4 / 39
変わらない家族、変わった自分
しおりを挟むどうにか制服を着ることに成功した俺は、まだ違和感だらけのスカートの裾を気にしながら、ゆっくりと階段を降りた。
「……なんか変な感じだな」
階段を降りるたびにスカートがふわっと揺れるのが気になって仕方ない。さらに、ブラジャーの締め付け感が気になり、胸元を無意識に引っ張ってしまう。
そんな状態のままリビングに入ると、キッチンのテーブルには見慣れた二人がいた。
「おはよう、美紀」
「早く食べないと遅れるぞ」
そこにいたのは、俺の母さんと父さん――のはずだった。
「……え?」
俺は思わず足を止めた。
母さんはエプロン姿で朝食を準備しながら微笑んでいるし、父さんは新聞を広げながらコーヒーを飲んでいる。何も変わらない、いつも見ていた光景。でも、何かがおかしい。
「……おはよう?」
恐る恐る挨拶をすると、母さんはにこりと笑った。
「珍しいわね、そんな変な顔して。まだ寝ぼけてるの?」
「いや……」
違和感の正体がわからないまま、俺は席に座った。テーブルの上にはいつも通りの朝食――ご飯、味噌汁、焼き魚、卵焼き。何も変わっていない。
なのに、俺の体だけが"田中美紀"になっている。
「……なあ、母さん」
「ん? なあに?」
恐る恐る聞いてみる。
「俺……いや、私って……」
自分のことを「俺」と呼ぶのが不自然な気がして、咄嗟に「私」と言い直した。でも、それすら違和感がすごい。
「何言ってるの?」 母さんは不思議そうに首をかしげる。
その横で父さんが新聞をめくりながら口を開いた。
「朝から妙なことを言うな。美紀どうしたんだ?」
「……っ!」
心臓が跳ね上がった。
「……ちょ、ちょっと待って! 俺……いや、私は……」
思わず声を上げたが、父さんも母さんも特に驚くことなく、ごく普通の顔をしている。
「美紀、何か変よ? まるで記憶がないみたいな……」
「大丈夫か? 今日は学校休むか?」
「い、いや……」
俺は言葉を詰まらせながら、自分の手をじっと見つめた。
どう考えても、これは夢じゃない。
俺の体は"田中美紀"になっているのに、俺の家族は何も変わっていない。
まるで最初から、**俺が"田中美紀"として生きていた世界**のように振る舞っている。
「……これ、マジでどうなってんだ……?」
俺はフォークを持つ手を震わせながら、混乱の中で朝食を口に運んだ。
目の前にあるのは、間違いなく"俺の家族"のはずなのに――。
25
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる