架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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レイテ上陸決定

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「損害が大きすぎないかハルゼー」

 ウルシーに帰還したハルゼーにニミッツは尋ねた。
 占領されたばかりのウルシー環礁だが、既に米軍の支援艦艇が入港しており、急速に根拠地としての機能を得つつある。
 百隻近い艦艇からなる第三艦隊が入港出来るのも、機能が整った証拠だった。
 ここは来るフィリピン作戦、その後の沖縄、日本本土攻略の為の重要な拠点となる。

「ここの安全の為にも攻撃は必要でした」

 ハルゼーはニミッツに向かって報告した。
 ウルシー占領とペリリュー攻略のため、周辺の日本軍の基地、特にフィリピンの航空基地を攻撃するようハルゼーは命令されていた。
 その指示に基づいて、ハルゼーは九月の間、フィリピン各地と攻略目標であるウルシーとペリリュー近辺を空襲していた。

「だが航空機の損害が多すぎる」
「飛行場攻撃の時の損害です。日本軍の反撃能力は落ちています。機動部隊への襲撃は少ないものでした」
「攻撃隊は大きな損害を出しただろう」

 確かに空母への攻撃は少なかった。
 だが、それは日本軍による米機動部隊への攻撃が少なかったからだ。
 日本軍の迎撃は熾烈を極め、艦載機の半数が撃墜されるか、着艦後破棄、大規模修理が必要だった。

「この状態で日本軍の反撃能力が無いと言いきれるか」

 対日侵攻のスケジュールが遅れ気味なのに加えて損害が大きいことがニミッツの不安だった。
 ヨーロッパの作戦も上陸後の計画は遅々として進まず――ノルマンディー上陸後、三ヶ月でドイツ本国の国境に達し、十月にはドイツを降伏させるというスケジュールは、フランス解放さえ出来ていない現状では不可能だ。
 それに伴って北大西洋に割かれた空母戦力が来援するのも遅れる。
 マリアナで大損害が出たことにニミッツは焦っていた。
 このままだと対日作戦全体が失敗するのではないかという恐れだ。
 だが、ハルゼーは楽天家だった。

「今回の攻撃で日本軍は着実に弱まっています。特にレイテの防御力は低く、簡単に上陸できます。時期を早めてレイテに上陸するべきでは」

 ハルゼーの意見にニミッツはは考え込んだ。
 予定ではペリリューのあと、作戦<キングⅠ>、フィリピン最南端のミンダナオ島に上陸し、続いて作戦<キングⅡ>レイテ攻略へ進み、マニラへ上陸するのが目下のスケジュールだ。
 だが、レイテの防御が弱く、上陸可能ならミンダナオ島を飛ばしてショートカットが出来る。
 レイテは太平洋に面しておりフィリピンの中央に位置する。
 しかもハルゼーの報告では飛行場適地が多い。
 ここに飛行場を建設できれば、フィリピン全域がアメリカ軍の制空権下に入る。
 レイテ攻略後の対日侵攻スケジュールも短くなるだろう。

「だが日本の機動部隊が撃滅していないだろう」

 ニミッツの心配はマリアナで取り逃がした山口率いる機動部隊だ。
 今回のハルゼーの攻撃には出てこなかったが、もし攻略の最中に現れたら危険だ。

「今回の戦いで出てこなかったのはインド洋に出ていた為でしょう。それに出てこなかったのは、マリアナで受けた傷が予想以上に深く、修理に時間がかかっているのでしょう」
「ふむ」

 ハルゼーの意見にも一理あり、ニミッツは考え込んだ。
 確かにマリアナで米軍が受けた損害は大きいが日本軍も大きい。
 空母も何隻か撃沈している。それ以上に艦載機の被害が大きい。
 その回復が果たされるのに、どれだけの時間がかかるか。
 艦載機パイロットの育成にも関わっているニミッツは、アメリカでも困難である事は分かっている。
 専用の訓練艦として五大湖の外輪線を改造し発着艦訓練専用の船を作り、大量育成を行っているくらいだ。
 日本も同じように出来るかどうか国力の面からも疑問だった。

「よろしい、レイテ攻略作戦<キングⅡ>をミンダナオ島攻略作戦<キングⅠ>より先に実施するの案を早急に纏めるんだ。統合参謀本部へ提出する」
「了解しました」

 ハルゼーは喜々として答えた。
 ニミッツは不安を感じたが、他に有効なアイディアもなく、日本の機動部隊は戦力が低下していると想定し、変更案を提出する事にした。



「レイテへの上陸か」

 ハルゼーの出した提案を興味深く読んでいるのはフィイピン奪還を声高に主張する南西太平洋方面連合軍司令官マッカーサーだった。
 陸海軍の中にもこの意見に賛成する人間が多い。
 戦争が長引くにつれ、国民の不満も大きくなっている。
 戦争を少しでも早く終結させるためにも、ショートカット出来るならしたいと思っているだろう。
 そしてマッカーサー自身も開戦初頭、日本のフィリピン攻撃の前に逃げ出す事となったとき宣言したI shall returnを実現するために早急にフィリピンへ向かいたかった。

「計画を変更する。<キングⅡ>を早めレイテへ上陸する」
「ですが閣下、マリアナの制圧も終わっていません。それに日本軍は中国戦線から手を引き始めています」

 マッカーサーの幕僚が反対意見を言った。
 先月、大陸打通作戦を成功させた日本は、中国各地から撤退を開始した。
 太平洋方面に兵力を移動させるためでもあるが日派国軍、南京政府寄りの軍隊が占領地でできはじめたからだ。
 北山の産業育成が進み、人々の雇用を確保し経済が回るようになっていった。そのため人心を掌握するようになってから日本軍に加わる人が多くなった。
 少なくとも占領地を任せる程度には訓練が出来たため、続々と撤退していった。
 対米開戦前から行われていた北山の計画が今ようやく実ったのだ。
 そのため、中国各地から日本軍が撤退し、フィリピンを中心に再配置されていた。

「つまり、これ以上遅らせると日本軍は増え続け、我々の勝機はないという事だろう」

 フィリピン奪回が遅れるのはマッカーサーにとって避けたいことだった。
 そしてフィリピンへの上陸中止が決定されることをマッカーサーは恐れていた。

「計画を早める。レイテ上陸を主眼とするよう統合参謀本部に提案するんだ」

 マッカーサーの意見は通り、レイテへの上陸作戦が決定した。
 そして、その前段階として、ハルゼーによるフィリピン周辺の日本軍航空基地攻撃、沖縄、台湾へ対する空襲作戦が十月初頭に実行されることになった。
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