セックスチェンジアプリ2

廣瀬純七

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体の異変

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 その日、和也はいつも通り“Re\:Form”のアプリを起動し、変身準備を整えようとしていた。

 画面には、これまでと変わらない「性別変更開始」のボタンが表示されていた。特に警告もアップデート通知もない。

 しかし——。

「……ん?」

 変身完了の表示が出た瞬間、違和感があった。全身を包む感覚がいつもより重く、喉元にかすかな痛みすら残る。そして、鏡に映った“かずは”の姿は——ほんのわずかに、違って見えた。

(……顔が……少し、やつれてる?)

 肌の艶が落ち、目元にうっすらとクマのような影ができていた。普段の“かずは”はどこか幻想的なまでに綺麗な顔立ちをしていたが、今日はどこか「人間臭い」。

 和也はアプリの画面を確認した。

 画面の下に、これまで表示されたことのない小さなアイコンが一つ、赤く点滅している。

《使用時間が累積制限を超過しました。回復には実時間で48時間の未使用期間が必要です。警告:身体への影響が現れる可能性があります》

「……は?」

 頭が真っ白になった。これまで何度も変身を繰り返してきたが、こんな警告は一度もなかった。和也は慌てて“Re\:Form”の設定メニューを開いた。

 そこには小さな文字で、こう記されていた。

> 【利用規約:特殊変化機能について】
> 一定期間内に変身時間が累積48時間を超えた場合、変身時の身体・精神負荷が増大します。
> 継続使用により、下記のリスクが発生します:
> ・元の姿への復帰困難(不可逆性の兆候)
> ・外見や声の不安定化
> ・対象人格との意識混濁

「ふざけんなよ……そんなの最初、どこにも書いてなかっただろ……!」

 けれど思い返せば、アプリをインストールしたとき、和也は利用規約を流し読みすらしていなかった。軽い遊びのつもりだった。好奇心から始まった“変身”。それが、いまや自分の人生そのものに深く根を張っている。

 その日、佐々木家での家庭教師の最中も、和也の頭はずっとその表示が離れなかった。

「かずは先生、今日……ちょっと疲れてる?」

 陸が心配そうに尋ねる。

「あ、ううん。ちょっと寝不足だっただけ」

 笑ってごまかしたが、身体は正直だった。喉が少しだけ掠れており、頬の筋肉にもわずかな張りを感じる。

(これが“負荷”ってやつか……)

 和也は、陸のノートを見るふりをしながら、心の中で問いかけていた。

(俺は……これ以上、“かずは”で居続けて、何になる?)

 楽しかったはずだ。誰にもなれなかった「理想の自分」、誰かを助け、誰かに好かれた“かずは”の姿。でも、それを保ち続けるには、**自分自身を削るしかない**。

 その帰り道。スマホの画面を見つめる指が震えていた。

 アプリの通知には、さらに冷たい文章が追加されていた。

> 【次回変身までに48時間の猶予を取らなければ、“不可逆変身”が発生する可能性があります】

「不可逆……って、戻れなくなるってことかよ……」

 和也はスマホをポケットに投げ込むようにしまい、冷たい夜風の中を歩き出した。

 “かずは”でいる時間は、もう自分の一部だった。だが、それに浸かれば浸かるほど、元の“和也”は霞んでいく。

 自分はどこへ向かっているのか。この道の先に、戻れる場所はあるのか——

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