パラレルワールド

廣瀬純七

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田中健太の存在

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授業が始まったものの、俺の頭の中は混乱の渦だった。  

クラスメイトの顔ぶれはまったく同じ。  
学校の景色も、結衣の態度も、俺が"健太"だった頃と何も変わらない。  

ただ――俺だけが"田中美紀"になっている。  

(俺は昨日まで田中健太だった……でも、この世界の誰もそれを不思議に思ってない……)  

もしかして、俺のことを"健太"として覚えているやつがいるんじゃないか?  

そんな淡い期待を抱きながら、休み時間に結衣へそれとなく聞いてみることにした。  

「ねえ、結衣……」  

「ん? なに?」  

結衣は俺の机に頬杖をつきながら、のんびりとノートを開いている。  

「田中健太って……知ってる?」  

俺はできるだけ平静を装って尋ねた。  

すると、結衣は「ん?」と首を傾げてから、ぽんっと手を打った。  

「田中健太? ああ、美紀の従兄弟でしょ?」  

「……え?」  

一瞬、何を言われたのか理解できなかった。  

「ほら、前に会ったことあるよ? 小さい頃に一緒に遊んだって言ってなかった?」  

「……そ、そうだっけ?」  

「あれ? 美紀、忘れちゃったの?」  

結衣は軽く笑っているが、俺の心臓はドクンと跳ねた。  

(田中健太が……俺の"従兄弟"?)  

"田中健太"という名前がこの世界に存在するのは間違いない。  
でも、それは俺のことじゃなくて、この世界では"田中美紀の従兄弟"として認識されている。  

(やっぱり……この世界は俺が知っているものとは違う……?)  

ここは"俺が女の子になった世界"なんじゃなくて、最初から"田中美紀"が存在している世界?  
そして、本来の俺――田中健太は"従兄弟"として別の存在になっている……?  

(じゃあ……俺はどこから来たんだ? もしかして、俺は違う世界から来た……?)  

脳裏に"パラレルワールド"という言葉がよぎる。  

別の世界線の俺が、ある日突然"田中美紀"になってしまった――そんなSFじみた考えが、今の状況を最も合理的に説明できる気がした。  

(……マジでどうなってんだよ、これ……)  

「美紀?」  

「えっ?」  

気がつくと、結衣が不思議そうに俺を覗き込んでいた。  

「どうしたの? なんか変な顔してるけど……」  

「い、いや……なんでもない!」  

俺は慌てて笑って誤魔化した。  

「そっか? まあ、いいけどさ~。それより宿題見せてよ!」  

「……うん、分かった……」  

俺はノートを開きながら、考え続けていた。  

(この世界では、俺="田中美紀"……そして"田中健太"は俺じゃなく、"従兄弟"として存在している……)  

(これって、完全にパラレルワールドじゃないか……?)  

もしそうなら、俺が元の世界に戻る方法なんて、あるのか……?  

そんな疑問が、じわじわと胸の奥に広がっていった。
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