性転換をするツボ

廣瀬純七

文字の大きさ
2 / 9

痕跡と予兆

しおりを挟む

「これは……夢じゃない、よな……?」

鏡の前で震える指先を見つめながら、雄太――いや、今や明らかに女性の身体となったその人物は、かすれた声でつぶやいた。胸のふくらみ、細くなった腰、長く見えるまつげ、そして何より、その声が自分のものではない。それは現実の感触で、幻想とは思えなかった。

美紀は呆然としながらも、雄太の肩に手を置いた。「ごめん、本当にごめん……。私があのツボなんて、冗談で押したばっかりに……」

「いや、責める気はないよ。まさか、本当に……ってなるなんて、誰が思うかって話だし」

雄太は無理に笑って見せたが、内心は混乱の渦の中にいた。だが、ただ嘆いていても解決にはならない。

「まずは……その記事、もう一度見てみよう。何か書いてあったはずだよな。戻る方法とか」

美紀はうなずき、昨晩読んだスマホの記事をもう一度開いた。しかし、そこには先ほどまで見ていたはずの情報がなかった。表示されたのは、404エラーのページ。「お探しのページは見つかりませんでした」という、冷たい文面。

「……消されてる。そんな……さっきまで、普通に読めたのに」

二人は一瞬、沈黙した。雄太の心臓が早鐘のように打ち始める。

「誰かに……いや、“何か”に、見られてたってことか……?」

ふと、美紀が思い出したように言った。「待って。コメント欄に、“戻れなくなったけど、同じ症状の人たちが集まる掲示板がある”って書いてあった気がする。確か、“蝶の夢”って名前だった」

「“蝶の夢”?……なんだよそれ、妙に詩的だな」

二人は急いでその名前で検索をかけた。いくつかのリンクを辿るうちに、暗号のようなデザインのフォーラムにたどり着く。アクセスには“変化前の名を入力せよ”と書かれているテキストボックス。雄太は恐る恐る「中村雄太」と打ち込んだ。

次の瞬間、画面が暗転し、こう表示された。

**「変化の扉は開かれた。蝶は過去を脱ぎ捨て、新たなる翅を得る。」**

「……なんだ、これ……?」

その言葉を皮切りに、雄太と美紀の前に、想像を超えた“真実”の扉がゆっくりと開いていく――。

---


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七
SF
体を交換できる腕時計で体を交換する男女の話

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

リボーン&リライフ

廣瀬純七
SF
性別を変えて過去に戻って人生をやり直す男の話

リアルメイドドール

廣瀬純七
SF
リアルなメイドドールが届いた西山健太の不思議な共同生活の話

OLサラリーマン

廣瀬純七
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

処理中です...