架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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インド洋とペリリュー侵攻

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「今回の作戦も成功だな」

 インド洋を航行する空母信濃の艦橋で山口は嬉しそうに言った。
 英国機動部隊との海戦に勝利した。
 一度空襲を受け、艦載機が並んでいるところへ爆撃を受け、大炎上となった。
 だが、装甲化された甲板に被害はなく、消化器を作動させた事によって鎮火。
 残骸を海中投棄して甲板を片付けると格納庫の機体を引き出し、出撃させイギリス機動部隊を葬った。
 優秀な艦攻による航空雷撃によって英国軍機動部隊は壊滅した。
 その後はいつものように、インド洋を暴れ回り、商船団を沈めたり、捕獲していた。

「さすがだな佐久田参謀」
「ありがとうございます」

 珍しく佐久田が嬉しそうに言った。
 インド洋への侵攻と確保は佐久田の持論であり、成果が出ているのは嬉しい。
 英国の商戦団を沈め、インドを封鎖し国力を削ぐ、そして機動部隊の格好の訓練となる。
 特に経験のない艦載機パイロット達に実戦経験を積ませるには英国軍相手が丁度良い。
 損失も予想の範囲内で終わった。
 これならリンガで補充すれば大丈夫だ。
 だが、そこへ凶報が流れてくる。

「本土より報告と命令です。敵がペリリューへの侵攻を始めました」

 パラオの近く、ペリリュー島とアンガウルへの上陸は始めたのだ。
 ペリリュー島は中川大佐以下一万名の日本軍が配備されている。
 だが米軍は戦艦五隻、空母三隻、軽空母五隻、護衛空母一一隻、その他艦艇多数の支援の元、海兵隊第一海兵師団、陸軍歩兵第八九師団合計四万八〇〇〇名を投入。
 四日間の攻撃で占領しようと計画していた。

「直ちに反転し、ペリリュー救援に向かえとの事です」
「どうする参謀」
「戻るのは構いませんが、無意味でしょう。ペリリューは救えません」
「どうしてだ」
「フィリピンから離れすぎています。航空支援が出来ません。それとウルシーが攻略されたそうです」

 報告ではウルシー環礁も占領されたと報告されていた。
 近くに戦前から整備されていたパラオ泊地があり、日本軍はウルシーを重要視していなかった。
 だが、佐久田は艦隊泊地としてウルシーが最適であり、敵はパラオを攻略せずにウルシーに向かうことを懸念していた。
 防備を固めるように要請していたがパラオの防備を優先したため却下された。
 結果、アメリカ軍は無血占領でウルシーを手に入れた。

「米軍はここに大量の商船とタンカーを持ち込み、機動部隊の拠点にするでしょう。下手に救援に赴けば攻撃されます」

 佐久田の言うとおり、大量の輸送船団と移動式の浮きドックが工作艦と共にウルシー環礁に来航し、米軍機動部隊の一大拠点となった。

「さらにミンダナオ島近くのモロタイ島を占領しました。ここからの航空機の活動は脅威です」

 モルッカ諸島の北部にあり、フィリピン諸島に近い位置にあるモロタイ島は、米軍航空部隊がフィリピンを活動圏内に収められる位置にある。
 ここが占領し、飛行場を建設したことはアメリカが本格的にフィリピン攻略の準備を始めた証拠だった。

「救援しないのか? 米軍へ反撃せずに良いのか」
「米軍が本格的にフィリピンへ上陸作戦を始めた時に攻撃するべきです。航空艦隊と航空軍の支援の下、攻撃するべきでしょう」

 何とか再編なった機動部隊だが、米軍とまともに戦えるとは思えなかった。
 今回のインド洋進撃で練度は高まったので、一戦して互角には戦える。
 だが、その一戦で艦載機部隊は壊滅して二度と作戦行動は取れないだろう。

「確実に米軍に打撃を与えられる、フィリピンで決戦を行うべきです」

 フィリピンでの決戦に佐久田はこだわった。
 確実に米軍が襲来する場所であり、無数の島々からなり諸島は飛行場適地が多く、多数の陸上機を配備できる。
 深いジャングル内に航空機や整備設備を隠し敵の襲撃に備えることも可能。
 来襲すれば圧倒的な航空戦力で襲撃する事も可能だ。

「上手くいくか?」
「行かせなければなりません。でなければシーレーンが遮断され、日本は干上がります」

 フィリピンの西側は南シナ海、南方資源地帯から日本本土に物資を送り出す重要な航路だ。
 フィリピンが陥落すれば航路は遮断され、日本は戦うどころか、生きていくことが出来ない。
 決戦を叫ぼうにも飢え死にする以外にない。

「我が機動部隊も準備を進めるべきか」
「はい、もう暫くインド洋で活動した後、本土に帰還しましょう」
「そうしよう、君の作戦が上手くいくように協力しよう」

 山口は作田に行ったが、佐久田は気が晴れなかった。
 機動部隊はどうにかなるが、他の部隊が作戦通り動いてくれるか分からなかったからだ。
 問題となるのは、米軍が上陸する前に行う、周辺の航空基地への攻撃にフィリピン周辺の部隊がどのように対応するかだった。
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