バーチャル性転換システムを開発した男

二人目の開発者

「このシステムには、誰かの“心”を守る人が必要よ」

慎太郎の自宅を後にした夜、藤本遥は眠れなかった。
体験中に感じた微細な違和感――それは単なる身体の違いではなく、“世界が自分を見る視線の差”だった。

翌朝、彼女は慎太郎にメッセージを送った。

> 「このシステム、完成させるつもりなら……私、手伝う。真剣に。」

彼の返事はすぐに来た。

> 「本気で？ うれしい。ずっと誰かに必要だったんだ、君みたいな人が」

その日から、藤本遥は「スイッチハウス」の第2の開発者として正式にプロジェクトに参加した。

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### システムに“心の設計図”を加える

技術面では慎太郎が圧倒的な才を持っていたが、彼は感覚をコード化する天才であると同時に、“倫理的限界”に対してはやや無頓着なところがあった。

「性別を越えて他者を体験する」――このテーマは革新的である一方、深く踏み込めば踏み込むほど、人のアイデンティティやトラウマ、プライバシーと衝突する。

遥は、大学で心理学とジェンダー研究を専攻していた。
彼女の参加によって、スイッチハウスの開発は新たなフェーズに突入する。

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### 「同意なき体験」は、決して許されない

まず彼女が取り組んだのは、体験プロセスに「心理的安全性」を担保するシーケンスを組み込むことだった。

* セッション開始前に「パーソナル領域」に関する質問に回答
* 他者のデータを使ったアバター体験には明確な同意確認
* 性的・身体的な過剰表現を制限するフィルタの設計
* セッション後のメンタルチェック・ログの自動作成

さらに彼女は、当事者の声を聞くため、ジェンダー・セクシュアリティに多様な背景を持つ学生たちと小さなワークショップを開始した。
「この体験は、どこまでが学びで、どこからが侵害なのか」――その問いを常に持ち続けた。

慎太郎は、そんな彼女の姿を静かに見守りながら、少しずつ考え方を変えていった。

「最初はね、ただ“自分じゃない何者か”になるって面白いと思った。でも、君と組んで初めてわかった。これは他人の人生に足を踏み入れることなんだ」

遥は、静かに頷いた。

「だからこそ、慎太郎。あなたが作ったこの扉は、“誰かのため”にも開くべきなのよ。傷ついた人、孤独な人、自分を知りたい人のために」

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### 新しい設計図

数ヶ月後、「スイッチハウス」は正式に“共同開発プロジェクト”として大学の研究部門に承認される。

プレゼンテーションでは、慎太郎が技術設計を、遥が倫理設計を説明した。
2人の視点は重なることなく、それでも不思議に補い合っていた。

発表の最後、遥は会場の学生たちに語りかけた。

「この技術は、あなたの心を揺さぶるかもしれません。でもその揺れが、新しい“自分”と出会うきっかけになることを、私たちは願っています」

その日以降、「スイッチハウス」は社会的に注目を浴びる研究プロジェクトへと成長していった。

そして、慎太郎にとっても、遥にとっても、それは単なる技術開発ではなく――

**他者と自分をつなぐ、たった一つの“対話”の形**になっていった。

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