8 / 39
変わらないクラス、変わった自分
しおりを挟む結衣と他愛ない話をしながら学校へ向かい、正門をくぐる。
校舎の外観も、昇降口の並びも、何もかも見慣れたものだった。
「……ほんとに、全部そのままなんだな……」
結衣に悟られないように、俺は内心の動揺を押し殺しながら靴箱の前へ。
いつものように靴を取り出そうとして――手が止まる。
「……美紀、どうしたの?」
結衣が不思議そうに首を傾げる。
俺が開けようとしていたのは、"田中健太"の靴箱だった。
だけど、その名前はどこにもない。
代わりに、少し横にある"田中美紀"と書かれた靴箱が俺のものだった。
そこには、小さくて可愛らしいローファーがきちんと並べられている。
(やっぱり……完全に"俺"は存在してないんだな……)
軽く息を飲みながら、美紀としての靴を履き、結衣とともに廊下を歩く。
途中ですれ違う生徒たちの顔ぶれも、昨日までと変わらない。
そして、教室の前に立ち、扉を開けた。
「おはよー!」
「美紀、おはよう!」
「おはよう、美紀ちゃん!」
クラスメイトたちが、いつも通りのテンションで俺――"田中美紀"に挨拶をしてくる。
(……マジかよ……)
教室の風景は、見慣れたものだった。
席の並びも、机の落書きも、窓から差し込む光も――何もかも、昨日まで俺がいた教室と同じ。
でも、決定的に違うことが一つだけある。
俺は"田中健太"ではなく、"田中美紀"としてこの空間にいる。
男子たちは俺を"女子のクラスメイト"として扱い、女子たちは親しげに笑いかける。
まるで、最初から俺が"美紀"だったことが当たり前のように――。
「……お、おはよう……」
ぎこちない笑顔で返事をしながら、俺は自分の席へ向かった。
座った場所も、昨日までの俺の席と同じ。
ただし、"田中健太"としてではなく、"田中美紀"として。
(俺、本当にこのまま"美紀"として過ごすのか……?)
そう考えると、得体の知れない不安がじわじわと胸を締め付けてくる。
だが、考えている暇はなかった。
「ほら美紀、席ついてついて!」
結衣が俺の机をポンポンと叩きながら、笑顔を向ける。
「今日の1時間目、数学だからね! 宿題見せてね!」
「……う、うん……」
俺は深く息を吸い、なんとか平静を保とうとした。
**――変わらない世界で、変わった自分として過ごす。"田中美紀"としての1日が、本格的に始まろうとしていた。**
32
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる