架空戦記 旭日旗の元に

葉山宗次郎

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ハルゼー台風

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「行くぞ野郎共! Kill Jap! Kill Jap! Kil more Jap!l」

 自身の出身地ニュージャージの名を冠した戦艦に乗り込んだハルゼーは部下達に向かって叫んだ。
 いつもの親父だと、部下達は呆れたが同時に高揚していた。
 ソロモンの苦しい時期、最悪の海軍記念日とされた南太平洋海戦敗退が知らされたときもハルゼーは意気消沈せず部下を叱咤し、士気を回復させ、なお攻撃を続行させた。
 直前のマリアナ沖海戦での損害に戦慄していた部下達も、ハルゼーの鼓舞でソロモンの苦闘と最終的な勝利を思い出し、士気を向上させた。
 もっとも士気が回復した最大の要因は合衆国の生産力による艦隊の補填だった。
 ハルゼー率いる第三艦隊の指揮下には、さらに増強された空母一三隻、軽空母五隻、搭載機一五〇〇機とマリアナ沖海戦を上回る航空戦力が与えられていた。
 他にも、護衛空母を中心とする支援部隊が後方に控えており、ウルシーの後方拠点もあって長期の作戦行動を可能としていた。
 ハルゼーに与えられたフィリピン上陸前の支援任務、沖縄及び台湾にある航空基地撃滅任務を行うのに最適の戦力だった。
 通常ならば、艦隊が陸上施設に攻撃を仕掛けるのは非常に不利だ。
 船は燃料弾薬を搭載しているが、その数は有限だ。
 空母は通常、全力出撃三回分の弾薬と十回から二十回分の航空燃料しか搭載していない。それ以上、弾薬庫、燃料タンクを確保出来ないし、過剰に搭載すると被弾したとき誘爆して被害が大きくなる。
 だが陸上施設は、土地と建物があれば艦船よりも多くの弾薬を備蓄できる。
 陸上にあるため沈む心配も無いし敷地が広ければ分散して備蓄できる。
 また、施設が破壊されても工兵隊などを大量動員して復旧することが出来る。
 限られた乗員しかいない空母より回復力は高い。
 だが、ハルゼーいや米海軍は恐れなかった。
 空母機動部隊の有利な点、機動力を存分に生かすからだ。
 ハルゼーの機動部隊は、日本軍の索敵範囲の外側に待機。
 日が暮れると最大戦速で沖縄に向かって一晩中進撃し、夜明け前までに艦載機の作戦圏に沖縄を捕らえた。

「攻撃開始だ!」

 夜明け前、ハルゼーは出撃を命じた。
 四つの空母群、空母一三隻、軽空母五隻を集中運用し、沖縄の航空基地への攻撃を行ったのだ。
 各艦三〇機の艦載機を放ち、総計四五〇機からなる第一波攻撃隊が、レーダーを避けて低空を侵攻し夜明けと共に日本の航空基地を奇襲。
 滑走路と駐機場を破壊、周囲の対空陣地も破壊した。
 陸上の施設は空母よりも大きく出来る。敷地さえあれば。
 だが飛行場に適した土地は少なく一〇〇機の航空機を飛ばせる飛行場など滅多にない。
 成田や羽田の空港で滑走路から飛び立てる飛行機の数が三〇から六〇機程度であることを思えば致し方ない。旅客機と軍用機の違いはあるが、飛行機を運用するには広大な敷地があっても限界はある。
 だが、空母は艦の大きさにもよるが、一〇〇機近い航空機を搭載出来る。
 そして、複数の空母が集まり、同時に航空機を発進させることが出来る。
 しかし、陸上基地は移動できない。
 集まった多数の空母から放たれる、無数の艦載機に圧殺される。
 日本の生み出した空母機動部隊思想は正しかった。
 だが、圧倒的な国力を誇るアメリカが活用したとき、雲霞のごとき航空部隊を放つ、恐るべき大機動部隊が、日本の国力では対処出来ない恐ろしい敵が現れた。
 日本側も残った飛行場から戦闘機隊を放って迎撃に出たが、多勢に無勢だった。
 しかもアメリカの攻撃はこれだけではなかった。
 一時間後には同規模の第二次攻撃隊が発進。
 復旧作業中の航空基地を破壊した。
 その後も、第三波、第四波と続き、夕方までに七波に及ぶ攻撃が行われ、日本の航空基地は壊滅した。

「はははっ、ジャップの奴、手も足も出ないようだ」

 戦果の報告を受けたハルゼーは満足に高笑いした。
 日本側の抵抗も少なかった。
 先のフィリピンでの作戦の成果もあり、日本軍の抵抗は弱まっている、とハルゼーは確信した。
 大量の燃料と弾薬を消費し損害も出たが、後方の支援艦隊と合流。燃料弾薬の補給を受け、再び活動を再開した。

「ジャップの戦力を俺が根絶やしにしてやる!」

 ハルゼーの攻撃の前に日本軍の反撃は少なく、その被害の甚大さからハルゼー台風と呼ぶほど、戦果は一方的だった。
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