美咲の初体験

廣瀬純七

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通勤電車にて

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朝のラッシュアワー。人混みが押し寄せる駅で、美咲はいつものように通勤電車に乗り込んだ――いや、いつもとは違う。男の体になった自分を意識しながら、周囲の目を気にしていた。改札を抜けてホームに向かう途中、鏡に映った自分の姿を見て、まだ慣れない男の顔に少しぎこちない笑みを浮かべる。

「このまま乗って大丈夫なのかな……」

電車が到着すると、押し寄せる人波に巻き込まれながら車内へと押し込まれる。普段なら自分の体が押しつぶされないように気を使う場面だが、今日は違う。男の体が少し広く、力強く感じる。背も高いせいで、周囲の風景がいつもより少し遠い。

「なんか…目線が高い…」

吊り革に手を伸ばすと、自然に掴める。いつもならつま先立ちしてやっと届くものが、余裕で握れるのは奇妙な感覚だった。それでも、美咲は周囲の女性たちに注意を払っていた。男の体である自分がどのように見られているのか、まるで自分の立場が逆転したかのように感じられるからだ。

「私、今、男性だから…距離感、気をつけないと…」

混雑する車内で、すぐ隣に立っている女性が鞄を持ち直すのが見えた。美咲は一瞬ドキリとし、慌てて少し体をずらした。自分が何か不快に思われていないか、無意識に不安になる。

「私、男の人の体で…近づきすぎてないよね?」

心の中で焦りながら、自然に振る舞おうとするが、逆にぎこちない動きになってしまう。女性が少し顔をしかめたように見え、美咲はさらに神経質になった。自分の新しい体が他人にどう映っているのか、普段は考えもしないことが、今はすごく気になる。

さらに、電車の揺れで体が左右に揺れ動く。美咲は普段、体が小さいため、どこかにぶつかると自然に謝っていたが、今は自分の体が大きい分、どんな小さな動きでも周りに影響を与えるのがわかる。吊り革をしっかり握り、足を踏ん張って立つものの、周囲との距離感をうまく取るのが難しい。

「男の人って、こういうところでずっと気を使ってるのかな…」

そんなことを考えていると、さらに困ったことが起きた。電車が急に揺れ、美咲はバランスを崩して隣の女性に少し触れてしまった。

「す、すみません!」

とっさに謝ろうとしたが、声が自分の低い男性の声であることに気づき、思わず口を押さえた。心の中では「美咲」のつもりだが、外から見れば完全に「男」である。女性は一瞬、美咲の方をじっと見たが、特に気にする様子はなく、少しほっとした。

「気をつけなきゃ…」

体が大きくなったことで、普段気にしないことがたくさん増えたことに戸惑いながら、美咲は目的地に向かう電車の中で、どうにか周囲とのバランスを保とうと神経をすり減らしていた。

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