架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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米海軍の事情

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「海軍としては早期の侵攻は反対です」

 英国大使の会談後に開かれた作戦会議の席上で合衆国艦隊司令長官キング大将はルーズベルト大統領に言った。
 インド洋への米軍機動部隊派遣が拒否されたのは良かった。
 日本軍の攻撃が激しい太平洋方面から引き抜かれては攻撃力が分散される。
 海軍兵力は集中運用する、という古来からの原則を破ることは避けたい。
 無論分割しても最後には合衆国海軍が勝つ自信はある。
 精神論ではなく合衆国の生産力に裏付けられた兵器生産能力は日本を凌駕しており生み出される圧倒的な戦力を用いれば、国力に劣る日本に万に一つも負けない。
 だが、その間の損失を出来るだけ少なくする必要がある。
 不利な戦いに挑んで余計な損害を出すことなど許容できない。
 実際、日本はよく戦っており、米軍の損害は多く、進撃速度は遅かった。
 そして、キングは英国が嫌いであり、自分の部下を英国軍の元で戦わせることを嫌がった。

「マリアナでの痛手が、まだ響いています」

 そして苦々しい事実だがマリアナでの損失が痛かった。
 日本軍の反撃によって空母任務群二つが潰され、戦艦にも損失が出ている。
 何とかマリアナ諸島は占領したものの、各地で日本軍の抵抗が続いている。
 この状態で新たな攻略作戦を実行するのは難しい。

「だが、兵力の補充は済んでいるはずだが。それも正規空母を艦隊に配備している」

 マリアナで正規空母二隻、軽空母二隻を失っているが、新たに就役したエセックス級を配備。
 更にウォッゼの戦いで損傷した空母が復帰したことで、太平洋艦隊の空母戦力は回復した。
 現在、空母機動部隊は四つの任務群、それぞれに空母二、軽空母一を擁する陣容であり、そのうち一つは正規空母三隻で編成されている。
 戦艦に関してもアイオワ級の配備が終わり、損失は回復しているはずだった。
 そのことはキングも承知していたが、首を横に振った

「兵員の訓練が十分ではありません。また、フィリピン攻略は多大な時間を使います。ここは台湾を攻略し、中国沿岸へ行き日本のシーレーンを遮断すべきでは」

 キングは台湾攻略論者だった。
 マッカーサーが自分の権力基盤であるフィリピン奪回を声高に唱えている事への反発もあり、反対していた。

「だが、既に決まったことだフィリピン攻略は規定通りだ。チャーチルとも約束した」

 先日ケベックを訪れたとき、チャーチルと首脳会談を行い第二次大戦の基本方針を確認した。
 ヨーロッパ攻撃を優先し、太平洋の攻撃はその後が大原則である。
 チャーチルはインド洋解放を訴えたが、補給線の関係、アメリカから丁度地球の反対側にあるインド洋への部隊派遣は多大な労力と船舶が必要な上に、最短距離の地中海は、イタリア半島北部の枢軸軍が攻撃を仕掛けてくる。
 とてもインド洋への攻撃など出来ない。
 それもチャーチルが訴える、ビルマへの上陸作戦など無理だ。
 しかし、英国の苦境を見捨てるわけにはいかない。
 経済的な属国とするために国力を低下させて欲しいが、過度に衰退しては合衆国が面倒を見ることになり結局負担になる。
 だから、日本軍のウィークポイントであるシーレーンを破壊するためにもフィリピンを攻撃する事を約束した。

「キング作戦部長、これは大統領命令である」
「分かりました」

 さすがにキングも大統領命令には逆らえなかった。

「迅速にペリリュー、及びウォッゼを攻略。フィリピンを奪回せよ」



「これは大変な事だ」

 会議の後キング大将は、呟いた。
 ペリリュー攻略の為に、周辺の日本軍の基地を破壊して支援できないようにする必要がある。
 ハルゼーの機動部隊は再編成されたばかりで、練度が少し不安だ。
 それに猪突猛進するハルゼーをキングは嫌っていた。
 卓越した知性を持つスプールアンスに任せたいが、マリアナ攻略での疲労で急用が必要だ。
 準備不足の状態で攻略を開始する必要がある。
 幸いビアク周辺を確保した陸軍航空隊が展開し支援してくれるだろう。
 だが連中の力を借りなければならないのは、嫌だ。
 しかし、無い袖は振れない。

「マーシャルに頭を下げなければならないか」

 ライバルである陸軍参謀総長の顔が思い浮かんだ。
 さらに陸軍航空隊司令官アーノルドにも頭を下げる必要があるだろう。
 願わくば陸軍から独立し空軍を作り出そうとする野心家である。

「連中のために輸送船団と護衛艦艇を奪われているのだぞ」

 マリアナ陥落により日本本土爆撃のためにB29基地が建設されている。
 そのために莫大な物資が必要であり、その船団を運営するために膨大な船舶と護衛艦艇が割かれている。
 戦略爆撃の効果を強調しているが、効果が大きいかどうか疑問だ。
 既に二年前からドイツへの本土爆撃を行っているが、目に見えた成果がない。
 都市空襲により建物は破壊しているが、前線に送り出されるドイツ軍の兵器の数が減っているようには見えない。
 日本電も同じ事が起きるのではないかとキングは考えていた。

「だがやらなければならないだろう」

 キングは下げたくない頭を下げに陸軍の元へ向かった。
 
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