないスプールアンスは日本軍の攻撃隊がバークを襲うのを恐れて撤退させた。
追撃を目論んだバークだったがスプールアンスの命令により反転し、帰還した。
「航空隊に追撃を命令しろ」
スプールアンスは追撃を航空隊に命じた。
残り二群の空母部隊だが、十分な攻撃力を有するし、上陸支援の護衛空母部隊もいる。
彼らからも攻撃隊を出させ追撃させるつもりだった。
「そうはいかねえぜ!」
押し寄せるスプールアンスの攻撃隊に立ち向かったのは平野達、戦闘機隊だった。
「喰らえ!」
20ミリ機銃四門を放ち、迫ってくる艦載機に攻撃を仕掛けた。
「三日連続で出撃じゃあ体がもたねえが仕方あるまい」
一日目の信濃からの長距離攻撃と翌日のマリアナからの攻撃護衛に参加した平野は三日連続の出撃だ。
損害が大きいため撤退が命令されており知事は意気消沈した。だが、敵機が来るからには迎撃に出なければ。戦闘機乗りとしての本能が前に駆り立てた。
「しかし、あの佐久田という参謀、度胸があるな」
作戦が中止となり、撤収しているのに自分の乗る第一部隊を撤収部隊の援護に残して夜明け前に航空隊の発艦を終えていた。
そして、大鳳と海鳳を離脱させ、信濃は囮として南下させ、米軍攻撃隊の攻撃を吸収するというのだ。
同時に弱点、装甲空母は堅いが、艦載機は爆弾に弱い。着艦し補給しているところに爆撃を受ければ整備中の機体や整備員が吹き飛ぶ。
だが、上空に戦闘機を送り出す必要がある。
だから大鳳と海鳳を離脱させ安全圏で作業させている。
勿論、空襲の恐れはある。だからこそ装甲空母のみで、通常空母は全て昨日の内に西へ撤退させた。
ただし残存する戦闘機隊を発艦させ、第一部隊の空母に増援として送り込む事を忘れていなかった。
今彼ら艦上戦闘機隊は硫黄島へ撤退する航空部隊の守護神となって攻撃から撤収部隊を守っていた。
日本艦隊上空の激しい空戦による被害多発に驚いたスプールアンスは、追撃中止を命令。
航空隊を引き上げさせた。
サイパン島を放棄した日本軍だったが、撤収作戦の成功により、二万人近い整備兵をはじめとした航空関連要員が本土に帰還できた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦
そしてそこから繋がる新たな近代史へ
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる