パラレルワールド

美紀の執念

俺は、美紀（兄の体）が手のひらで転がしている小さな水晶玉をじっと見つめた。  

（……こいつ、本当に**三年間も**この水晶を握りしめて寝てたのか……？）  

思わず、ぞくっとする。  

「お兄ちゃんになるために**三年間**ずっとこの水晶を握りしめて寝てたんだよね！」  

美紀（兄の体）はそう言って、満足そうに微笑んでいた。  

（いや、執念が凄すぎるだろ……。）  

俺は改めて、美紀の願望の強さを思い知った。  

普通、人間はそこまで**一つの願い**を持ち続けられるものか？ しかも、叶うかどうかも分からないようなものに対して……。  

「でも願いが叶うのは**三年後**になるよ！」  

美紀（兄の体）はさらっと言ったが、**三年間も願い続けることができた執念**が本当に恐ろしい。  

（もし、これが偶然じゃなくて、本当に水晶の力だったとしたら？）  

俺は自分の手のひらを見つめる。  

（俺が元の世界に戻るために、**あと三年待つことになるのか……？**）  

それを考えると、気が遠くなりそうだった。

### **結衣の訪問**  

今日は土曜日で学校が休みの日。朝食を終えて自室で考え込んでいると、突然玄関のチャイムが鳴った。  

「美紀ー！ 遊びに来たよー！」  

結衣の元気な声が聞こえる。    

「はーい！」と仕方なく美紀の声で返事をして、玄関に向かう。  

ドアを開けると、結衣が興味津々な顔で立っていた。  

「ねえ、健太と美紀は今日はどうなっているの？」  

「……どうって？」  

「ほら、また入れ替わってるんじゃないかって思って！」  

結衣はじっと俺（美紀）を見つめる。  

「で？ 今日の中身は誰？」  

（さすが結衣、鋭いな……！）  

俺は少し迷ったが、隠しても仕方ないと思い、ため息をついて答えた。  

「……俺だよ。一人っ子の健太だよ！」  

すると結衣は目を輝かせて、「やっぱりね！」と嬉しそうに言った。  

「じゃあ、今日は色々と**美紀の体での生活**を楽しんでみようよ！」  

「おいおい、俺は遊びでこの体になったわけじゃないんだけど……」  

「いいじゃん！ せっかくの**貴重な体験**なんだから！」  

結衣はワクワクした様子で部屋の中に入ってきた。  

（なんか嫌な予感がする……）  

俺は不安を感じつつも、結衣の好奇心に付き合うことになりそうだった——。

### **結衣の確認**  

美紀の部屋に入るなり、結衣は興味津々に俺たちを見比べた。  

「えーっと、今日は……」  

結衣は腕を組みながら、じっくりと観察する。  

「つまり、妹の美紀が兄の健太になっていて——」  

結衣の視線が俺に向く。  

「一人っ子の健太が妹の美紀になってるのね！」  

「……まあ、そういうことになるな。」  

俺（美紀）はため息をつきながら答えた。  

「うわー、ややこしい！」  

結衣は額に手を当てて、わざと大げさなリアクションをする。  

「で、どう？ 兄の健太になった気分は？」  

結衣は美紀の体ではなく、兄の健太の体になった美紀を見つめる。  

「すごくいい感じ！ 昨日までずっと憧れてたお兄ちゃんになれたんだもん！」  

兄の健太の体になった美紀が、ちょっと誇らしげに胸を張る。  

（そんなに嬉しいものなのか……？）  

「じゃあ、健太——いや、美紀になった健太は？」  

今度は結衣が俺（美紀）のほうを覗き込んでくる。  

「……俺はまだ慣れない。むしろ、**いつ元に戻れるのかが不安**だ。」  

正直な気持ちを言うと、結衣は「そっかー」と頷いた。  

「でも、**二人とも楽しそう**だね！」  

「いや、俺は楽しんでるわけじゃ……」  

「そんなこと言って、**ちょっとは面白がってるでしょ？**」  

結衣はニヤリと笑った。  

（……まあ、全く面白くないとは言わないけどさ。）  

結衣の言葉に、俺と美紀（兄の体）は微妙な顔で顔を見合わせたのだった——。