架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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横須賀への帰投

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「何とか戻って来れたな」

 母港である横須賀に帰還した信濃の艦橋から帰還した部隊を佐久田は見た。
 遅れてやってきた翔鶴の飛行甲板がめくれている。
 相変わらず被害担当艦として被弾している。
 いや、帰ってきたことを喜ぶべきだろう。
 横須賀を同じく母港とする天城は、沈んでしまった。
 歴戦の強者、佐世保の飛龍も沈み、機動艦隊の空母は櫛が欠けていくようにいなくなる。

「だが、他の艦艇への被害は少ない」

 山口は言った。
 早々に作戦中止が命令されたため、目立つのは空母の損害ばかりだ。
 撤収作戦で駆逐艦が数隻損傷し、戦艦にも被弾があったが、軽微なものだ。

「あのまま決戦に持ち込めば勝てたのではないかね?」
「いえ、アレで限界でしょう。我々には補給が殆どありませんから。余裕があるときに撤退できたので損害は少なく済みました」
「……」

 佐久田の意見に山口は黙り込んだ。
 確かに、あれ以上の先頭は不可能だった。
 三日間に及ぶ海戦で空母の燃料は殆ど尽きていた。
 艦載機への給油するガソリンも各空母からつきようとしていた。
 弾薬の消耗も激しかった。
 通常、日本の空母は三回の全力出撃分の弾薬と、十回分の燃料を搭載している。
 それが殆ど尽きた。
 給油艦からの補給を得るにも後方へ下がる必要があった。
 もし、あの時点で撤退しなければ航空機の援護が無くなり、一方的な空襲を受けていただろう。
 その点でもあの時点でサイパン島放棄と撤退命令は理にかなった物だった。

「再編成に手間取りますね」

 沈んだ艦、落ちた航空機の空いた穴をどうにかして埋めるべく努力をする必要があった。

「そうでもあるまい、新造艦は続々と完成しつつある。信濃の同型艦である紀伊に尾張、そして改翔鶴級の白鶴に紅鶴、雲龍型も二隻追加される。戦力は前以上だ」
「空母の数は認めます。ですが、艦載機の数が揃いません」
「予備の航空隊がいるだろう」
「空母の定数分だけです。二直制を維持する為にはその倍は必要です」

 空母に搭載する艦載機を二セット用意しておく二直制。
 一セットを空母に乗せて出撃している間に、もう一セットが補充編成、訓練を行い、空母が帰還したとき交代することで常に新鮮な航空隊を送り出せる。
 この制度のお陰でこれまで日本機動部隊は常に圧倒的な戦力による多大な戦果と損耗の低減が出来た。
 特に損耗の低減は大きい。
 防弾性能が向上したこともあったが、戦力が大きいため航空優勢を確保しやすく、被害が少ない。
 少数の機体を分散させて飛ばし各個撃破されるより遙かにマシだった。

「増えた空母の分、どうやって機体を調達するんですか?」

 だが空母の数が増えるとこの二直制を維持するのが大変だ。
 信濃型も大鳳型も九〇機以上搭載可能だ。
 もっと積み込めるが、九〇機に抑えられているのは、供給される機体が少ない。

「一五隻の空母の搭載機定数はおよそ一四〇〇機。二直制を維持するなら倍の二八〇〇機は必要です」

 それだけの機体をかき集めるのは無理に近い。

「例え集められたとしてもパイロットがいません」

 定数を満たせない理由はパイロットの数が機体よりもっと少ないからだ。
 母艦パイロットの養成システムは出来ている。
 本土で基礎訓練を終え選別された後、鳳翔の第五〇航空戦隊で適性を判別した後、燃料の潤沢な南方へ行かせ、飛ばしまくり、商船改造空母からなる第五一航空戦隊で徹底的に発着艦を訓練。
 卒業させると二直制で後方待機、補充に指定されている航空隊で更に訓練を積ませ、機動部隊が帰ってくると交代して、出撃前の訓練を終えるとインド洋へ出撃。
 そしてインド洋への通商破壊にいそしみ、実戦を経験。
 その後本土に戻って休養して英気を養ったら再び南方で訓練し、ソロモンの激戦で鍛え上げる。
 かつては、少なくとも43年の間は、これで何とか数を揃えた。
 だが、ソロモンの消耗戦から撤退し、マリアナを奪われた今は、このシステムは壊れた。
 新たにパイロットを得ようとしてもソロモンという戦場が無くなった今、送られてくるパイロットの技量が未熟だろう。

「何とかしなければならんだろう。かき集めるんだ。それが我々の仕事だろう」
「ええ、その前にやることがありますが」
「なんだ?」

 淡々と言う佐久田に山口は苛立たしく尋ねた。

「これだけの敗戦です。責任のなすりつけあいが始まるでしょう」

 馬鹿な、と言おうとした山口だったが、これまで日本海軍で半生を送ってきただけに、どのような事が行われるか知っている。
 戦争の消耗と混乱で少しはまともになっているが、全ての悪習が消されたわけではない。
 そして、事実である事を示す使者がやってきた。

「失礼します。軍令部より長官と佐久田参謀宛てて打電です。直ちに出頭せよ」
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