パラレルワールド

廣瀬純七

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変わらない家族、変わった自分

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どうにか制服を着ることに成功した俺は、まだ違和感だらけのスカートの裾を気にしながら、ゆっくりと階段を降りた。  

「……なんか変な感じだな」  

階段を降りるたびにスカートがふわっと揺れるのが気になって仕方ない。さらに、ブラジャーの締め付け感が気になり、胸元を無意識に引っ張ってしまう。  

そんな状態のままリビングに入ると、キッチンのテーブルには見慣れた二人がいた。  

「おはよう、美紀」  

「早く食べないと遅れるぞ」  

そこにいたのは、俺の母さんと父さん――のはずだった。  

「……え?」  

俺は思わず足を止めた。  

母さんはエプロン姿で朝食を準備しながら微笑んでいるし、父さんは新聞を広げながらコーヒーを飲んでいる。何も変わらない、いつも見ていた光景。でも、何かがおかしい。  

「……おはよう?」  

恐る恐る挨拶をすると、母さんはにこりと笑った。  

「珍しいわね、そんな変な顔して。まだ寝ぼけてるの?」  

「いや……」  

違和感の正体がわからないまま、俺は席に座った。テーブルの上にはいつも通りの朝食――ご飯、味噌汁、焼き魚、卵焼き。何も変わっていない。  

なのに、俺の体だけが"田中美紀"になっている。  

「……なあ、母さん」  

「ん? なあに?」  

恐る恐る聞いてみる。  

「俺……いや、私って……」  

自分のことを「俺」と呼ぶのが不自然な気がして、咄嗟に「私」と言い直した。でも、それすら違和感がすごい。  

「何言ってるの?」 母さんは不思議そうに首をかしげる。  

その横で父さんが新聞をめくりながら口を開いた。  

「朝から妙なことを言うな。美紀どうしたんだ?」  

「……っ!」  

心臓が跳ね上がった。  

「……ちょ、ちょっと待って! 俺……いや、私は……」  

思わず声を上げたが、父さんも母さんも特に驚くことなく、ごく普通の顔をしている。  

「美紀、何か変よ? まるで記憶がないみたいな……」  

「大丈夫か? 今日は学校休むか?」  

「い、いや……」  

俺は言葉を詰まらせながら、自分の手をじっと見つめた。  
どう考えても、これは夢じゃない。  

俺の体は"田中美紀"になっているのに、俺の家族は何も変わっていない。  
まるで最初から、**俺が"田中美紀"として生きていた世界**のように振る舞っている。  

「……これ、マジでどうなってんだ……?」  

俺はフォークを持つ手を震わせながら、混乱の中で朝食を口に運んだ。  
目の前にあるのは、間違いなく"俺の家族"のはずなのに――。
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