セックスチェンジアプリ2

廣瀬純七

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恋人の結衣

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 日曜日の午後、大学のカフェテリア。人がまばらになった時間帯、斎藤結衣はテーブルの上のカフェラテをじっと見つめていた。スプーンを指先でくるくると回しながら、彼女はスマホをちらりと見る。

 最後に和也からLINEが来たのは、三日前の「バイトで遅くなる、ごめん」の一文だけ。

 その前も、既読だけで返信がなかったり、スタンプ一つで会話が終わったりと、ここ数週間ずっとこんな調子だった。

(あの人、こんなに不器用だったっけ?)

 和也と付き合ってもうすぐ一年になる。もともと口数は多くないけれど、誰かに何かを誤魔化すような人ではなかった。だからこそ、最近の連絡の薄さが妙に引っかかる。何かを隠しているような、あるいは“距離”を置かれているような感覚。

 その日もLINEの通知は来ない。ついに結衣は、我慢できずメッセージを送った。

---

**ゆい:ねえ、最近全然連絡ないけど……忙しいの?私、なんかした?**

---

 送信してから1分、2分と過ぎても、既読はつかない。

 (見てないのかな、それとも……見たくないのかな)

 そんなふうに考えてしまう自分が、情けなく思える。以前なら、映画の話題や課題の相談、ちょっとしたお菓子の写真なんかで、毎日のようにメッセージを送り合っていたのに。

 まるで、和也の中から自分という存在が、少しずつ“フェードアウト”していってる気がする。

 そのとき、カフェテリアの入り口に見慣れた姿が現れた。和也——ではない。けれど、彼によく似た輪郭を持つ、見知らぬ女子学生がいた。ぱっちりとした目元、すらりとした体つき、カジュアルだけど品のある服装。どこかで見たような顔立ち。

(……あれ?誰……?)

 結衣は目を細める。女子学生は、どこか所在なげにフロアを見回したあと、カフェラテを買って窓際の席に座った。まるで、和也が好みそうな席の選び方だった。

 (なんか、変な感じ……)

 その正体を知らぬまま、結衣はまたスマホを開いた。そして、未だ既読のつかない画面を見つめながら、小さくため息をついた。

---

 その日の夕方、かずは——いや、和也は、家庭教師の準備として単語カードを整理していた。

 頭のどこかでは、「結衣から何か来てるかもしれない」と思っていた。でも、スマホを開く気になれなかった。

(今の俺は“かずは”として、人と向き合ってる。中途半端に“和也”に戻ったら、何もかも崩れそうで怖い)

 そう自分に言い訳しながら、彼は“恋人”の存在を画面の向こうに置き去りにしていた。

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