架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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榛名の対空演習

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「対空電探に感あり! 正体不明の編隊接近!」
「総員戦闘配置! 対空戦闘用意!」

 電探手の報告で戦艦榛名の艦長は命令を下す。
 ラッパ手が、タカタカタッタッターッ、タカタカタッタッターッとラッパを吹き、戦闘配置を艦内に伝える。

「総員戦闘配置!」

 艦内各所で士官と下士官の号令が響き、水兵達が持ち場へ向かう。

「一番砲塔戦闘配置完了!」
「第二高射装置! 総員配置に付きました!」
「応急指揮所! 配置に付きました!」
「機関室総員配置! 最大戦速即時待機完了!」

 艦内から次々と報告が入ってきて当直士官が応対し各所の状況を把握する。

「艦長! 総員戦闘配置完了!」

 全ての部署が配置を終えたことを確認して当直士官は報告した。
 艦長は時計を見た。
 命令下達から配置完了まで七分だった。

「遅いな」

 艦長は呟いた。
 マリアナの後、再編成のために熟練の水兵や下士官が転属していった。
 新造される新たな艦への基幹要員、戦時拡張により多く入ってきた新兵を教育するための海兵団と各種学校が拡大し教官、助手が必要なため、彼らは異動していった。
 勿論、他の艦や学校から榛名に異動してくる者もいるが、実戦経験がある者は少ない。
 足りない部分は新兵で補われており、陸上学校からやってきた者は久方ぶりの艦隊勤務で勘が戻っていない。
 そのため練度が低下していた。

「何とかしないとな」

 内地やリンガにやってきてから幾度も訓練を行ったが、まだ足りない。
 配置転換直後の訓練、発令から完了まで十五分かかった頃よりマシだが、ソロモンの激戦、戦艦同士の夜戦さえ経験し実戦を知る艦長には満足できない数字だ。
 実戦で生き延びるには、十分とは言えない数字だ。
 出来る事なら配置を解除して最初からやり直したい。
 いつもならそうしているが、今回はダメだ。

「味方索敵機より入電! 接近する編隊は敵雷撃機と認む! 来襲まであと五分!」
「味方航空隊より通信! 来援には二〇分を要す!」
「艦長了解!」

 相手が迫ってきている。
 実戦で敵は戦闘配置のやり直しなどさせてくれない。
 現状で乗員に最大限の能力を発揮させる以外に艦長の選択肢はなかった。

「副長! 私は防空指揮所に上がる! 応急指揮を頼むぞ!」
「了解!」

 艦長は第一艦橋すぐ上の防空指揮所に上がった。
 左右に筒を突き出す測距義を持った射撃指揮所の前にあり、殆ど露天だが、何もないため空がよく見えるので敵機の動きがよく分かる。
 対空戦闘の時は、ここに上がって艦長は指揮する。

「九時方向に航空機多数! 敵機です!」

 報告のあった上空を見ると中翼の航空機が飛んでいた。
 彼らは上と下に分かれて榛名に接近する。

「八時方向より敵機急降下!」
「取り舵一杯! 左六〇度回頭!」

 榛名が敵機に向かうように航行させる。
 逃げるより、敵機の針路から外れるように航行した方が避けやすい。
 航海参謀の森下少将の指導通りに艦長は指示する。

「敵機! 海面すれすれで離脱していきます!」

 榛名に逃げられた敵機は機首を引き起こし、離脱していく。
 上手く爆撃を回避できたことに艦長は内心安堵していた。
 ここで回避に失敗すれば自分に対する乗組員の評価が下がるし、士気も下がる。
 やる気がなくなり、動きのおそくなた艦など敵の良い的だ。
 特に榛名は、水雷戦隊の援護のために敵中へ突入することが多く、敵の反撃を受けやすい。
 それだけに機敏な動きを求められる。
 乗組員達が自分を尊敬の目で見てくれる、従順に従ってくれることに艦長は毅然としつつ、内心安堵していた。

「右より敵機多数接近!」

 しかし、艦長に安堵している暇はなかった。次から次に敵が接近してくる。
 低空から侵入してきた敵機が回り込んできた。
 複数の機が横一列になって榛名に迫ってくる。

「面舵一杯!」

 雷撃機のいる右の方へ榛名を向かわせる。
 横っ腹を見せるより、敵に向かった方が雷撃の狙いを付けにくい。敵機に向かう方が良い。
 今回の演習はその訓練でもあった。

「反応が遅い」

 艦の動きを見て艦長は呟いた。
 先ほど爆撃を回避する為、左に舵を切っていたため左への惰性があり、右に向かうのが遅い。
 回避に成功したらすぐに操舵手が舵を戻すべきだったし、右に切るのも遅かった。
 そもそも見張の報告が遅れた。

「私も修行が足りないか」

 部下に、どう対処するべきか、艦長の命令がなくても、言われなくてもやるように指導するべきだった。
 特に動きの鈍い大型艦、戦艦は先を見通して先手を打つように行動する必要がある。
 士官であれ、下士官であれ、水兵であれだ。
 だが練度低下で、命令を受けてから行動する受動的な態度しか取れていない。
 そのため敵機が雷撃位置へ付くのを許してしまい、絶好の雷撃コースに入ってきた。

「雪風! 我々と敵機の間に入ります!」
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