取れてしまったアレ

廣瀬純七

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姉からの電話

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その日の午後、頭が混乱してどうしようもないまま、自宅でソファに倒れ込んでいた。朝起きたらペニスが消えていたことを、未だに理解しきれない。病院に行っても信じてもらえず、絶望的な気分でぼんやりしていると、スマホが鳴った。

画面を見ると、姉からの電話だった。普段なら姉からの電話は何気ない世間話か、家族の近況報告だが、今日はそれどころではない。

「もしもし?」と電話に出ると、姉の明るい声が返ってきた。

「元気?最近どうしてる?」

姉の無邪気な問いかけに、いつもなら適当に答えるが、今日は違う。すぐに本題に入った。

「姉ちゃん、ちょっとヤバいことが起きたんだよ。」

「ヤバいこと?どうしたの?」

声が真剣になった。焦りで胸が締め付けられるような感覚を覚えながら、話し始める。

「朝起きたら、ペニスがなくなってたんだ。」

電話の向こうで、一瞬の沈黙が訪れる。やっぱり信じてもらえないかもしれないと思った瞬間、姉が大爆笑し始めた。

「ははははは!何それ、冗談でしょ?また変な夢でも見たんじゃないの?」

「違うんだよ、マジで!本当に消えたんだって!」

「え、ちょっと待って…本気で言ってるの?」

姉の笑い声が少し止まり、戸惑いの混じった声に変わった。焦燥感がさらに増して、自分の言葉がうまく伝わらないもどかしさを感じた。

「本気だって!朝起きたら、突然何もなくなってたんだよ。すぐ病院に行ったけど、医者にも『あなたは元々女性です』って言われてさ。意味わかんないだろ?」

再び沈黙が流れる。姉は何かを考えているようだった。そして、やっと返ってきた言葉は、予想外のものだった。

「え、でも…あんた、もともと女でしょ?」

「は?何言ってんだよ?俺は男だよ!ずっとそうだったじゃん!」

姉は困惑した様子で続ける。

「いやいや、ずっと女の子だったじゃん。何言ってんの?小さい頃から女の子の服着てたし、母さんも『女の子らしく育ってくれたらいいな』って言ってたよ?」

「何言ってんだよ!そんなわけないだろ!俺は男として生きてきたんだ!」

電話口でのやりとりが、まるで狂った世界にいるかのように感じた。姉が何を言っているのか、まったく理解できない。頭の中で過去の記憶を何度も確認するが、確かに自分はずっと男性として生きてきた。学校も仕事も、全て男として振る舞っていたはずだ。

しかし、姉は全く信じる様子がない。

「ちょっと、ストレスとかで変な妄想に囚われてるんじゃないの?誰もあんたのことを男だなんて思ってないよ。何かあったなら、ちゃんと休んだ方がいいよ。」

「違うんだ、俺は本当に…」

声が詰まり、言葉が出なくなる。これ以上何を言っても、姉には伝わらないことが分かってしまった。電話越しに、姉が心配そうに「大丈夫?」と聞いてくるが、その言葉が余計に辛く感じた。

「…もういいよ。なんか、ごめん。」

そう言って電話を切ると、部屋の静けさが戻ってきた。

自分の存在が、まるで嘘のように崩れ去っていく感覚が襲ってくる。家族ですら、自分が男性だったことを否定している。誰も信じてくれない。

ソファに深く沈み込みながら、どうすればいいのか分からないまま、ただ呆然と天井を見つめた。
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