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痕跡と予兆
しおりを挟む「これは……夢じゃない、よな……?」
鏡の前で震える指先を見つめながら、雄太――いや、今や明らかに女性の身体となったその人物は、かすれた声でつぶやいた。胸のふくらみ、細くなった腰、長く見えるまつげ、そして何より、その声が自分のものではない。それは現実の感触で、幻想とは思えなかった。
美紀は呆然としながらも、雄太の肩に手を置いた。「ごめん、本当にごめん……。私があのツボなんて、冗談で押したばっかりに……」
「いや、責める気はないよ。まさか、本当に……ってなるなんて、誰が思うかって話だし」
雄太は無理に笑って見せたが、内心は混乱の渦の中にいた。だが、ただ嘆いていても解決にはならない。
「まずは……その記事、もう一度見てみよう。何か書いてあったはずだよな。戻る方法とか」
美紀はうなずき、昨晩読んだスマホの記事をもう一度開いた。しかし、そこには先ほどまで見ていたはずの情報がなかった。表示されたのは、404エラーのページ。「お探しのページは見つかりませんでした」という、冷たい文面。
「……消されてる。そんな……さっきまで、普通に読めたのに」
二人は一瞬、沈黙した。雄太の心臓が早鐘のように打ち始める。
「誰かに……いや、“何か”に、見られてたってことか……?」
ふと、美紀が思い出したように言った。「待って。コメント欄に、“戻れなくなったけど、同じ症状の人たちが集まる掲示板がある”って書いてあった気がする。確か、“蝶の夢”って名前だった」
「“蝶の夢”?……なんだよそれ、妙に詩的だな」
二人は急いでその名前で検索をかけた。いくつかのリンクを辿るうちに、暗号のようなデザインのフォーラムにたどり着く。アクセスには“変化前の名を入力せよ”と書かれているテキストボックス。雄太は恐る恐る「中村雄太」と打ち込んだ。
次の瞬間、画面が暗転し、こう表示された。
**「変化の扉は開かれた。蝶は過去を脱ぎ捨て、新たなる翅を得る。」**
「……なんだ、これ……?」
その言葉を皮切りに、雄太と美紀の前に、想像を超えた“真実”の扉がゆっくりと開いていく――。
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