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桜と優美
しおりを挟む### 「魔法のパンスト」
桜は、目の前で落ち込む親友・優美(ゆみ)の姿を見て、思わずため息をついた。カフェの窓越しに、行き交うカップルたちを眺めながら、優美はぼそりとつぶやいた。
「私も、彼氏がほしいなぁ…」
桜は小さく笑って、優美の隣に腰を下ろした。彼女が恋人がいないのは意外なことではなかった。いつもクールで、誰かに依存するタイプでもない優美は、恋愛に対しても冷静だった。でも、時々こうして寂しそうな顔をすることがあった。
「そんなに簡単に見つかるものじゃないよねぇ」と優美が再びつぶやく。
桜はふと、ある秘密の品物を思い出した。それは先日、街の裏通りの古びた雑貨店で偶然見つけた魔法のパンスト。パンストを履いた相手を、24時間だけ異性に変えるという不思議なアイテムだった。店の店主は「恋人のフリをするのにぴったりだ」とにやりと笑っていた。
桜はそのパンストを優美に使うことを決めた瞬間、心の中で計画を立て始めた。
「ねぇ、優美」と桜が声をかける。「ちょっと面白いことしない?」
「え、なに?」
「これを試してみてよ」と、バッグからパンストを取り出して見せた。黒いレースの模様が繊細に編み込まれた、どこか高級感のあるそれは、普通のパンストに見えた。
「パンスト…?」
「ただのパンストじゃないよ。履いたら…男の子になれるんだよ。」
優美は桜の言葉に目を丸くした。
「冗談でしょ?」
「ほんとだってば。信じられないと思うけど、試してみる価値あると思うよ。そしたら、今日一日だけ、デートしてみない?男になって、私と」
桜の軽い調子に、優美は少し驚きながらも興味を持ち始めた。
「でも…どうなるの?本当に男になれるの?」
「うん、24時間だけね。でも、その間は完全に男の体になるから、違和感はないはず!」
優美は少し考え込んだ後、冗談半分でパンストを手に取った。
「ま、試してみるか。どうせ他にすることもないしね。」
---
10分後、優美はトイレから姿を現した。しかし、そこにいたのは、桜のよく知る優美とはまるで別人だった。背が伸び、顔立ちは少しシャープになり、肩幅も広がっていた。どこか優美らしさが残ってはいるものの、完全に見た目は男だった。
「うわっ、本当に…!」
桜は驚きながらも、その変貌に目を輝かせた。優美――いや、今や「雄也(ゆうや)」と名付けた方がふさわしいかもしれない――は自分の体を見下ろして驚いている。
「ほんとに男になってる…信じられない」
声まで低くなり、雄也は少し戸惑いながらも鏡に映る自分を確認していた。
「ねぇ、せっかくだからさ、デート行こうよ!今日は彼氏として私をエスコートしてくれるんでしょ?」桜はウインクしながら腕を差し出した。
雄也は、ためらいながらも苦笑してその手を取った。「仕方ないな。じゃあ、今日だけは彼氏になってあげるよ。」
---
二人はカフェを出て、街を歩き始めた。桜は新しく「彼氏」となった雄也に腕を絡めて、自然に見えるよう振る舞ったが、心の中ではワクワクが止まらなかった。
「なんだか、不思議だね」と雄也が笑いながら言った。「こんなに普通に歩いてるけど、昨日まで女だったのに。」
「うん、でも今の君は、完全に彼氏だよ。ちょっと格好いいし。」桜はからかい半分でそう言ったが、雄也は少し照れくさそうに鼻をかいた。
二人は映画館に行き、並んで映画を見た。ポップコーンを分け合いながら、なんだか妙に自然なデートの空気が流れていた。桜は、雄也の存在がこんなにも違和感なく感じられることに驚いていた。
映画が終わった後、二人は夜の街を歩きながら会話を楽しんだ。桜は冗談交じりに「こうして見ると、本当に彼氏ができたみたいだよ」と言うと、雄也は笑って肩をすくめた。
「いや、でも…」雄也は言葉を濁しながら少し俯いた。「思ったより悪くないかもね。こういうのも。」
桜も、少しだけ顔を赤らめた。「…私もそう思う。」
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翌朝、元に戻った優美は再び桜の前に座っていた。昨日の出来事を思い出しながら、少し不思議な気持ちでいた。
「ねぇ、またあのパンスト、借りてもいい?」
優美の問いに、桜は笑いながら頷いた。「もちろん。いつでもどうぞ、雄也さん。」
二人は顔を見合わせ、微笑んだ。
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