架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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嶋田の詰問

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 43年の米軍の本格的反攻はソロモンから始まった。
 劣勢になった日本軍は徐々に戦線を縮小。
 ソロモン、ギルバード諸島を制圧された日本は千島、マリアナフィリピンを結ぶ線を絶対国防圏として死守ラインにした。
 口先ではなく、関東軍や、汪兆銘率いる南京政府に建設させた国軍に戦線を任せ縮小した支那方面軍からの増援部隊を入れて防御を固めていた。
 飛行場増設と地下陣地建設のため大量の人員と兵力が投入され、マリアナの戦いの前に準備が出来た。

「サイパン島は難攻不落である」

 と陸軍大将である東條英機総理が豪語する程には防備が固まっていた。
 事実、マリアナ沖海戦の時まで、第一航空艦隊は迎撃に連日出撃、第一機動艦隊が攻撃を出したそのタイミングで、掩体壕に温存していた攻撃機を発進させ、打撃を与える事に成功した。
 アスリート飛行場の早期陥落という事態が発生したが、防備は堅かった。
 しかし、第一航空艦隊と第一機動艦隊の両艦隊が壊滅した為、制空制海権を奪われ、早期にサイパン島放棄を決定。マリアナより撤退した。
 諸島に配備された十万に上る陸上部隊が未だに抵抗を続けているが、救援の艦隊を送ることが出来ない。
 空母二隻が撃沈され、四隻が大破して発艦不能。
 一五隻いた空母の内、六隻が戦列を離れ、残り九隻。
 信濃と海鳳は被弾多数だが装甲のお陰で軽微な被害で済んでおり再出撃可能だが、念のため一ヶ月はドックで整備が必要だろう。
 大鳳は魚雷をガソリンタンク近くに受けたが、応急修理が間に合い、異常なしだ。
 新造時には新造時に鋼鉄製の配管を使っていたが、つなぎ目のところだけでも何とか銅に交換して、配管が外れにくいようにしていた。
 また新造艦が出来ているが、訓練未了で実戦に参加できない。
 何より、航空機の生産とパイロットの育成が間に合わず、乗せるべき艦載機がない。
 海戦の残存機は五〇〇機の航空機。
 予備に一〇〇〇機いるので一五〇〇機が用意されている。
 第一航空艦隊の状況はもっと酷く、残存機が一〇〇〇機のみ。
 本土に帰還できたが、マリアナへ出撃できる航空基地は硫黄島のみであり、出撃できる機数は限られている。
 そのため第一波一個旅団、第二波一個師団のサイパン逆上陸部隊の発進は中止され、硫黄島に留め置かれることになった。
 妥当な結論だったが問題になったのは、このような結果にした指揮官や作戦関係者への追及だった。
 だれが守るべき絶対防衛圏を崩壊させたのか、元凶が誰なのか見つけ出す儀式が既に始まっていた。
 既に

「こんなことしている場合ではないのにな」

 佐久田は軍令部の建物の中で呟いた。
 部屋には上官である山口と、他にも海軍の上層部が並んでいる。

「諸君らは善戦したのか」

 軍令部総長兼海軍大臣の嶋田繁太郎が難詰してきた。
 本来、軍令部総長と海軍大臣の兼職は独裁の危険、内閣による統帥権の干犯――内閣の一員である海軍大臣が海軍の作戦に口出しすることになり好ましくないとされた。
 だが、東條英機による政軍一致の方針の元、兼職が進められた。
 確かに総力戦の中では命令系統を一本化した方がよろしい。
 しかし、東條の腰巾着とされる嶋田に能力があるのか、佐久田は勿論海軍の誰もが疑問視していた。

「戦果をあげましたよ。空母二隻、軽空母一隻、戦艦三隻を撃沈。空母二隻、軽空母二隻戦艦一隻を大破。他、大小艦艇に多大な損害を与えました」

 大戦果と言って良かった。
 これまで米機動部隊との戦闘が少なかった事もあり、久方ぶりの大戦果と言えた。

「そのような事を言っているのではない!」

 嶋田は怒声を上げた。

「サイパンが陥落したことが問題なのだ!」

 佐久田は呆れながら見ていた。
 確かにサイパンが陥落したことは大失態であり、マリアナ防衛を目的にしていた<あ号作戦>の失敗を意味する。
 マリアナが陥落すれば、日本本土の防衛、哨戒の拠点が失われ、米軍の根拠地になる。
 今後、日本本土は恒常的に米軍の本土への攻撃、空襲を受けることになるだろう。

「作戦に失敗した今は、その原因を探り、マリアナ陥落を前提に防衛計画の再構築を行うべきでしょう」
「貴様! 責任逃れをしようというのか!」

 佐久田に嶋田が怒鳴った。
 責任逃れをしようとしているのは嶋田だった。
 そして濡れ衣を押しつけるには佐久田は最適だった。
 経歴上、幾つもの越権行為や横やりもあり、海軍の士官達に嫌われている。何より、作戦の立案者である。
 責任を取らせるには最適だった。
 そのことを分かっている佐久田は、嶋田への批判を恐れなかった。
 くだらない査問会を開いて責任転嫁を行おうというのは見苦しい。そんなヤツに屈するなど出来ない相談だった。
 幸いにも、このような馬鹿げた査問会はすぐに終わった。
 嶋田の能力のなさ、そして東條への擦り寄りを見て幻滅した海軍将校は多かった。
 東條の命令で海軍へのアルミの割り当て減量を受諾したことも大きかった。
 ソロモンの前線から撃墜した敵機や地上撃破された機体を本土に持ち帰り、アルミを再利用する方法で何とかアルミの在庫を確保していたが、それでも足りないのは事実。
 東條自身も総理のみならず参謀総長と陸軍大臣を兼任し独裁体制を推進していたことが、政府内からも反発を買っていた。
 そしてマリアナ失陥で不満が一気に噴き出し、辞任要求が増して行き、六月の前には退陣することになった。
 嶋田も敗戦責任のある内閣の一員として引責辞任し海軍大臣と軍令部総長を辞任することになった。
  
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