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人生初の女子トイレ
しおりを挟む午前の授業が終わり、昼休みになった。
俺はまだ"田中美紀"としての生活に慣れず、頭の中がぐちゃぐちゃだったが、そんなことを考えている暇もなく、結衣が俺の腕を引っ張った。
「美紀! お昼の前にトイレ行こ!」
「えっ……?」
一瞬、心臓が止まりかけた。
女子トイレ。
当たり前だけど、俺は今まで一度も入ったことがない。
そりゃそうだ。俺は昨日まで"田中健太"だったんだから。
だが、この世界では俺は"田中美紀"。
トイレに行くなら当然、女子トイレしか選択肢はない。
(マジかよ……どうする……!?)
「ほら、行こ!」
考える間もなく、結衣に腕を引かれ、俺は仕方なく立ち上がった。
逃げることもできず、そのまま女子トイレの前まで連れてこられる。
"女子"のマークがついた扉が目の前にある。
普段なら絶対に入れない場所。
だが、今の俺は――"女子"として扱われている。
「美紀、何してるの? 早く入ろ!」
「え、えっと……」
「あー、まさかトイレ我慢してる? ダメだよ、ちゃんと行っとかないと!」
「そ、そうだね……」
仕方なく、俺は意を決して女子トイレの中へ足を踏み入れた。
――そこは、俺の知っているトイレとはまったく違う世界だった。
まず、全体的に清潔で、ほのかにいい匂いがする。
鏡が大きく、洗面台にはかわいいポーチを持った女子たちが並んでいる。
そして、個室しかない。
(あたり前か……男子トイレとは作りが違うもんな……)
「美紀、奥空いてるよ!」
「う、うん……」
俺はぎこちなく個室の扉を開け、中に入る。
そして、そっと鍵をかけた。
(……ふぅ……)
個室の中で、俺は思わず深いため息をついた。
(マジで、俺……女子トイレに入っちゃった……)
現実感がなさすぎて、頭がクラクラする。
でも、この状況を受け入れるしかない。
(よし……落ち着け……今は"美紀"なんだから、普通にしないと……)
覚悟を決め、俺は恐る恐る"女子としてのトイレの使い方"を考えながら、人生初の"女子トイレ"を経験するのだった。
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