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フィリーネ12歳 魔術講師編 後
しおりを挟むはっきり言おう。お嬢様は馬鹿だが勉強はできる人だった。
知識を一つ披露すればそれをどんどん吸収し自分の物にしていく。
そのついでと性格矯正をさせる名目で毒舌をさく裂させ、彼女のバカ高い自信もへし折っていく。そうしないとすぐに調子に乗るから。
故に、この授業形式を始めて三ヶ月が経ったが屋敷内をかなり騒がせてしまっていた。
お嬢様がそのなけなしのプライドを守るため、何かと私を懐柔し鞭を緩めさせたがるのだ。
そして私はそれを拒否し却下し下げ落とし、思い通りにならなかった彼女は癇癪を起こした。この繰り返しである。
家柄も、彼女の容姿にも、お金も、珍しい異国のお菓子も、美しく稀少な宝石も、ドレスも、良縁にも釣られない私に業を煮やした彼女は
「学力勝負を致しましょうっ!わたくしが勝ったらもう少しわたくしを敬い誉め称えなさい!そして課題を減らしわたくしに相応しい対応をすること!」
と高々に宣戦布告しそれに面白がって乗っかった公爵様直々書き下ろしのテストをを以て挑みかけて満点の私と95点だったお嬢様という結果であっけなく潰えた。
いやまあね、私の方が三つ年上ですし。年上のプライドもあるし、平民村出身とは言えども今は公爵家で勉強させて貰っている身だから知識も段違いに増えている。
貴族の高等教育は素晴らしいなとほとほと感心していたし、親の研究者気質が引き継がれていたのか、私は自主学習で様々な分野の本にも手を出していたからそれが当たっただけなのだ。
でも実力勝負に持ち込んだことは褒めてあげよう。たまには褒めることも良いだろう。
事実彼女は努力を怠ることはせず、魔法も当初に比べて理解も進んでおり多少の魔力を操れるようになった。及第点にはまだ早いですが。
がっくりと項垂れてソファーに凭れている彼女は全く淑女には見えないが、周りのメイド達も忠言も無しに和やかな目でそれを見ている。
今までだったら癇癪をあげる彼女のご機嫌を取ろうとお菓子を用意したり授業を切り上げさせようとしたりしていたのだが、見守る様にと私が言い含めた。
「家やお金や周りに頼らず実力で勝負を挑むようになったことは評価しますよ。」
はあ、と溜息交じりに発した言葉に褒められたがりのお嬢様はガバリと顔を上げた。
しかし相変わらず表情を変えない私に途端に眉を下げる。分かりやすいな、と思いながらも間髪言わせず言葉をつづける。
「貴方が困った事態に陥り誰かを頼るとき物を言うのはあなた自身です。
お嬢様は金で物を言わし部下を増やし、不正だと露見した時に見放される愚かなお父様と、今の様な実力(と謀略)で地位を築き沢山の部下に慕われ不正だと露見しても無実を訴えて貰えるお父様とどちらがいいですか?」
「も、勿論後者よ。没落は嫌だもの」
「そうでしょうね。減点です。」
「なんでよっ!」
「ですが選択は間違いではありません。お金で買った友情という物は同時に見限りをつけやすい消耗品です。そして同時に恨みや妬みも買いやすく暗殺没落謀略のリスクも増やしますしそれ目当ての人間ばかりが集まり破滅に追い込むこともあります。
今までの貴方はそうでしたね。どうですか?これを教えた今でも私を友人としてお金で、ドレスで、お菓子で、地位で買いますか?」
またもやソファに崩れていた様子を見降ろしわずかに目を細める私に、お嬢様はぐったりした声でもう金輪際誰にもしないわよ、と答えた。
「よろしい。物わかりのいいお嬢様は好きですよ。些かプライドが高すぎますが」
「もう十分に折られたわよっっ!これ以上何を折るというの!」
すっかり崩れていたかと思っていたがまだ息が残っていたらしい。静かに続きそうなお嬢様の言葉を待つ。
「毒舌冷徹冷血漢な貴方のお陰でメイドの優しさが身に沁み始めるようになったし、疲れて食べるご飯が美味しいと感じるようになってシェフにも感謝するようになったし、暑い時も寒い時も私たちの為に庭を整えてくれる庭師にはお礼にと新しい手入れ道具をさしあげたり、格差なんてもう気にならなくなって王立図書館では平民のお友達もできたわ!殿下にもいいご令嬢になったと褒められたわ!」
「そのお友達は?宝石を与えたり、自分の身分に調子に乗ってその殿下に会わせてやってもいいなどと言っていませんか?言いましたよね?」
図星だったのか彼女は喉を詰まらせて押し黙った。今の高慢ちきお嬢様の友人になろうだなんて己のメリットが無い限り平民がそうそう付き合う訳がないだろう。良くも悪くも彼らは現金なのだ。明日の生活なんて誰もが心配なんだから。
「お嬢様が家付きの人たちに感謝を覚える様になったからと言って調子に乗らない事ですね。
折るべきところがまだ残っていたのはわかりましたか?家の中を改善したなら次は外に決まっているでしょう。」
「…そうね…」
「お嬢様はまだ対外的には自分本位でベラベラと喋りがちです。正直貴方のそんな自慢事なんて誰も聴いてません。聞いても実になりませんから。そうやって褒めて褒めてと上から言うのも減点です。馬鹿っぽく見えます。」
「馬鹿ですって…!?」
「そうやってすぐ怒るのも減点です。貴方は貴族のご令嬢で更には次期王妃と言われているのです。怒るなと言いませんが淑やかに笑い己の感情を悟らせず、己の情報は多く晒さず相手に気付かせない様に手玉に取ってください。貴女に次に必要なのは眼と器量ですよ。」
魔術もそれに然りである。感情のままに振る舞う事で他人を傷つけることもある。
お嬢様は本当にあの父親の娘なのかと思うほど直情的で、それ故に魔力にブレが生じやすく魔法が成立せずに失敗という形になっている。
その失敗が今は可愛い物だからいいが高位魔法を覚えてしまった後、感情ゆえに魔法が暴走したら?
お嬢様の持つ高密度な魔力によって練り上げられた魔法を止められるのはこの国でも片手で数えられるほどの人間しかいない。何かがあって、その場に駆けつけてからでは対処は遅い。
その為にも周りを見極め、害を排し、健やかでいて物事を静かにこなせるようになってもらわねばならないのだ。この授業を請け負ってしまった私の未来の平穏のためにも。
「たった三か月ですよ。私のスパルタ教育に一年耐えてから物を言ってごらんなさい」
三か月でここまで折れたのだから一年後にはすっかり理想の令嬢と化してるだろう。元々要領はいいのだから掴みも早いし下手したら半年もすれば折り目正しい令嬢になってるかもしれない。
とりあえずその平民のお嬢さんにはお嬢様からの報酬を諦めて貰うとしよう。お嬢様の手で、きっぱりと。ちなみに私はまだ登城できないので着いていくなどはしません。他国の人間ですし?
「さあお嬢様、道徳の授業は終わりですよ。次は魔術元素の授業です。王太子を支える妃になりたいのでしょう?今日も魔術への理解を深めましょうね」
「うううう休憩が欲しいわ…!心が酷く傷ついた!」
「お嬢様は大人しい時が一番集中できますからね。休憩は却下です」
「うわああん悪魔!冷血漢~~!」
「どうとでもいいなさい。行きますよ」
およそ12歳と9歳とは思えない会話を繰り広げ、魔術でお嬢様を勉強部屋へ引きずるのだった。
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