架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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マリアナ沖海戦終結

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「長官、報告が入りました」

 被害を集計してきた佐久田が報告した。

「飛龍およ天城が沈没」
「天城は無事ではなかったのか?」

 昨日の夕方の時点では健在のはずだ。
 その後、撤収作戦の為、分離し第三艦隊の他の艦と共に西へ退避していたはずだ。

「今朝、敵の追撃があり、航空攻撃を受けて撃沈されました」

 攻撃を受けたスプールアンスは夜明けと共に索敵機を出し、サイパン撤収部隊である第二艦隊と西方へ退避する第三艦隊を発見。
 双方に攻撃隊を出した。
 援護のために上空に戦闘機を上げていた第一部隊はそれほど損害は無かった。
 だが、撤退していたため、敵尾作戦圏外へ逃れて油断した第三艦隊は思わぬ攻撃を受けてしまった。
 無理を承知で出した攻撃隊のために、殿にいた天城が攻撃された。
 敵に近づく第一部隊援護のために多数の戦闘機を移していたこともあり、防空網に穴があいた。
 撤収部隊に駆逐艦が割かれていたこともあり攻撃隊は易々と天城に接近、魚雷爆弾多数を投下し命中させ仕留めた。

「翔鶴と加賀、雲龍あと飛鷹も被弾し発着艦不能。信濃は被弾多数、大鳳は被雷一、戦闘航海に支障なし、海鳳も被弾多数ですが無事です。戦艦は大和が被弾、陸奥が第三砲塔に被弾するも注水により誘爆を防いで無事。他に駆逐艦五隻撃沈した他損傷多数です」

 装甲空母は飛行甲板の装甲のお陰で無事だった。
 サイパンからの撤退援護のために第二艦隊と最後まで共にいたため敵機の総攻撃を受け多数の爆弾を落とされ被弾していたが装甲を貫かれた箇所は無かった。
 そのため戦闘力を維持しつつ、最後まで、敵の行動圏から離れ、硫黄島の航空支援が得られる海域まで援護する事が出来た。
 やはり装甲板の有無で戦闘能力が維持できるかどうか決まる。
 一発でも被弾したら発着艦不能になる通常型空母とは雲泥の差だった。

「やはり大鳳型を増やすべきだったか」

 山口は呟いた。
 開戦が決定した後、直ちに建造されたのが改翔鶴型空母だった。
 艦隊側は大鳳型を求めたが、建造期間が長いのと資材を多く食うため海軍省側が渋り、翔鶴型の戦時建造型四隻に変更された。

「いえ、間違っていません。改翔鶴型でなければ海戦に間に合わなかったでしょう」

 大鳳型に比べ改翔鶴型は一年近く建造期間が短く済む。結果、開戦直前に建造され去年43年の中頃に就役した二隻は、激戦の中活躍した。
 特にインド洋の封鎖で大きな活躍をしている。
 もし就役しなければ去年の内に日本軍はインド洋から叩き出されていた。
 大鳳型だと建造が長引き、就役は今年の8月になってしまっただろう。
 インド洋どころか、今回のマリアナ沖海戦にさえ間に合わなかった。
 防御力が強い兵器は確かに残存性が高い。だが戦場に間に合わなければ、戦いの時に間に合わなければ、兵器は意味がないのだ。
 防御力が低くても必要とされる戦場に現れた改翔鶴型の建造は間違いなく、英断だった。

「それで艦載機の損害は?」
「甚大です。約一千機おりましたが、半数を失いました。特に雷撃機が酷く撃墜だけで五割を失いました」

 低空で肉薄する必要のある雷撃機は対空砲火を受けやすい。
 接近するだけでも重い魚雷を搭載しているため回避行動も取りにくく敵機の餌食になりやすい。
 そんな機体が何度も戦闘機が待ち受ける敵艦隊に飛んでいったら、撃墜されるのは目に見えていた。
 いや、まだ軽い方かもしれない。
 護衛がいなければ全滅していた可能性もある。
 零戦改のロケット弾攻撃でピケット艦を潰していなければ敵機がさらに効率よく待ち伏せていただろう。
 航空隊は善戦した、と言えた。

「敵に与えた損害は?」
「空母四隻、軽空母二隻を撃沈あるいは撃破は確実です。敵機の撃墜も一航艦と合わせて撃墜撃破は五〇〇機を越えます」

 迎撃戦闘が多かったのと対空戦闘の充実、特に防空巡洋艦と防空駆逐艦のお陰で撃墜数が増えた。
 レーダーで誘導したお陰で効率よく待ち伏せが出来たのが大きかった。

「さらに夜戦で戦艦一隻を撃沈、二隻を撃退しました。襲撃してきた巡洋艦及び駆逐艦多数を撃沈はしています」
「だが負けたな」
「……はい」

 さすがの佐久田も歯切れ悪く認めた。
 あ号作戦の目的であるマリアナ防衛に失敗。
 防衛の要、いや日本海軍の主力である第一機動艦隊と第一航空艦隊は、保有機の半数を失った。
 予備の部隊が残っているが、飛行場がなくなった今、残った飛行場から飛ばしても各個撃破されるだけだ。
 戦艦は無事だが、航空機の援護が無ければ、敵機動部隊に撃滅されてしまう。

「これで、日本は厳しい立場に立たされることになる」

 米軍はマリアナを陥落させればB29の基地として整備し、いずれ本土空襲を行うだろう。
 マリアナに配備された守備隊10万が抵抗してくれているが、いつまで持つか。
 救援に行きたくても、戦力が足りない。
 新たに機体を得ても、マリアナ周辺を遊弋する敵艦隊を追い払うだけの戦力が無かった。

「いや、まだ負けたわけではないな」

 佐久田は考えた。
 確かに航空機の運用能力は減少したが、空母はまだ健在、特に装甲空母は再戦可能だ。
 被弾した加賀、翔鶴、雲龍も修理すればまた戦闘可能だ。
 一航艦も、整備要員の大半を救出に成功している。
 彼らを使って再編成する事は可能だ。

「まだまだやれることはあるな」

 佐久田はそう呟き、山口はぞっとした。
 佐久田が初めて笑ったからだ。
 それは、悪魔のような昏い笑みだった。
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