取れてしまったアレ

廣瀬純七

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アレがない

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朝、目が覚めた瞬間、何かが違うことに気づいた。ぼんやりとした頭で布団をめくると、そこにあるはずのものが、ない。

「あれ…?」

すぐにパニックが襲ってきた。ペニスが、消えている。何度も見直し、触ってみるが、やはりない。頭が真っ白になる中、これがただの悪夢ではないことを理解するのに時間はかからなかった。

「やばい、どうしよう…」

焦りに突き動かされるように、すぐに病院へと向かう。道中、どうやって説明すればいいのか必死に考えるが、頭の中はぐちゃぐちゃでまとまらない。とにかく、医者に見てもらわなければ。

病院に到着し、受付で説明しようとすると、女性のスタッフがにこやかに対応してくれた。

「どうされましたか?」

「えっと、ペニスが…ないんです。朝起きたら、なくなってたんです!」

スタッフは一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐに微笑み直して言った。

「ちょっとお待ちくださいね。」

待合室で座っている間、自分の異常な状況が現実味を増してきて、心臓がバクバクと鳴り続けていた。

やがて、名前が呼ばれて診察室に入る。中には年配の男性医師が座っており、優しそうな顔でこちらを見ていた。

「どうされましたか?」

もう一度説明するしかない。

「朝起きたら、ペニスがなくなってたんです。もともと男性なんですが、急に消えてしまって…」

医者は眉をひそめ、少し不思議そうな顔をした。

「ペニスが…ですか?おかしいですね。あなたはもともと女性ですよ。」

「えっ?」

意味がわからない。医者はカルテに目を通しながら、あっさりとそう言い放った。

「いや、僕は男性です!ずっと男性として生きてきました!でも今朝、急にペニスが消えたんです!」

医者は困惑した表情を浮かべながら、頭をかしげた。

「おかしいですね。記録ではあなたは女性とされていますし、外見も女性です。何か勘違いをされているのでは?」

「いやいや、そんなはずないでしょう!僕は昨日まで確かに男性でした!」

焦りと混乱が交錯し、声がだんだん大きくなる。しかし、医者は一向に取り合ってくれない。

「まぁ、ストレスや疲れが原因で混乱することもありますから、一度休んで様子を見てください。それと、女性としての体についても何か異常があれば診察しますので、気軽に来てくださいね。」

そう言って、医者は診察を終わらせようとした。

「ちょ、ちょっと待ってください!本当にペニスがあったんです!信じてください!」

だが、医者は苦笑しながら首を振る。

「あなたは女性ですから、そんなことはありませんよ。」

まるで夢の中にいるかのようだった。診察室を後にして、外の世界に戻ると、周囲の人々はみんな何事もなかったかのように日常を過ごしている。自分だけが異世界に迷い込んでしまったような感覚に陥り、全身が震えた。

「どうすればいいんだ…」

その日は家に戻っても何も手につかず、鏡の前で何度も自分を確認する。しかし、そこに映っているのは見慣れた自分の姿とはどこか違っていた。まるで、世界全体が自分に対して嘘をついているような、そんな気がしてならなかった。

そして、その日以来、誰も自分がかつて男性だったという話を信じてくれなかった。何度も何度も説明したが、返ってくるのは同じ言葉。

「あなたは女性です。」

世界が変わったのか、自分が変わったのか、それとも何か別の力が働いているのか、結局答えはわからないまま、日々は過ぎていく。
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