貴女伝説 呉羽

葉山宗次郎

文字の大きさ
14 / 28

都からの通達

しおりを挟む
「ここには豊かな鉄が埋まっていそうですね」

 山の中を流れる川の砂を見ていた呉羽は言った。
 科野の国を豊かにするため、力寿丸との生活を少しでも良くするために山の中からとれる物を見つけようとしていた。
 クマやイノシシなどの獲物も多かったが、鉱物や植物も豊富にあり種類も多く、都に持って行けば高く売れる物もあった。
 それらを少しでも見つけようと呉羽は山の中に入った。

「珍しいな」

 その様子を見ていた力寿丸が呟いた。

「何がですか?」
「普通、姫君というのは屋敷の中にこもっているかと思ったんだが、外に積極的に出てくるなんて」
「あははっ、昔の姫君はそうかもしれませんが、外に出て行く方々もいますよ。虫好きで日がな一日虫を観察される方もいます」
「奇特だな」
「でも物をよく知っていて、いろいろなことを教えてくれますよ」

 呉羽はそう言うとひょいと岩を上って向こう側へ行く。
 姿が見えなくなるのを心配した力寿丸も追いかけて、跳躍し岩の上に上る。

「うーん、この下に何かありそうですね」

 すると呉羽が大岩の下をのぞき込んでいた。
 力寿丸自身が担ぎ上げるには少し骨の折れる大岩だった。

「どれ、除けてみようか」

 しかし、呉羽の前で良いところを見せようと岩を覗くことを言いだした。

「一寸どけましょう」

 だが、呉羽は力寿丸の言葉を聞き逃し、近くにあった大きな流木を手にすると大岩の下に突っ込み石をてまえに置くと流木の端を持って力を込めた。

「よいしょ」

 流木に押し上げられた大岩は転がり、川の方へ転がっていった。

「……以外と力持ちなんだな」

 呉羽が事もなげに自分自身さえ手こずる大岩を動かす様子を見て力寿丸は戦慄した。

「いえ梃子の原理を利用して動かしただけです。誰でも何倍もの力を出せます」
「そうなのか?」
「はい、力寿丸さまでしたら私の何倍、何十倍もの大きな岩を動かすことが出来るでしょう」

 嬉しそうに呉羽が言ったとき、国府から国司がやってきた。

「呉羽様!」

 山道を駆け抜けて来た国司は息を荒らげながら、手紙を持って伝えた。

「都より通達があります」



「この水無瀬の周辺に都を移す?」

 国司を連れて力寿丸の洞穴に行くと都からの通達を伝えられ、呉羽は驚いた。

「どうして、此処が都に」
「占いの結果、ここが都に最適という結果が出ました。ここは今の都から鬼門の位置に辺り、国の中心を守護する重要な場所。また風水がよく、四方を山に囲まれ川が流れ気の循環が良いので、都が栄える条件に当てはまると」
「そんな、大陸の風水をそのまま使うなんて」

 大陸の風水では北東を鬼門としているが、これは北東の騎馬民族が襲来して来た時、北東に玄関を配置すると危険だという経験から伝えられている。
 そのような脅威の無いこの国で、当てはめるのは愚かしい。

「このような山の中に都を作るなど無謀です。人々を収容できませんし、物資も調達できません」
「しかし、都からの通達で」
「立ち退けと」

 それまで黙っていた力寿丸が、国司に尋ねた。

「は、はい……」
「一度ならず二度までも追い出そうとするのか」

 国府周辺が縄張りであったことを認められ、補償を受け、国府に屋敷を与えられた力寿丸だったが、山の中の生活が性に合っていた。
 呉羽に屋敷を渡したが力寿丸の元を離れたくないと付いてきた。
 そこを追い払われるのは、腹に据えかねた。

「この山には他にも住んでいる者達、お前達の言う化け物や化外がいるが、彼らも立ち退けと」
「は、はい」
「断じて立ち退かないぞ」

 国司の返答に力寿丸は強い口調で拒絶した。

「ならば腕ずくでも行います」
「おう、良いだろう。相手になってやる」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

処理中です...