パラレルワールド

廣瀬純七

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変わらないクラス、変わった自分

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結衣と他愛ない話をしながら学校へ向かい、正門をくぐる。  
校舎の外観も、昇降口の並びも、何もかも見慣れたものだった。  

「……ほんとに、全部そのままなんだな……」  

結衣に悟られないように、俺は内心の動揺を押し殺しながら靴箱の前へ。  
いつものように靴を取り出そうとして――手が止まる。  

「……美紀、どうしたの?」  

結衣が不思議そうに首を傾げる。  

俺が開けようとしていたのは、"田中健太"の靴箱だった。  
だけど、その名前はどこにもない。  

代わりに、少し横にある"田中美紀"と書かれた靴箱が俺のものだった。  
そこには、小さくて可愛らしいローファーがきちんと並べられている。  

(やっぱり……完全に"俺"は存在してないんだな……)  

軽く息を飲みながら、美紀としての靴を履き、結衣とともに廊下を歩く。  
途中ですれ違う生徒たちの顔ぶれも、昨日までと変わらない。  

そして、教室の前に立ち、扉を開けた。  

「おはよー!」  

「美紀、おはよう!」  

「おはよう、美紀ちゃん!」  

クラスメイトたちが、いつも通りのテンションで俺――"田中美紀"に挨拶をしてくる。  

(……マジかよ……)  

教室の風景は、見慣れたものだった。  
席の並びも、机の落書きも、窓から差し込む光も――何もかも、昨日まで俺がいた教室と同じ。  

でも、決定的に違うことが一つだけある。  

俺は"田中健太"ではなく、"田中美紀"としてこの空間にいる。  

男子たちは俺を"女子のクラスメイト"として扱い、女子たちは親しげに笑いかける。  
まるで、最初から俺が"美紀"だったことが当たり前のように――。  

「……お、おはよう……」  

ぎこちない笑顔で返事をしながら、俺は自分の席へ向かった。  
座った場所も、昨日までの俺の席と同じ。  

ただし、"田中健太"としてではなく、"田中美紀"として。  

(俺、本当にこのまま"美紀"として過ごすのか……?)  

そう考えると、得体の知れない不安がじわじわと胸を締め付けてくる。  
だが、考えている暇はなかった。  

「ほら美紀、席ついてついて!」  

結衣が俺の机をポンポンと叩きながら、笑顔を向ける。  

「今日の1時間目、数学だからね! 宿題見せてね!」  

「……う、うん……」  

俺は深く息を吸い、なんとか平静を保とうとした。  

**――変わらない世界で、変わった自分として過ごす。"田中美紀"としての1日が、本格的に始まろうとしていた。**
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